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側近たちの会議

大陸の果てに位置する魔王城。その最上階に位置する漆黒の間にて、今まさに魔王軍の最高幹部たる"死天王"たちの会議が執り行われていた。

最高幹部たちが密室でどんな舌戦を繰り広げているのか……魔王軍に所属する魔物たちの多くが、その内容に興味を抱いている。

しかし死天王の会議は魔王軍のトップシークレット。その内容を知ることは決して許されない。それがたとえ、死天王の側近たちであってもだ。


「死天王の皆様が漆黒の間に入られてから三時間か……」


魔王城の下層に位置する部屋で、数体の魔物が会議の終わりを待っている。

彼らは死天王の側近である。その力は死天王にこそ及ばないものの、彼らもまた魔王軍の主力を担う幹部ばかり。

死天王の側近クラスが前線に出れば、ひとつの町が一夜にして消滅するとまで言われている。この部屋に集まっているのもまた、人類が一目見るだけで卒倒してしまうほどの面子であった。


「きっと我々には考えもつかないような権謀術数が弄されているのであろうな」


そう呟いたのはアークヴァンパイアの女性、リューシである。

彼女は死天王【"陶酔"のコレッタ】の側近であり、身も心も彼女に捧げた熱狂的な信奉者でもあった。

コレッタに対する感情は忠誠を超えて信仰に等しい。もしもコレッタが望めば、リューシは魔王にさえ喜んで歯向かうだろう。

魔王軍にありながら、魔王ではなく死天王に忠誠を誓う魔物。死天王の側近には、そういった"危険分子"ばかりが揃っている。


「フヒヒ……議題は当然、マルラ様を手にかけた勇者の処遇についてでしょうな……いったいどんな報復がなされるのやら……いやはや、怖い怖い……」


死天王【"収穫祭"のウィガ】の側近、ビバンタンの笑い声が響く。

その声は若者のようでもあり、老人のようでもある。男性のようにも、女性のようにも聞こえる。

ビバンタンは無数のゴーストが結合したアグリゲートという魔物だった。その不気味な笑い声には、聞く者の生命力を削る危険な呪いが籠っている。


「……その不愉快な笑い声をやめてくれませんか。耳が腐り落ちてしまいます」


ビバンタンに眉を顰めたのは【"無数"のマルラ】の側近、デスナイトのズールである。

「耳が腐り落ちる」という言葉は比喩ではなく、ズールの耳がぼとりと机の上に落ちていた。しかし彼は慣れたことだと言わんばかりに、平然と耳を拾って元の位置にくっつけた。

ズールは系統で言えばゾンビの一種であり、防御面に関しては幹部クラスの中でも最弱に近い。しかし主人のマルラがそうであるように、体の一部が欠けた程度ではなんのダメージを負うこともないのだ。


「おお、これは失礼いたした。ズール殿は相変わらず体が弱くていらっしゃる……」

「ビバンタン、僕に喧嘩を売っているつもりですか?」

「やめなさい二人とも。誉れ高き死天王の側近たる我らが、このようなことで言い争っていては品位が疑われます」


部屋の空気がピリついている。それもまた比喩ではない。

彼らのような上位の魔物が一か所に集まることで、発散された魔力が空気を震わせているのだ。


最高幹部しか入れない漆黒の間とは違い、この部屋には一般クラスの魔物たちも同席させられていた。

一般クラスとは言っても、魔王城への立ち入りが許されたエリート魔物たちではあるが。しかしそんな強力な魔物たちでさえ、気を抜けば気絶してしまいそうなほどの威圧感が側近たちから放たれていた。

側近でさえこの迫力……。もしも普通の魔物がなにかの間違いで漆黒の間に足を踏み入れてしまったら、恐怖で昇天してしまうかもしれない。多くの魔物たちが、そんな想像に震えていた。


「フヒ……それにしても……今回もデュラル様の側近は不参加ですか……」


死天王の側近たちが集まるこの部屋に【"原初"のデュラル】の側近の姿はなかった。

側近たちは定期的に会議を開いているが、どういうわけかそこにデュラルの側近が現れたことは一度もない。


「というか、本当にデュラル様の側近なんているんですか? 僕、一度も会ったことがないんですが」

「わしも長く魔王軍にいるが、デュラル様の側近は見たことがないのう……フヒヒ……」

「デュラル様にも側近がいる……と、我が主コレッタ様はおっしゃっていました」

「ほう……? では、なぜ我々の前に姿を現さないので……?」

「さぁな。死天王の方々の崇高なお考えなど、我々のような凡愚には想像もつかないさ」


実際、側近たちには死天王の考えがまったく読めていなかった。

本日の会議がデュラルの旅行土産を配る会に過ぎないということなど、側近たちは誰も想像もしていない。

漆黒の間では勇者に報復するための残虐な会議が繰り広げられているのだろう……と側近たちは予想していた。死天王たちが仲良く温泉まんじゅうを分け合っている姿など、想像できるはずもない。

ましてや魔王軍のトップに君臨する者たちが「温泉にはキンタマエキスが含まれている」などという下世話な会話を繰り広げているなんて、想像できていいはずがないのだった。

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