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第40話:問いの果てに残る声

儀式は、終わった。


「記録照合の儀」は静かに閉じられ、副記録帳に記された”ヴァルトの存在”は、再審議の対象として、正式に受理された。


神殿は明言を避けたけれど、その場にいた誰もが、──これはただの”訂正”じゃないと、感じていた。


群衆は、静かに立ち去っていく。

けれどその背中には、確かなざわめきが残っていた。


(……何かが、変わった)


──その夜。


町の片隅、風の静かな通りに、ふたり並んで立っていた。


【アメリア】

「……これで、終わり、じゃないんですね」


【リュシアン】

「はい。……ここからが、本当の始まりです」

「君の名前のことも、これから──」


ふと、彼の声が少しだけ低くなる。


【リュシアン】

「……もし、声が届かなかった時のために。報道草稿を、用意していたんです」

「でも──使わずに済みました」

「君の声が、届いたから」


私は、小さくうなずいた。


(……届いた)

(その事実が、まだ少し怖くて。でも──誇らしかった)


【リュシアン】

「リア。一緒に、行ってくれませんか?」

「……父に、会いに」

「僕一人では、向き合えなかったと思うから」



──数日後。


神殿の監視下に置かれた隔離施設。その一室で、ユリウスは静かに私たちを迎えた。


重い扉が音を立てて開き、リュシアンと私は、ゆっくりと中へ足を踏み入れる。


そこにいたのは──かつて王政の報道官として、鋭い言葉で人々を動かしていたはずの男だった。


痩せてはいたが、背筋は不思議と伸びていた。頬はこけ、白髪の混じる髪も粗く結われている。けれど、瞳の奥に宿る光だけは、どこか消え残っていた。


リュシアンの足が、ふと止まる。


ほんのわずか、彼の肩が揺れたのを、私は見逃さなかった。


【ユリウス】「君が……リュシアンを、支えてくれたのか」


声はかすれていたが、はっきりと届く強さがあった。


私は少しだけ目を伏せて──それから、しっかりと頷いた。


【ユリウス】「……ありがとう。あの子は、きっと……ずっと、何かを背負っていたのだろう」


リュシアンの視線が動いた。けれど、すぐに逸らされる。


【ユリウス】「私には……もう、あの子に何かを言える資格はない。 でも、それでも……君たちが来てくれたことに、救われる気がする」


──言葉は交わせなかったけれど。その沈黙には、確かな温度があった。



施設を出て、坂道をゆっくりと並んで歩く。

その途中で、ふとリュシアンがつぶやいた。


【リュシアン】

「……君の声は、僕のためじゃなく、君自身のものだった」

「でも──あのとき、君が”記してくれた”ことで、僕もようやく……向き合えたんです」

「だからこれは……僕自身の声でもありました」


彼は少し照れたように笑って、そのまま、やさしく言った。


【リュシアン】

「……リア。ありがとう」

「……そして、願わくば。これからも君の声が、僕の隣にありますように」


私は、言葉の代わりに、そっと彼の袖をつまんだ。


その手がほどかれる前に──


彼の手が、静かに私の指を包む。

やわらかくて、あたたかな温度だった。


今度は、私のほうから、その指を、少しだけ握り返す。

まるで、何かを約束するように。


(……この手を、離したくないと思った)

(もっと触れていたい。もっと、この温度を知りたい)


(あのとき、あの人が言っていた”咲き始めた花”──)

(今なら、わかる気がする。たしかに、もう香っていた)


風が、ふわりと通り抜けた。その風にのって、甘くてやさしい、花の香りがした。


(──これはまだ、すべての始まり)

(でも、“記されなかった存在”が、“記す者”として。

 ひとりきりではなく──誰かと、手を取って歩き出す)

報道官リュシアン編、残すは後日談となります…!

後日談は9月22日(月)7時公開予定です。

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