表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/41

第32話:静かな変化

手にした綴じ帳が、服の内側からじんわりと重みを伝えてきた。

修道院の門を出ると、空の色はもう夕暮れに近づいている。


(この記録が、ヴァルトさんの”生”を証明できるかもしれない)


そう思うだけで、足取りが自然と速くなった。


向かう先は、報道官補佐として通っていた、詰所。だが──扉を開いた瞬間、ほんのわずかな空気の違和感を感じ取った。


(何かが──わたしたちを”見ている”ような気がする)


【リュシアン】

「……来てくれたんですね」


彼は、机の上に散らばった書類をゆっくりとまとめながら、こちらに目を向けた。紙の束の間から、筆跡の異なる何枚かの草稿がのぞいていた。


【アメリア】

「少し……様子が違いますね。何かあったんですか?」


リュシアンは軽く息を吐き、視線を窓の外に向ける。


【リュシアン】

「最近、些細な手紙にも”念のため”の検閲が入るようになって……。報道の下書きでさえ、あちこちで止められてる。ちょっと、笑えませんよね」


(……やっぱり、何かが動き始めてる)


【リュシアン】

「それに、僕の机。整理された形跡があるんです」

「誰かが探っている。でも、証拠がない限り”何もない”んでしょうね」


私は、胸元の綴じ帳にそっと手を添えた。


【アメリア】

「……だったら、ここでは話せません。この記録のこと──」


【リュシアン】

「家で会いましょう」


立ち上がった彼の手が、一瞬だけ机の引き出しに触れた。そこには、いくつかの書類と──ひときわ目を引く、赤い封筒があった。


リュシアンはそれらを整えるだけで、特に何も言わずに扉へ向かう。


【アメリア】

「それ……」


【リュシアン】

「ただの”備え”ですよ」

「何があっても、ちゃんと届くように。……あなたの記録が、意味を持つように」

「詳細は、まだ言えません。でも、きっと守れると信じてます」


【アメリア】

「わかりました」


【リュシアン】

「君が何を持ってきたのか、きちんと受け取ります」

「──それが、報道官の役目ですから」


【アメリア】

「じゃあ、あとで。リヒテンタール邸で」


【リュシアン】

「はい。先に戻っているかもしれませんが、気をつけて」


私たちはそれぞれ、別の道を歩き出した。けれどその先に重なる記録が、いま静かに、確かに芽吹こうとしていた。


(この記録が、誰かの”生”を証す日が来るなら──その始まりになる)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ