第30話:星の記す夜
【リュシアン】
「今日あの紙を見て、はっきりしました。父は"密約"に触れていた。それを記したから、"消された"んです」
【リュシアン】
「あれがもし、“密約”だったのだとしたら、王も神殿も揺らぐ内容だったはずです。だから──そう思わずにはいられないんです」
彼は深く息を吸い、続けた。
【リュシアン】
「ずっと思っていたんです。僕が"それ、伝えたほうがいいんじゃない?"って言わなければ……父は捕らわれることはなかったんじゃないかって」
沈黙が、夜の空気に染み込んでいく。私は、そっと手の中の菓子を見つめた。すでに冷めかけているけれど、甘さはまだ残っている。
【アメリア】
「あなたの言葉が、お父さまの迷いを超えさせたのなら」
「それは決して"間違い"じゃなかったと思います」
【アメリア】
「お父さまが”頑張るからな”と言ったのは、きっと──正しいことをしようと決めたからです。それは、あなたの言葉があったからこそ」
リュシアンが、ゆっくりこちらを見る。その目に、少しだけ安堵のような光が宿った。
【リュシアン】
「……そう、ですね」
【アメリア】
「私も、記したいんです。"なかったこと"にされてきた想いを」
その言葉に、リュシアンの目がふっと揺れた。
【リュシアン】
「君が記すと決めた言葉が、もし──僕の救いになってしまうとしても」
「それでも、いいんですか?」
【アメリア】
「はい。それが、私の意志です」
「……それで、あなたが救われるのなら」
「それは、きっと──意味のある記録になると思うから」
【リュシアン】
「あなたといると、忘れかけてた筆跡が戻ってくるような──そんな感覚です」
(この人は、わたしに”書かせた”人だ)
(だから──きっと、もう一度、歩いていける)
【リュシアン】
「ヴァルトの証拠、ふたつ見つかりました。でも、"生きていた"証明としては弱い」
【アメリア】
「じゃあ、次に探すべきは」
【リュシアン】
「──ヴァルトが”逃がされた”という記録、です」
夜空を見上げると、星たちが、次なる記録を示すようにまたたいていた。
猫がリュシアンの膝から飛びおり、小さく「にゃあ」と鳴いて去っていく。
まるで、二人の声を応援するかのように。




