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第27話:夜と決意

リュシアンが慎重に額縁を外す。その裏に、数枚の古びた紙が折りたたまれて隠されていた。


【リュシアン】

「これは……」


羊皮紙のような紙に、にじんだインク。


【リュシアン】

「父の筆跡です。……報道記録の草稿、記録には残っていない」

「……文末が掠れてる。肝心な部分が読めない」

「このままだと、提出されなかった”書きかけの草案”です。提出された記録には、ならなかった」


紙面に”密約”の語がうっすらと読み取れる。


【リュシアン】

「──ヴァルトの証言と一致します。やはり、密約は存在していた……可能性が高い」

「あの吸い取り紙に浮かんでいた語句。ここにも、同じ言葉が使われている」

「“密約”は……記録されかけて、封じられた。それが、この草案の正体です」


重苦しい沈黙が降りる。


【アメリア】

「提出の直前まで書かれていたんですね」


【リュシアン】

「でも、きっと”出せなかった”。正しさを貫こうとして……止められたんです」


【リュシアン】

「母の肖像の裏に、これを残していた。父は、僕に見つけてほしかったんでしょうか」

「いや、むしろ……誰にも見つけられないままで、いてほしかったのかも……」


(記そうとしたことが、封じられた)

(わたしと同じだ。記されなかった、存在)

(矛盾していても、わかる気がした。──失った側なら、なおさら)


彼の背に沈む沈黙。私は答えられなかった。ただ、文書の痕跡をそっとなぞるように見つめていた。


書庫に夜の冷気が満ちてくる。それでも私たちは、草案の前からしばらく動けずにいた。


【リュシアン】

「これを提出しても、また握り潰されるかもしれません」


その声は、自分に言い聞かせるようで、私の不安にも重なっていた。


【リュシアン】

「でも……もう知らないふりは、できません」


彼の手が、草案にそっと触れる。まるで、それを失いたくないと願うように。


【アメリア】

「私も、記したいと思っています」


口に出した瞬間、胸の奥がじんと熱を帯びた。


【アメリア】

「“処刑された”とされたあの人が、生きていたこと。彼の証言が、記録として残っていたこと」

「それを認めることは……“なかったこと”にされた”わたし”自身を、もう一度この世界に記すことでもあるんです」

「私は、もう”消されたまま”ではいたくない」


言い終えると、心の中の迷いが、少しだけ静かになった。


リュシアンは、黙って私を見つめていた。その目には、驚きと、尊敬と、どこか戸惑いも浮かんでいた。


【リュシアン】

「あなたは、ただ守られる人じゃない。そういう人だと、思っていたけど……今、確信しました」


言葉の先に続きそうな何かを、彼は飲み込み、ふっと目を伏せた。


【リュシアン】

「今日はもう、行きましょう。夜も深くなってきた」


私たちは、草案をそっと元の封筒に戻す。夜の静けさに包まれた書庫を、並んであとにした。あの封筒を閉じた手の感触だけが、いまでも私の掌に残っている。

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