第25話:あざ笑う声
真実を知ったとき、人は声を失う。
神殿の文書課を出たあと、私はしばらく声を発せなかった。
喉の奥が乾いて、うまく息が吸えない。
(あんなことが、できるなんて)
(記したことが、なかったことにされた)
そのとき、ふいに隣を歩くリュシアンが立ち止まった。
【リュシアン】
「……やっぱり」
彼はしばらく目を伏せて、何かを噛みしめるようにしていた。
【リュシアン】
「前に言った"何かがおかしい"って感覚。……さっきので、確信しました」
「僕が"報道官補佐"、君が"記録官見習い"。父はユリウス、君の家は──」
彼の目が、静かにこちらを見た。
【リュシアン】
「これは"偶然"じゃない。僕たちが"記す側になれるか"を、試されてるんです」
「"親の咎を超えられるか"、上から見られてる」
【アメリア】
「……そんな。じゃあ、私たちがここにいるのは……」
【リュシアン】
「偶然なら、まだよかった。でもこれは……試験です」
("誰かに配置された")
その実感が、ようやく胸の中に落ちてきた。
私たちの出会いも、この調査も、すべてが誰かの思惑の内にあったとしたら。
しばらくして、彼は前を向いたまま、ゆっくり口を開いた。でも、その声には諦めではなく、新たな決意があった。
【リュシアン】
「……父が、何を記そうとしたのか。何に触れてしまったのか」
「それを知りたいんです。今さらかもしれないけど……それでも、知りたい」
彼の声に、個人的な想いが込められていた。
【リュシアン】
「君と、今こうして並んでいる僕が、それを願っているんだと思う」
「構図に組み込まれていたとしても、僕たちの気持ちまで偽物じゃない」
その言葉に、私の胸の奥にも、小さな灯がともるのを感じた。
【リュシアン】
「父の書庫に、手がかりがあるかもしれない。……探すなら、そこからだと思います」
「明日、案内します。……来てくれますか?」
私は迷わずに答えた。
【アメリア】
「……はい。行きます」
夜の王都の空に、小さな星がひとつ、瞬いていた。誰にも記されていない光が、そっとふたりの歩みを照らしていた──




