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第1話:不愉快なバディ・前編

『咎の上に咲く花』

この物語は、「罪とは」「赦しとは」「記録とは何か」を問う、

恋愛×ファンタジー×構造ミステリ。


乙女ゲーム形式のマルチルート構成で、

主人公は6人の登場人物と出会い、

それぞれの“咎”と“記録”に向き合っていきます。


最後には、全ての真実が収束する“構造の中枢”に至ります。


※『咎の上に咲く花―共通話― 』が導入となりますので先にお読みいただくことをお勧めいたします※

(処刑済みの人物が、生きている?)


仮面舞踏会の記録提出を終えた朝。

机の上に、神殿の紋章が押された封書がひとつ置かれていた。


表面には、見慣れない記録番号。

中にあったのは、簡潔な依頼文。


―――

記録の齟齬が疑われる事件について、調査補佐を求む

処刑済とされていた人物(記録No.KR-00772846)についてである

―――


文字を追うたびに、胸の奥を冷たい水がなぞっていく。


(……まさか。わたしと、同じ?)


この国で、“記録されたはずの死”が覆ることなど、あってはならない。

記録はすべてを証明し、秩序を守る礎。

その記録に、もし齟齬があるとすれば──


(どうして、記されない存在になったのか。知りたい)


記録官見習いにできることなど、たかが知れている。

けれど、記録の隙間に触れられるかもしれない。

そう思ったとき、もう断る理由はなかった。


【エルノア】

「……無理に行く必要はない。私から断ることもできる」

「君が”記したい”と思うなら、止めはしない」

「……ただし、慎重に。王都は、記されるべき場所ばかりだから」


その日の午後、王都の集合場所へ向かった私を待っていたのは、すでに任務通達の文書を持った一人の青年だった。静かに佇むその姿に、見覚えがある。


仮面舞踏会の夜──騎士に咎められそうになった私を、少しだけ助けてくれた、あの人。


【通達係】

「王宮直属 報道官補佐、リュシアン・リヒテンタール殿」


淡々と読み上げられる名前と肩書き。彼は一礼し、静かにうなずいた。その所作に迷いはない。任務に慣れている人の、洗練された動きだった。


【通達係】

「記録KR-00772846。王命により、記録調査任務――遂行の命を受けられますか」


続けて告げられる私の立場。


【通達係】

「記録官補佐として、修道院派遣枠より一名が同行します」


(……名は、呼ばれなかった)


そうだった。私は”名を記されていない”身なのだから。記録の中では、まだ、いないことになっている。


静かに一歩前へ出て、胸元で手を組む。視線を感じて隣を見ると、私の隣に立つ彼の端正な横顔に、一瞬だけ微かな影が落ちた。それはまるで、“言いかけた何か”を胸の奥で呑み込んだような、沈黙だった。


任務が正式に告知され、通達係が去っていく。残されたのは、私と彼だけ。風が吹いて、足元の葉がかすかに舞った。


(……これから、この人と一緒に)


改めて隣を見る。整った顔立ち、落ち着いた佇まい。けれど、その目には何か測りかねるものがあった。観察するような、けれど同時に距離を置くような――複雑な光が宿っている。


(仮面舞踏会のときも、そうだった)


助けてくれたのは確かだけれど、それが善意なのか、それとも別の理由なのか、判然としなかった。今も同じ。彼の思考が、どこに向いているのかわからない。


ただ一つ確かなのは、これから私たちは"処刑済"とされた人物の謎を追うということ。

そして、その謎の正体を知ったとき、私たちはもう後戻りできなくなる――そんな予感がしていた。

リュシアン編スタートです!

平日7時頃更新予定です。

第2話もお楽しみに!

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