8話 ミッション モンスターの肉を得る
Lv.7 箱庭世界
スキル Lv.4 木材加工 Lv.1 土木工事
Lv.1 ガーデニング Lv.1 暗闇耐性
Lv.1 石材加工 Lv.2 高笑い
ミッション モンスターの肉を得る
ステータスウィンドウを見て、ローズ・マクダナルは息をのんだ。
「この、ミッションの『モンスターの肉を得る』というのは…」
チラッ
横でスヤスヤと寝息を立てて眠っている、かわいらしいピンク色のトカゲを見た。
「そ、それは早合点というものですわ~!
他に、この箱庭世界に生成されたモンスターがいるかもしれませんもの!」
雨が上がった。
ローズは小声で「ゆっくりお休みあそばせ」とブリリアントに声をかけ、モンスターの捜索をはじめた。
歩く。
「池の中にはいませんわね…」
歩く。
「新しくできた植物ゾーンにもいませんわ…」
歩く。
「砂場も新しく出来たのですわね。
石ばかりで、ここにも生き物はおりませんわ…」
走る。
「どこにも…モンスターは見当たりませんことよ…」
走る。
「入れ違いで私の後ろにいらっしゃいません?
…いらっしゃいませんわね」
走る。
「モンスターさーん!
いらっしゃるならお返事してくださいまし~!」
その時。
ボキッ
「!?キャッ」
履いていたハイヒールの、ヒール部分が折れてしまった。
「そんな、お気に入りのハイヒールでしたのに…」
ショックでしゃがみ込んだ。
仕方なく靴を脱ぎ、トボトボと歩いて切り株へ向かう。
少し雨水に塗れたナッツをかじる。
手にある靴を見た。
お気に入りの、紫のハイヒール。
もっともローズは紫のハイヒールだけで30足以上所有していたのだが。
「…早く、ブリリアントさん以外のモンスターを見つけませんと、安心できませんわ。
靴なんてどうでもよろしくってよ!」
切り株の脇にちょこんと置いて、素足で歩きだした。
こんなことで新しい友人を諦めるわけにはいかない。
――――――――――
球体を何周もした、が。
何の成果も得られないまま、疲労だけを土産に洞窟に戻った。
洞窟の中では、何も知らないブリリアントがまだ眠っている。
「…先程、増えたスキルがあることに気付きましたわ。
暗闇耐性、これは『洞窟探索』をクリアしたときに得たものでございましょう。
すると、この石材加工というのは『モンスターを発見する』をクリアしたときに得たものと考えられますわ」
モンスターを探して歩き回ったとき、今までにはなかった砂や石で構成されている地面を発見したことを思い出した。
「石材加工。
そしておあつらえ向きに置いてある、大きな石…これは…」
彼女の脳内で、大きな石をカットし、それをブリリアントにぶつけ倒すシーンがイメージされた。
「ぴろん♪ みっしょんくりあ モンスターの肉を得る…ってナシナシ!
それだけは絶ぇっ対にナシですわ!」
ブンブンと首を振り、ローズはステータスを確認した。
「最初にこのステータスウィンドウを見たときには、この世界にあるモノ一覧が表示されていたはず…あっ、これでしょうか?」
マテリアル一覧、というタブが増えていた。
そこを指で触ってみる。
木 切り株 木の実 枝 葉
水
草 ロープ草 ジャガイモ ゲーミンググラス
土 大石 小石 砂 洞窟
ファーリザード
「この、ファーリザードというのは…きっとブリリアントさんの事ですわね」
そう考えると他にモンスターの名前はない。
絶望がローズを包んだ。
――――――――――
夕方。
もう少しで世界は夜になる。
吹っ切れたローズは、ドレスの再着用を諦めて体の下に敷いていた。
横になっていた彼女にブリリアントが近づく。
「キャゥ」
「おいでブリリアントさん、一緒に眠りましょう」
体を寄せ合うと、互いのぬくもりを感じる。
こんなことになるなら、名前なんか付けなければよかった、とローズは思った。
ウトウトし始めたその時。
彼女の視界端に、何かがゆらゆらと映る。
「?」
起き上がってそちらを見ると、空がうっすらと、赤、緑、青、黄色、と光っているように見える。
「ステキですわ、オーロラというものかしら?」
近寄ってみると…空が光っているのではなかった。
丸いつぼみを付けた植物が7色にビカビカ光っている。
「元気のよい草ですこと!
夜、このつぼみがあれば寂しくありませんわ!」
真っ暗な夜とこれでサヨナラだ、と思い、つぼみをむしってみた。
ピロン♪ ミッションクリア モンスターの肉を得る
「えっ?」
ビカビカと光るそのつぼみを剥いてみると、中にピンク色の肉がある。
7色の輝きは急速に失われ、植物に包まれているただの肉団子のような姿になった。
「た、確かに植物タイプのモンスターというのもありますわ…!!!!
わたくし、失念しておりましたわ~っ!!!!」
こうしてローズはミッションを無事クリアした。
レベルアップしたせいで地面が振動し、寝かかっていたブリリアントがキャウ!と声をあげて目を覚ます。
その姿を見てローズはオホホッ!と笑った。