7話 ミッション モンスターを発見する
「ホホホ…!
オホホホホッ…!
オオーーーーーッホッホッホッホッホォ!!!!」
勝どきをあげるように、悪役令嬢、ローズ・マクダナルは高笑いした。
彼女は洞窟探索のミッションを無事クリアできた嬉しさで、ひらひらと舞い踊っていた。
スキップしたり、歌ったり、飛んだり跳ねたり回ったり、全身で喜びを表現する。
ふと、おなかがすいたことに気付く。
食べかけの木の実を置いた切り株まで移動する途中、何かを見つけた。
「あらっ?
こ、これって…」
地面から、ミニミニサイズの木が生えている。
間違いない。
「昨日、わたくしがナッツさんをお植えしてさしあげた場所ですわ~!
嬉しい事は続くものですのね、あっ、お水をあげなくては」
それにしても成長の早さに驚かないあたり、ローズは世間知らずなだけでなく普通に勉強不足である。
「早く大きくなって、わたくしに美味しいナッツを提供してくださいまし♪」
数往復して、地面がしっかり水で濡れたのを確認したその時。
彼女の足もとにスリッ…と何かが触れた。
ピロン♪ ミッションクリア モンスターを発見する
「へっ?」
振り返って足を見ると、小型犬ぐらいの大きさの、ピンクの毛の生えたトカゲが草を食んでいる。
「モンスターを発見する…ということは…こ、この生き物は…!!!!」
キャーーーーーーーーーーーッッッ!!!!と甲高い叫び声が、箱庭世界を一周した。
――――――――――
「何事も、外見で判断するのが一番よろしくなくってよ~♪」
「キャウ♪」
ローズは、ピンク色の毛が生えたトカゲをなでている。
ひと叫びして肺から空気を全部追い出し、落ち着いた彼女は、トカゲの可愛さに誘惑され、色々観察した結果『草を食べるだけの平和的なモンスター』という結論に至り、ちょっっっっとだけ、なでてみることにしたのだ。
「ちょっっっっとだけ、ですわ」
ふわ…
「ちょっとだけ、ですわ」
ふわ…ふわ…
「普通にさわってしまいますわ」
ふわ…ふわ…ふわ…ふわ…ふわ…ふわ…ふわ…ふわ…
「オホホホホッ…!」
ふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわふわ
こうして、ローズはピンクの毛のトカゲに懐き、トカゲはローズに懐いた。
「あ~可愛らしい♡
こんなにかわいい子にはお名前を付けて差し上げないと。
そうですわね… … …あなたはブリリアント・カット!
いつもはブリリアントさんとお呼びいたしますわ~!
もしわたくしがあなたの名前をフルネームで呼んだその時は、怒られているんだと察してくださいまし」
「キャウ」
ブリリアントは喜ぶように声を出した。
「わたくしのお友達にしてさしあげますわ。
しかし、いいこと?
下剋上などは許しませんわ。
おわかり?」
ナチュラルに下剋上という言葉が出てくるあたり悪役令嬢である。
一般人は一生のうちに一度も使わないだろう。
空腹も忘れ、草の上をブリリアントとゴロゴロ転がり、この世界に一人きりじゃなくなったことを喜ぶ。
ふと視界に見覚えのない植物群が目に入った。
「レベルアップして、新しい場所が追加されたのですわ!
一緒に行きましょうブリリアントさん。
あなた好みの草があるかも知れませんわ」
ツタのような植物、丸いつぼみを付けた植物、茶色っぽく枯れている葉の植物があった。
ブリリアントはツタのような植物を噛み、ペッ!と吐き出した。
「あらあら、おいしい草はなかったのですね、残念ですわ」
そう言いながらブリリアントの頭をなでた。
サァっと小雨が降ってきたので、ローズはブリリアントを小脇にかかえ、洞窟まで走る。
乾燥させてそのままのドレスの事も忘れ、今は新しい友達で頭がいっぱいだ。
「安心してくださいましブリリアントさん。
ここは探索済みですわ♪」
一時の雨宿りも、背後に恐怖を感じることはない。
知恵と勇気を振り絞って洞窟に挑んで、本当に良かったと思った。
ブリリアントはウトウトしており、そのまま寝てしまいそうだ。
ローズはその様子を見てフフッと笑った。
こんなにかわいらしい生き物は、前の世界でも見たことが無い。
ずっと大切にしていきたい。
ふわふわの毛をなで、そう心から思った。
大切な友人のためにも、もっとこの世界を充実させていかなければ…。
ローズは誓いを新たに、次のミッションをクリアすべく、ステータスオープンですわ!と、小声でつぶやいた。
「…はあああ?
どういうことですのっ!?」
小声でつぶやいた配慮が消し飛んだ。
ミッション モンスターの肉を得る