62話 ミッション …は置いといて、焼成レンガの誕生
箱庭世界54日目。
ローズは枯れ葉を集め、その上に乾燥させた土器とブロックを並べた。
「もし粘土のブロックが焼きあがってレンガ、つまりブリックを作ることが出来れば…お家と暖炉をレンガで作ることが出来ますわ。
挑戦しない選択はありませんことよ~!」
枝を大量に土器の周囲に並べる。
「今回はちょっと工夫してみるのですわ!」
前回の焼成で、火がボウボウと空に向かって伸びているのを見て、火のエネルギーが勿体ないと思っていたのだ。
「山ヒトデさんたちが編み上げてくださったヨシアシのラグに泥を塗り、土器の上に被せてみましょう。
火力が逃げる場所がなくなり、かまどのように効率良く熱を利用できるかもしれませんわ♪」
泥を塗ったヨシアシのラグを、焼成前の土器の上に、傷つけないようにそっと置く。
Lv.3火起こしのスキルでヨシアシの穂に火をつける。
完全に乾燥してライトブラウン色になっているので、ボウボウと火が上がり、枝にもすぐに火が回る。
あっという間に土器と生レンガを赤い炎が取り囲んだ。
「オホホッ!
ここまではよろしいですわね。
追加でくべる枝も用意しましょう!」
少し離れた場所からじわじわと土器を炙ってゆく。
乾燥させながら、薪を外から中へ押していき、直火が当たるようにした。
ヨシアシのラグと地面に敷いた枯れ葉も燃えていく。
空にはモクモクと黒煙が上がった。
「薪をくべ続けなければなりません!」
枝をポイポイ投げ込んでいく。
ヨシアシが焼け落ちてしまったので、前回と同じように長めの枝を土器の上に渡し、上部からも熱が伝わるようにした。
「ちょっとは熱を閉じ込めてくれたようですが、やはり植物で編むとすぐに燃えてしまうのですわね。
やはりきちんとした土器を焼くためのかまどを作ったほうがよろしいのかしら…?」
追加でくべる木を運んだり、無駄に火力を上げ過ぎないよう調整しながら見守ったりで午前中は過ぎていった。
ローズはちゃっかり土器焼成の熱源を利用して昼食のスープも作っていたため、みんなで土器が冷えるのを横目で見ながら昼ご飯を食べた。
――――――――――
午後。
土器が触れる熱さになるまで数時間冷ましておかなければならない。
時間を有効に使うため、ローズはスコップを手に、池から水を引いて溜めておく場所を拡大していた。
畑仕事を終えた山ヒトデたちが土掘りを手伝うよという感じで寄って来てくれたのでその場を任せ、ローズは亜麻を大量に刈り取り、ソリに乗せて戻ってきた。
「わたくし、ツリーハウスの作り方を色々考えましたの。
どうやら木を傷つけるのは良くないと理解いたしましたので…枝からロープで木の板を吊るし、その板を床として壁、屋根を付け足していこうかと。
皆さまはどう思います?」
ため池を拡張していた山ヒトデたちは顔を見合わせ、ふーむというように手を腰に当てたり、首を傾げたりしている。
「オホホ。
わたくしも枝から木の板を吊り下げるのは…なんだかとってもリスキーな感じがいたしますわ。
しかし、あの日のような大雨と洪水はまっぴらごめんですからね、あなたたちもそうでございましょう?
高い位置に家を作るには、宙に浮かべるのが一番なのですわ!」
ローズは刈ってきた亜麻の先端をバサバサと切り捨て、種の部分をよけておく。
亜麻の根元をヨシアシでぐるぐる巻きにして、広げたばかりのため池に漬け始めた。
「ツリーハウスを作るためにはロープが大量に必要になります!
今日から亜麻の量産体制に入り、ジャンジャン糸を作るようにしましょう!
よろしいですわね?」
山ヒトデたちはローズの威勢と声のデカさに説得され、ロープ作りのために働くことを了承した。
亜麻の鞘からタネを取り出し、植えるための畑を広げるためにスコップを振るう。
――――――――――
「素晴らしい出来でございますこと!
ホホホ…!
オホホホホッ…!
オオーーーーーッホッホッホッホッホォ!!!!」
おためしレンガは10個中2個が割れてしまったが、それでも8個はきちんと焼けた。
ローズは試しにレンガ同士をコツコツとぶつけてみたりしたが、丈夫で壊れたりもしない。
「本当に素晴らしいですわ!
早速暖炉…いえ、練習がてら、かまどを作ってみましょう。
ああ、割れてしまったものも適当に粘土でくっつけて再利用すればよろしくてよ♪
復活あそばせ♪」
ゴト、ゴトッと地面に置いてみる。
が。
「ブリック8個では何も作れませんわ~~~~!」
いくらなんでも材料が少なすぎたようだ。
ローズは粘土を彫り出すためにスコップをかつぎ、ソリを引っぱって川へ向かった。
「やることが…やることが多くってよ…!」
こうして約5000年前に人類が発明した焼成レンガを手に入れた。
ブリックは建築材料として世界中で広く使われたが、意外なところだと地面に敷きレンガとして使われ、人類の発展を促してくれた。
人が通る場所は草の発生が妨げられ、自然に土や小石だけの道になっていく。
しかし土が押し固められただけの道は雨天ではぬかるんでしまい、人、馬、ソリ、車輪の通行を遅くする原因になっていた。
晴れても水が引くまで数日かかる場合もある。
ところが、どこかの誰かが石を埋めるアイディアを思いついた。
これなら大雨で土が流出する心配もなく、また石と石の間に水が逃げていくため、水捌けも良い。
さらに、地面が硬くなったことにより得られる反発力が高まり、人も動物も早く歩けるようになった。
ソリや車輪だとその恩恵を最大限にあずかれる。
だが、石には問題があった。
ひとつひとつ大きさが違うため、地面に敷き詰める前に石工が加工して同じぐらいの大きさ、薄さにしなければならなかったのだ…が。
焼成レンガはこの問題を解決した。
同じ大きさ、大量生産が可能、持ち運びも同じ大きさの石と比べると軽く、水にも火にも強く、上に馬や車が乗っても壊れない程度には丈夫。
この素材は今風に言うならソリューション、問題解決能力が半端なく、さらに見た目が良くてオシャレなため全世界の道で見かけることになった。
レンガは家に、橋に、道にと大活躍だったわけだ。
「わたくしが住んでいたマクダナル邸もきっとレンガで作られていたはず。
レンガを制する者は、建築を制する、ですわ~~~!
みごとに邸宅を再現できた暁には、山ヒトデさんたちもご自分のお家を欲しがるかもしれませんわね!
オホホホッ!」
ローズの妄想はさらに広がる。
「ちょっとお待ちくださいまし、もしわたくしがレンガの専売特許を取得したならば、レンガは飛ぶように売れて大儲け…いえいえ、ちょっとちょっとお待ちくださいまし。
まだこの世界には…特許や商売という概念が無いのですわ!」
ローズは自分の会社の刻印が押されたレンガが山積みになっているところを想像した。
0.5ずつずれて、ピラミッドのように積まれた大量のレンガ。
それは焼かれた粘土などではなく、黄金に思える。




