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44話 ミッション …は置いといて、薪小屋を作る-2

翌日。

いよいよ薪小屋の仕上げに取り掛かる。

木材を適当に組み、三角の屋根を作る。

そこに縦、横の木材を足し、強度を出す。

挿絵(By みてみん)

「枠はこのような感じでよろしいでしょうか?」


ローズはヨシアシを束ねだした。

「田舎へ避暑に参りました時、こういう植物で作られた屋根を見たのです。

 きっと雨に強いのでしょう」


これは『茅葺かやぶき屋根』と呼ばれる、世界最古の屋根だ。

ススキ、ヨシなどのイネ科の植物を大量に乗せることが特徴で、とにかく素材の入手が手軽、さらに木の板やトタンなどの硬い素材と違い、雨音がうるさくないというメリットもある。

人類が建築をはじめた初期から、アフリカ、アジア、ヨーロッパ、南アメリカと全世界で草素材の屋根は作られ、かやぶき屋根が使われなかった場所の方が少ないだろう。

また、茅葺かやぶき屋根は古代の遺物ではなく、現代でもアフリカや東南アジアの農村では一般的な屋根として採用されており、ヨーロッパでは見た目のユニークさ、環境保護など様々な観点から見直されはじめている。

日本では伝統的な農村風景の一部とされ、世界遺産でもある岐阜県の白川郷合掌造り集落には立派な茅葺かやぶき屋根の建物がある。

挿絵(By みてみん)

ローズは束ねたヨシアシを頂点に割って乗せ、その下にヨシアシを足し、結んで伸ばしていく。

足したヨシアシのさらに下にヨシアシを足す。

この工程を、濡らしたくない範囲より少し広くなるまで繰り返せば、完成だ。

挿絵(By みてみん)

ピロン♪ Lv.3 植物加工 → Lv.4 植物加工


「か、完成いたしましたわ~っ!

 みなさん、これが薪小屋ですわ…薪小屋…?

 薪小屋にしておくにはちょっと…立派過ぎる建物ではございませんこと?」


種類はなんちゃって竪穴建物たてあなたてもの

地面が掘られて、低くなっている。

短いものの、掘立柱ほったてばしら(地面に直接埋まっている柱。木は腐るので、現代ではログハウスであっても木の柱を直接地面に埋めることは絶対にない)、板ではあるがはり(垂直に立つ柱を、水平につなぐ)らしき木材があり、屋根も乗っかっているだけだが一応ついている。

「まあ、壁は無いのですが。

 間違いなく、箱庭世界にあるただ一つの建築物でしょう。

 …こんな素晴らしい建物に、薪を入れておくのはもったいありませんわ~~~!

 今晩からここで寝ませんこと?」


山ヒトデ3体とブリリアントは賛成する気持ちを飛んだり跳ねたり体で表した。

「オホホッ!

 喜んでいただけて幸いですわ♪」


 スロープを作って入り口とし、ヨシアシのラグを敷いてさっそく皆で寝転んでみる。

「思ったよりも、快適ですわ…!

 風が直接顔や体に当たらないのでいい感じですの」


そよ風は眠気を誘う、という場合もあるが、逆に睡眠を浅くする要因にもなる。

本人が意識していなくても風は人体に影響を与え、脳を冴えさせるからだ。

特に体毛、皆さんの手足胴体に生えた短い毛はセンサーで、風の流れを敏感に感じ取る能力を持っている。

野生の暮らしをしていた頃はその力が大いに役に立ったことだろうが、(強風が吹いている中眠れる心の強い人間も必要だが、ビクビクして浅い眠りしか得られない人間がいち早く危険に気付いたケースも多々あっただろう。多様性は強みだ)現代ではエアコンや扇風機の風にいちいち神経が反応してしまい、寝つきが悪くなるなどのデメリットが目立つ。

なるべく刺激をシャットアウトすることが安眠への第一歩だ。

地面に掘った穴の中は、外部からの刺激が少ないという意味では最高の場所だろう。

「山ヒトデさん達、ご協力感謝いたします。

 賃金をお支払いしますわ」


1体につき2枚の牙製貨幣を渡し、例のごとく1体につき1枚を徴税した。

がめつい。

「薪小屋を作るつもりでしたが、思ったよりきちんとしたお家が作れて大変満足致しました。

 あとは、この世界にレンガが湧いてくだされば、レンガで壁を作ることが出来るのですが…ふあぁ…沢山働いたので疲れましたわ。

 ムニャムニャ…」


竪穴建物たてあなたてものは世界中で発掘される原始的な建物だ。

日本では教科書に竪穴式住居たてあなしきじゅうきょとして載っているが、これは掘られた床と柱を立てた穴が発掘されやすいからで、実際には平地建物や高床建物もかなりあっただろう。

ウクライナでは、約1万5000年前にマンモスの骨や牙で作られた竪穴住居が発見されており、その歴史はかなり古い。


――――――――――


たっぷりお昼寝したローズ達は元気いっぱいだ。

「冬に向けて薪&ナッツ増産計画ですわーっ!」


木を切り倒し、ナッツを植え、木材を木の幹と枝と葉に分けていく。

「わたくし達が力を合わせれば、立派な木造建築を作れるということがわかりましたでしょう?

 これから大きなお屋敷を建てられるように、木材を沢山増やしていきましょう!

 よろしくて?」


山ヒトデ達とローズは一生懸命働いた。


――――――――――


夜。

枝を組み、中央に枯れ葉を大量に入れたものを燃やして、ちょっとしたキャンプファイヤーをしている。

「今晩はわたくしの…じゃございませんでした、わたくし達のお家ができたお祝いですわ。

 ベリーもリンゴも食べ放題といたします!」


山ヒトデ達は喜びのダンスを披露した。

ローズは小屋を遠くから眺める。

「ああ、屋根があるというのは、やはり良いものですわ。

 文化的な生活の一端が戻ってきたような気がいたします。

 実際、そうなのでしょうね…ナーロッパが懐かしいですわ」


青ヒトデがやってきて、ナーロッパって?という顔をした。

「そうですわね…わたくしの故郷がどんな場所かをお話しするのは、少し難しいですわ。

 でも、ナーロッパに伝わる面白いお話はたくさん覚えているので、今夜はそれを皆さんにおはなしして差し上げましょう♪」


オレンジヒトデとライトグリーンヒトデ、ブリリアントもやってきて彼女の話をじっと聞く。

「えーと、昔々、転生してスライムになってしまった男性がおりました。彼は異世界から来て…」


ピロン♪ アチーブメント 『フィクションの共有』


ローズが話し終わると、山ヒトデ達はペチペチペチペチ!と小さなおててで拍手した。

もっと聞かせて、とせがむ。

「それでしたら別のお話を。

 えーと、昔々、転生して蜘蛛くもの魔物に転生してしまった女性がおりました。彼女は異世界から来て…」


ローズが話し終わると、山ヒトデ達はペチペチペチペチ!と小さなおててで拍手した。

もっと聞かせて、とせがむ。

「寝るのが遅くなっては困りますから、今からするおはなしを最後といたしましょう。

 では、わたくしが大好きな恋愛ざまぁ系のお話を…」


いちばん熱心に喋ったお話は、山ヒトデとブリリアントを渋い顔にさせた。

「その反応は何ですのっ????

 ざまぁ系より面白いお話はなくってよ!

 いいですか、恋愛ざまぁ系の素晴らしい所は…」


夜更かしコースだ。

ローズは熱心に恋愛ざまぁ小説の素晴らしさを布教した。

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