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43話 ミッション …は置いといて、薪小屋を作る

箱庭世界32日目。

今日は朝からあいにくの雨。

みんなで集まり洞窟の中で過ごしているが、モノが増えてきて手狭だ。

特に燃やすためのまきや枝、葉が場所をとっている。

「ジャマっけですわ~っ!

 ああ、一刻も早く薪小屋を作りませんと。

 この際、多少適当でもよいですから、なんとか雨だけ防げる小屋を作ってしまいたいのですわ」


山ヒトデ達は夢中になってヨシアシでラグを編んでいる。

その横でローズは枝を手ごろな長さにカットし、ミニチュアの家を作っていた。

頭で色々考えるより、手を動かしたほうがアイディアが沢山沸いてくることもある。

「そうそう!

 そうでしたわ!

 屋根は三角で…まあ、なんてことでしょう。

 わたくし、お屋敷がどんな形をしているのかじっくり観察することなどなかったものですから、建物に『屋根』があることを今、思い出しましたの!」


マクダナル家が治めていた領地では、毎年冬になると結構な雪が積もった。

屋根に乗った雪が自重で落ちるように角度のついた三角屋根だったのだ。

貴族の屋敷だけではなく、平民の家、公共の施設や倉庫、厩舎など全ての屋根に傾斜がついていた。

たかが雪、いくら乗っても大丈夫だろうと思うかもしれないが、雪国では積雪の重みで家がひしゃげたり、最悪潰れることもあるので重要な工夫だ。

日本を含め、世界中の積雪地帯で傾斜のついた屋根が採用されている。

…もっとも最近は建築技術の向上により、ほぼ水平な無落雪屋根が増えており、傾斜のついた屋根は少なくなっていくだろう。


積雪地帯では三角屋根が目立つのとは逆に、乾燥して雨もあまり降らない地域では屋上も活用すべく平らな屋根が多い。

中東、アフリカなどで古代から見られる箱のような建築だ。

洗濯物を干したり、屋上にテーブルやイスなどの家具、荷物を置いて部屋と同じようにスペースを活用できるので無駄がなく、また屋根としてもメンテナンスが楽だ。

「そして…部屋は四角なのです。

 前に作ったお家は柱を3本合わせたので円錐のような形になっておりました。

 あれではお部屋らしくありませんわ。

 そうですわね…四角の家…」


枝をいろいろ組み合わせてみる。

最初はすぐにパタンと倒れていたが、試行錯誤して正方形にすると頑丈になると分かった。

「これ、この形、良いですわね!

 垂直な柱と柱の間を、水平な柱と柱でつなぐのですわ。

 わたくしったら天才過ぎましてよ!」


だが、問題もあった。

「これは、枝を組み合わせたミニチュアですから簡単に作れたのです。

 ガチの柱と柱を組み合わせるには、一体どうすればよいのでしょうか。

 ロープ草でぐるぐる巻きにしても、柱の重さに耐えきれずに落ちてしまうでしょうし…」


30分後。

「フフッ…考えても考えても、なんっっっのアイディアも浮かんでこないのですわ~~~!!!!

 無理…!

 いきなり令嬢に木造建築をさせようという方が 無 理!!!!

 ただ!

 思いついたのは、別に小屋である必要はない、という事なのです。

 最悪、雨を防げるカバーといいますか、雨よけの何かがあれば、木を湿らせずに保存しておくことが出来ましてよ」


前回作った平地建物、前々回作った円錐型テントの経験も生きる。

「今回も地面を掘って、柱の根元は埋めましょう。

 建物で一番危ないのは崩れる事ですから…あのテントめっ…!!

 やはり柱を地面に埋めることで、倒壊の可能性が減ると思うのですわ。

 … … …地面を掘る?」


ピカっと脳内の細胞に電気が走る。

「そもそも、地面を掘って低くすれば、柱が立てやすい、ひいては建築がしやすいのですわ。

 屋根を作り、オオバやヨシアシのような水を通さない素材を置けば雨が降っても薪を守れます。

 イケます!

 薪の保管場所を地面の中に作りましょう!」


地面に何かを埋めて保存する、という発想は人間以外も持っている。

犬や猫やキツネのような野生生物が獲物を土に埋めるように、昔の人間も食料を地面に埋めていた。

食料を保管していた穴を貯蔵穴ちょぞうけつという。

川の近くの水がにじみ出てくる場所に作り、どんぐりのアク抜きに利用するなど特別な役割を果たしていた貯蔵穴もあったようだ。

こっそり作られた、誰かのへそくり的な貯蔵穴もあったかもしれない。

古代人はネズミなどの小動物、昆虫、カビなどと戦っただろう。

そして次第に『食べ物を土の中に保存しとくのダメだわ…』と気付きはじめ、地上の土器、さらには倉庫など建物の中に保存するようになっていく。


ナレーションを聞いたローズが反論した。

「えっ?

 小動物、昆虫、カビ?

 ナーロッパの地下室にはそんなもの湧きませんでしたのよ。

 …まあわたくしは屋敷の地下室になんて行ったことはありませんが。

 使用人たちは、地下は温度や湿度が一定に保たれ、ワインやチーズを保管しておくのに最適な場所だと言っておりましたわ」


その通り。

暑いときには涼しく、寒いときには温かく。

湿度が低い地域においては、地下は便利な場所だ…あるひとつの弱点を除いて。

「あらっ!

 いつの間にかお空が晴れておりますわ!

 さっそく薪小屋づくりを始めましょう♪」


――――――――――


穴を掘る範囲を山ヒトデ達に指示し、その間にローズは贅沢に木を4本切り倒した。

樹皮を剥いで柱に使う丸太を作る。

別の木材から薄い板を何枚も切り出す。

三角柱のようなパーツも作った。

材料を用意し終えた彼女は穴掘りに参加する。

集中してやらねばならぬ作業がある時は、誰も遊ぶことなく、夕方までみっちり仕事をした。


――――――――――


箱庭世界33日目。

植えて7日目になる2色ターニップがもうまん丸だったので、収穫してよく洗い、バリバリとかじっていた。

「この絶妙な青臭さ!

 生臭さ!

 鉄っぽさ!

 えぐみ渋み!

 まさに2色ターニップのお味ですわ~!

 …加熱したいですわね?」


山ヒトデ達はよっぽど美味しかったのだろうか、葉までムシャムシャと食べている。

「あら、2色ターニップは葉っぱまで食べられますのね。

 無駄のない素晴らしいお野菜ですわ」


この2色ターニップの葉は素晴らしい食料だった。

初めてローズと同じ食べ物をブリリアントが口にしたのだ。

「キャーッ!!

 ブリリアントさんがわたくし達と同じものを食べていらっしゃるっ!!!!

 かわいらしいですわぁ~~っ♡」


わしわしと2色ターニップの葉をんでいる。

どうやら柔らかくて美味しいらしく、キャウという鳴き声も心なしか機嫌がいい。

「みなさんで分けられる素晴らしい食料なのですわ♪

 ですが、今は我慢。

 全部抜いて食べてしまわずに、タネを取るためにこのまま放っておいて、成長させて枯れさせなければなりません。

 よいですわね?

 後からたくさん食べるためにタネになるまで待ちましょう。

 抜け駆けは許さなくてよ?」


山ヒトデ達はコクコクとうなずいた。


ゲーミンググラスは大きく成長していたが、茎が膨らんでおらず皮をむいてみると案の定、肉の実がまだなっていなかった。

ジャガイモも、地上に青々とした葉を広げてはいたが、地面を掘ってみると地中には細い根が広がるばかりで実が見当たらない。

「やはり成長速度がその野菜によって違うのでしょう…。

 ここは見守るしかありませんわね」


――――――――――


「わたくしが考えた薪小屋は、とてもシンプルなのですわ。

 まず丸太を立てます」


丸太は重い。

真っすぐに立てろと言われたら、体力に自信のある人間でも一人では難しいだろう。

しかし、斜面を利用することでなんとかなる場合もある。

コロコロと丸太を転がし移動させ、掘った穴に先端が差し込まれるような形にする。

四つ角をスロープ状にしておき、丸太を転がしながら入れ、一番端を少し持ち上げる。

(端が持ち上げやすいというか、少しの力で持ち上がる。多分てこの原理的なアレなんじゃないのかなと思うが、物理に詳しい人に教えてもらいたい)

スコップなどで土を盛り、また少し持ち上げる。

これを繰り返すことで柱は立つ。

かなり重いものでも、斜めに置くことによりに重心が下になって、動かしやすくなるのかもしれない。

もちろん、柱を立てるのに盛った土は後から取り除き、平らにする。


ただこのような事をせずとも、大人数で丸太にロープをかけ反対側から引っぱったほうが何倍も速い。

人の数は偉大だ。

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

「丸太に板を渡すのですわ。

 そして丸太と板を固定するのが…ジャーンっ!

 くさびですわ~っ♡」

挿絵(By みてみん)

オノの頭と柄がグラグラ動かないように、くさびが打ち込まれているのを見たことはないだろうか。

くさびは三角柱の一端が鋭利になった形で、現代では木、石、金属、樹脂など様々な素材で作られている。

大まかに分けて2通りの役割があり、ひとつは石や木に打ち込まれ、割るために使われる。

もう一つの役割が、固定だ。

くさびは原始的な建築材料で、やがてダボ(木や石の内部で継ぎ合わせるための材料)などに派生していく。

もっと言えば、くさびはくぎへと発展し、さらに人類の文明レベルを決定的に変えてしまう世紀の大発明『ネジ』を生み出すことになる。

今の私たちの生活はネジなしにはあり得ない。

現代家屋も、冷蔵庫も、冷蔵庫に入っている食料を作るトラクターも、今この文章を読んでいるPCもスマホも、ロケットも文房具もおもちゃも、すべてネジという発明品の恩恵にあずかっている。

もちろんネジが誕生するのはまだ先のお話。


建築や木工、石工でくさびを見ることは少なくなったが、現代でもドアストッパーとして我々の生活の中で生き続けている。

「それでは、くさびを打ち込んでいきますわよ~っ!」


ローズはスライムを倒そうとした時に作ったハンマーで、くさびをガツン、ガツン、ガツン、ガツンと打ち込んだ。


ピロン♪  Lv.1 ハンマー初心者 → Lv.2 ハンマー初心者


こうして、薪小屋の本体部分が完成した。

挿絵(By みてみん)

こんなに低レベルな挿絵が見られるのは"箱庭世界で悪役令嬢がスローライフ?!"だけ!応援してね (白目)

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