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41話 ミッション 土器を作る

夜。眠る前にウトウトしていた彼女に閃きがもたらされた。

「ミッションをクリアすればまた山ヒトデを召喚できるのでは?」


これで仲間との別れで悲しんでいるヒトデ達を元気づけることが出来るかもしれない。

ならばやることはひとつ。

ミッションクリアだ。


翌朝、ルーティン後にブループリント:土器の作り方をタップし、説明書をもらう。

「さてさて、なんですって。

 まぁ♪

 イイ感じのカゴを作れ、と書いてありますわ!

 あらっ、でもカゴと土器に何の関係があるのでしょうか?」


土器と言われて想像するのは、縄で模様がつけられた縄文土器だろう。

ところで縄文土器はなぜ縄の模様がついているのだろうか。


ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ…

池に生えたヨシアシは1日で復活するとわかったので、毎日刈り取るのが彼女の日課になっていた。

プカプカと池に浮かぶヨシアシを見て、ため息をつく。

「ああ、山ヒトデさんも水に浮く体だったら助かりましたのに…いいえ、死体は水に浮いていたのですわ。

 うつぶせになったまま水をたくさん飲んでしまったことが死因なのでしょう。

 じゃあ、体を起こす助けになる浮き輪があればよかったのですわ」


ローズはナーロッパの動物やモンスターの皮で作られた浮き輪を思い出す。

我々の住む社会にも浮き輪はあるが、その前身としては浮袋うきぶくろが利用されていた。

水を通さない動物の皮に空気を入れ、口を縛ると完成する簡単なものだ。

古代メソポタミア時代、ユーフラテス川を泳いで渡るアッシリア軍が浮袋を利用しているレリーフが現代に残されている。

当然それよりも昔に発明され、多くの人間が水上を移動する助けになっていたのだろう。

「浮き輪ほどきちんとはしておりませんが…ヨシアシも浮きますのね」


長い枝で水中に押し込んでも押し込んでもすぐに浮いてくる。

茎の中に空気があるので強い浮力を持つのだ。

「これで浮き輪を作るというのはよい考えかもしれませんわ。

 わたくしが水泳の練習中に溺れても助けてくださる殿方はいらっしゃいませんし…いつか王子様の作り方のブループリントが手に入るかも知れませんから、それまでの辛抱ですわね♡」


設計図には鍋をイメージしてカゴを編めと書いてあったので、小さめのカゴを作った。

持ち手は付けない。


木でヘラを作って川へ行き、ヘラで粘土を取って浅いザルに入れる。

砂が大分混じってしまったが気にしない。

ブループリント通りでなくても、それっぽく作ればミッションクリアできると2色ターニップで味を覚えてしまった。

「では、これをねて均一にしていましょう」


山ヒトデ達もやって来たので、粘土を少しずつ分け与える。

おのおの切り株の上にオオバを敷き、粘土をこね始めた。

「こーねこね♪

 こーねこねっ♪」


あれほど粘土遊びは卒業したと言っていたローズだったが、いざこね始めると楽しいようで、山ヒトデ達もウキウキで遊び出した。

「粘土を均一に捏ねた後、コロコロと手で伸ばして、ひも状にしていくのですわ♪

 もちろん山ヒトデさん達はお好きな形を作ってくださいまし。

 ウフフ!」


山ヒトデは特定の形を作ることよりも、粘土をこねる触感そのものが楽しいのか、いつまでもぐにぐにと捏ねて遊んでいる。

ローズは用意しておいたカゴを出した。

「ひも状にした粘土をカゴの底の中心に置き、そこから隙間なくぐーるぐると、カゴの形に沿って置いていくのですわ。

 底面が終われば、そのまま側面に貼りつけていくのです。

 そして…!」


粘度の採取に使ったヘラよりさらに小さい、スプーンのような木ベラをシャキーン!と右手に掲げた。

「ヘラで撫でつけて、隙間をなくしていくのですわ」


みな作業に夢中で、あっという間に時間が経過する。

「…ふぅ!

 素晴らしい出来ですわ~っ!」


いきなり『粘土で鍋の形を作れ』と言われても難しいはずだが、ローズは一発で鍋の形を作ることが出来た。

「カゴの内側にひも状にした粘土をくっつけて、段差をなだらかにするだけですから、すぐできましたわ♪

 思ったより『土器を作る』のミッション、チョロいかもしれませんわね!

 オーッホッホッホッ!」


古代の人々は、いきなり土器を発明したわけではない。

先に革袋、植物製の編みカゴ、ヒョウタンやココナッツなど器として使える植物、大きな貝など、さまざまな容器があり、そこから土器の着想を得たのだろう。

だがその中でも最も土器に近かったのが、カゴだ。

つまり、初期の土器づくりにおいてはカゴの内側に粘土を貼り付け、そのまま焼成していた可能性がある。

初期の土器についていた『縄のあと』は、製作途中でどうしてもついてしまう模様だったというわけだ。

何年も土器を作り続け、カゴのガイドなしに土器が作れるようになっても、うまく作れるようにというジンクスで縄のあとをつけたり、『土器にはカゴの模様がついてるものだからなぁ…』と特に深く考えず後から縄を押し付けていたのかもしれない。

もちろん見た目をよくしたり、装飾的な意味で付けられていた可能性が高いが、もしもの話だ。

縄文土器の縄文が、『先人の焼いた土器には縄の跡がついてるから真似しとくか…これがなかったら失敗するかもしれないし』と前例主義でつけられていたとしたら笑える。

「さて、ここからはどうすればよろしいのかしら…?

 『日陰で1週間放置し、乾燥させる』…えっ、1週間!?」


何事にも待ちの時間がある。

こうして洞窟の奥に土器は連れていかれた。


――――――――――


箱庭世界30日目。

木を切ったり、クッションボア対策の落とし穴を広げたり、畑を広げたり。

そしてローズは…ヨシアシの浮きを作っていた。

「簡単な作りですが、浮くはずですわ!」


ヨシアシを丸太ぐらいの太さに束ね、細く裂いたロープ草でしばる。

間隔をあけてしばり、しばり、しばり…両端を植物加工のスキルで切り落とす。

すると本当に丸太のような姿の浮きが完成した。


ピロン♪ Lv.2 植物加工 → Lv.3 植物加工 


持ち上げてみる。

「重いですが、見た面に反して…軽いのですわ。

 ただ持ち上げて海まで行くのは一苦労です。

 引きずっていきましょうか?」


何を当たり前のことをと思うかもしれないが、古代の人は、モノを運ぶ時に引きずっていた。

これに不便を感じ様々なアイディアが出されたことだろう。

動物の皮を敷いて荷物がダメにならないようにする。

カゴに入れてそれを引きずることで、多くの荷物を運ぶ。

そして…

「仕方がありませんわ。

 馬車を作りましょう!」


この世界に馬はいない。

「…引き車をつくりましょう!」


頭の中で車輪を思い描く。

車輪の形があまりに複雑すぎて、はっきりした形にならない。

「くっ…こうなれば…ソリを作りますわよーっ!!」


ソリは雪、氷の表面でだけ利用できると思われているが、車輪が発明される前の荷物はすべてソリで運ばれていた。

土でも草原でも砂上でも岩場でも、どんな地面でもすべてソリである。

昔々はただの樹皮や木の板にロープを付けただけのものだっただろう。

ところがある日、ソリを引く人が『なんか接地面が小さくて引っかかりがないほうが軽く引ける』と気付いた。

こうして板の真下に、1本では不安定なので、安定するように両側に2本のスキー板状の部品が取り付けられた、のかも知れない。

(どうして接地面が小さいほうがいいのか誰か教えて欲しい。物理の時間に、摩擦力が物体と物体の間の接地面にはたらくとかなんとか習った気がするが、まったく覚えていないので解説してもらいたい。荷物の重さが同じでも、接地面を小さくするだけで本当にソリが引きやすくなるんだろうか?)


ローズはLv.2 木工職人スキルを使い、丸太から薄い板を切り出し、横に3枚並べた。

I字型のスキー部分を作り…前の部分をちょっとだけ浮かせて、引っかかりを少なくするのがコツだ。

垂直な面に3つ穴を開け、ロープ草を通す。

「簡易的なソリの出来上がりですわ!」

挿絵(By みてみん)

ヨシアシの浮きを乗せ、ロープ草をつけて引っ張ってみる。

「これで抱えきれない大きな荷物を運べますわ!

 いざというとき両手も空きますし、素晴らしい道具を作れて嬉しいのです~オホホ!」


しばらく引っ張っていると、僅かに軽くなったのを感じた。

後ろを振り返ってみると、山ヒトデ達がソリを押してくれている。

「まぁ!

 なんと心優しいのでしょう!」


ローズの脳内に、10体の山ヒトデを2体ずつ5列に並ばせて、自分が座るソリを引かせるイメージがホワンホワンと想像された。

これだから悪役令嬢に優しくしてはいけない。


――――――――――


ちゃぷ…


「きちんと浮きますわ!」


海にヨシアシの浮きを浮かべてみると、想像以上の浮力だ。

彼女が浮きに両腕を乗せると、胸から上が海面から出る。

「これは素晴らしい道具を作ってしまいました♪

 こうやって手を乗せ、足をバタバタさせれば、脚力が鍛えられていつかは泳げるようになるのですわ!」


山ヒトデ達は波に向かって石を投げたり、砂遊びをしたり、貝を拾ったりして海をエンジョイしていた。

ただ、誰も海水には近寄ろうとはしない。

水が苦手な青ヒトデだけではなく、以前は足を海水に浸けていたオレンジヒトデやライトグリーンヒトデも、水を避けているように見えた。

「(ピンクヒトデさんには大変申し訳ないですが…仲間の死というのは、強力なトラウマを植え付けるとともに…危機回避に対して大きな役割を果たすのですわね)」


残酷だが、世界の仕組みの一端が見えた。

ローズは一生懸命泳ぎの練習をする。

午後の金色の海に、バチャバチャとバタ足の音が響いた。

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