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37話 ミッション …は置いといて、クッションボア討伐-2

決戦の日。

朝のルーティンを終えたローズと山ヒトデ達は、ゆっくり歩きながらダンジョンへ向かう。

この世界の覇権をかけた闘いが、今始まる。

「…いいですわね?

 あなた方はここで見守っていてください。

 おわかりになりました?」


少し離れた場所に、魔物の森の草をちぎって集めた隠れ場所を作ったのだ。

体の小さい山ヒトデが身を隠せば、簡単には見つけられないだろう。

山ヒトデ達は不安そうな面持ちで彼女を見つめた。


ローズは殺意マシマシ黒曜石ジャベリンをぎゅっと握り、覚悟を決めてダンジョンへ侵入する。

少し進むと、壁にかけられた松明たいまつにボッと火が付いた。

「勝手に明るくなってくれるのはいいですわね…とはいえ、こんな湿った石造りの場所に住みたいとは思いませんわ…!」


地面は少しずつ下がっていき、とうとう広いホールのような場所に着いた。


平べったいモンスターが見える。

体色はブラウン、スライムより一回り大きいぐらいのサイズで、ブギィ、ブギィッ、と魔物の鳴き声をあげている。

「間違いありませんわね。

 ダンジョンB1 クッションボア!

 みなぎる悪意!

 悪役令嬢ローズ・マクダナル、失礼させていただきますわ!」


大声の口上に興奮したのか、クッションボアはブギィーーーッッ!と興奮した鳴き声を上げ突進してきた。

ローズは体をひねり、ジャベリンを投げる。

見事クッションボアの顔面に刺さった。

「ピギィーーーッ!!!」


怯んだのは一瞬だけで、すぐに体勢を整え、再びローズめがけて突進する。

ローズはダッシュで出口まで走り、後ろを振り向く余裕すらあった。

日光が見えてくる。

彼女を追い、怒り狂ったクッションボアもダンジョンから出た。


「ハッハッハッハッ… … …ハァーッ!!!!!」


後は練習通りに走り幅跳びをするだけだった。

目印の小石で思いっきり踏み切り、遠くまでジャンプする。


ズサッ!

今までで一番の飛距離が出た。

あまりの衝撃でクツが壊れてしまう程の大ジャンプ、本番に強いのは流石の悪役令嬢である。

後ろを振り向くと…。


ガサガサガサッ、ドサーーーッ!

「フゴッ!?

 ブギィ、ブギィーーーッ!!!」


見事にクッションボアが落とし穴に落ちていた。

その瞬間、草の中から山ヒトデ達がワッ!と出てくる。

成功した嬉しさのあまり、泣いている山ヒトデもいた。

ローズは身をひるがえし、ダンジョン入り口に置いておいたスピアを取って落とし穴をのぞく。

「ブギィーーーッ!!!」


混乱しているクッションボアにスピアを刺す、刺す、刺す。

息を整える暇もなく、酸欠で倒れそうだったが、ここで急がなければ壁を登って出てきてしまう可能性があった。

「ブ、グ、グブィ…」


4本ものスピアを打ち込まれては流石に動けない。

魔物らしい緑の体液を流し、クッションボアは絶命した。


ピロン♪ Lv.1 モンスター解体

ピロン♪ Lv.2 リーダー → Lv.3 リーダー


「ハァ、ハァ、ハァ…や、やりましたわ、この世界は安全ですわ~っ!」


山ヒトデ達はジャンプし、全身で喜びを表現した。


――――――――――


得たばかりのスキル、モンスター解体をさっそく使ってみる。

クッションボアの死体や血液はボワッと消え、代わりに素材が出現した。

「観察眼のスキルで見てみましょう…」


クッションボアの毛皮

クッションボアの牙


「毛皮!

 壊してしまったクツをさっそく直せますわ。

 牙は…すごく大きいですわね!

 体内に埋まっている部分もあったのでしょうが、もう牙が本体みたいなものですわ、コレ。

 でもどうしましょう?

 牙って何に使えばよいのか、よくわかりませんわ…?」


ローズの肩から指先までの長さぐらいある立派な牙だ。

「…とりあえずいただいておきましょう。

 そして、落とし穴の中でクッションボアが暴れたせいで、ヨシアシのラグがめちゃくちゃになってしまいましたわね…これも修理しませんと」


一難去ってまた一難、数日後には次のクッションボアが湧くはずだと、ローズは気を引き締めた。


ピロン♪ Lv.3 観察眼 → Lv.4 観察眼


「あら、最近観察眼を使う場面が多かったからでしょうか、スキルが上がりましたわ♪

 んっ?」


今までは場所や素材の名前だけが見えたのだが、レベル4になったことで短い説明文も見えるようになった。


クッションボアの毛皮 / 衣料品、特に防寒具の材料。ラグ、装飾品、袋など。

クッションボアの牙 / ビーズ状に加工、ピアス、指輪などの装飾品。釣り針。


「これは便利ですわね!

 何が何の材料になるのかが判りやすくてよ、オホホ!

 もっと観察眼のスキルを上げるためにも、常時使いっぱなしにしておきましょう」


――――――――――


特別なことを成し得た日には、特別な食事をとりたくなるものだ。

「数日前に見つけたジャガイモを食べましょう。

 勝利のポテトですわ♪」


愛しのジャガイモの元へ駆けつけた、が…。

「ジャガイモって…このような色でしたでしょうか…?

 緑色になってますわ…」


頼りの観察眼にはこう表示されている。


緑色に変色したじゃがいも /  日光に当たり緑色に変色したジャガイモ、芽が出たジャガイモには天然毒素が含まれており、食べると食中毒を起こす危険性がある。


「えっ???

 なぜ…どうして…勝利のポテトがっ…!!!」


地に手足をつけ、ガックリとうなだれた。

勝利も敗北も、等しく彼女を強くする。


――――――――――


夕方。

残念ながらいつも通りの夕食を済ませたローズは、手に入れたクッションボアの牙を Lv.1 骨角器加工スキルで加工していた。

興味ありげに山ヒトデ達が集まって来る。

「みなさんは、持ち物を交換するとき、どうやっているのですか?」


青ヒトデとオレンジヒトデは、それぞれが持っている袋から小石や貝や葉っぱを出したり、入れたりして、釣り合うと思ったところで相手に渡す動作を見せてくれた。

「なるほど、物々交換、バーターというわけですわね。

 みなさんは…貨幣というものをご存じでしょうか。

 信頼の元に運用される、ありとあらゆるものの交換のためのアイテムですわ。

 実体のないサービスも、形ある所有物も、全てこの貨幣に置き換えることが出来るのです。

 わたくしは、わたくしローズ・マクダナルの信用の元、あなた達に貨幣で賃金を支払いますわ」


彼女は器用に牙から白いコイン大の円盤を6枚彫り出した。


ピロン♪ Lv.1 骨角器加工 → Lv.2 骨角器加工

ピロン♪ アチーブメント 『クロイソス』


「クッションボアの討伐、わたくしの手柄とはいえ、皆さんの尽力あってのものですわ。

 2ゴールドをお受け取りください」


2枚のゴールド (金属は含まれていないが…)を受け取った山ヒトデ達は、おおっ!という感慨深い表情でそれを見つめ、それぞれのスライムの皮の袋にしまった。

「さて、もう一つ。

 わたくしは貴族ですの。

 自慢したくはありませんが…ああ嫌ですわ、お友達でいてくださいますわよね?

 かしこまらないでくださいな。

 何を隠そう、公爵という身分なのですわ、オホホ。

 その貴族とは皆さんが暮らしやすいように環境を整えるのが仕事なのです。

 そのためには、貨幣が必要なのですわ。

 わたくしが暮らしていたナーロッパでは、『税金』という形で、広くお金を集めておりました。

 というわけで、皆さんわたくしに1ゴールドを納めてくださいまし」


山ヒトデ達は入れたばかりのゴールドを袋から取り出し、ローズに渡した。

「ありがとうございます、平民のみなさん」


空に一筋の流れ星。

それを見上げつぶやく。

「ああっ、お父さま、お母さま。

 わたくしこの世界でも、きちんと貴族としての誇りをもって生きることを誓いますわ!」

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