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3話 ミッション 木を切る 木の実を食べる

高笑いのしすぎで空腹も限界に近くなった、その時。

ローズはウィンドウのミッションが更新されていることに気付いた。

「『ミッション 木を切る 木の実を食べる』ですって?」


一本だけぽつんと生えている木の根元に移動し、上を見上げる。

確かに、はるか上に木の実らしきものが見えた。

「ウィンドウさん、あなた、なかなかのやり手でいらしてね。

 木の実を食べるためには、木を切り倒さなければならない。

 木材の伐採などという重労働をわたくしにさせようとするなら、この方法しかありませんわ!」


先程ゲットした木材加工のスキルを使い、木の幹を切りつける。

「魔法と似たようなものですわね、すぐに切り倒せそうですわ」


木の皮にズバッ、ズバッ、と切り込みが入っていく、が。

スキルをまだうまく使いこなせず、1か所だけ集中して切ることができない。

ローズはハァハァと息切れするほど頑張った。

「み、見込みが甘かったようですわ…」


むやみやたらに木を切りつけても効率が悪いと気付いた。

木の表面がボロボロになっていくだけで、時間もかかりそうだ。

「一体どうすればよいのでしょう?

 1か所に集中して切れ目を入れるには…ハッ!」


自分のドレスからリボンを2本取り、幹の下の方に、隙間を空けて巻き付けた。

「リボンとリボンの間を狙って木材加工のスキルを使えば、上手く切り倒すことができるかもしれませんわ!」


作戦は大成功だった。

ローズは一撃一撃に気持ちを込めながら、リボンの間をめがけ、切りつける。

ズバッ、ズバッ、ズバッ、ズバッ…

ふうっ、と息を付き、水休憩。

ズバッ、ズバッ、ズバッ、ズバッ…

半分ほど進んでまた休憩。

おなかが鳴る。

空腹で倒れる前に、なんとか木の実にありつかなくてはならない。

焦りながらも、頑張って木を切る。

メキメキメキメキ!

5分の1ほど幹が残っているのに木は倒れだし、残った幹と樹皮は根元と繋がったまま、ブリッジするように地面へ向かった。

スローモーションのように枝や葉がざわめく。

ローズは慌てて後ろへ下がった。

ド ド ー ン ! 

木は倒れ、小さな箱庭世界が振動する。

「やりましたわーーーーっ!

 ホホホ…!

 オホホホホッ…!

 オオーーーーーッホッホッホッホッホォ!!!!」


悪役令嬢、勝利の高笑いである。


ピロン♪ ミッションクリア 木を切る

ピロン♪ Lv.1 木材加工 → Lv.2 木材加工


――――――――――


コリコリコリコリ…

ローズはさっそく枝から木の実をもぎ取り、かじっていた。

「美味ですわ~!」


ピロン♪ ミッションクリア 木の実を食べる


コリコリコリコリ…

「おいっしぃっ~! 

 幸せですわ~!」


木の実は柔らかく、カシューナッツやマカダミアナッツのように甘く高カロリーな味わいだ。

ナイフもフォークも、手でつまんで食べられるほど細かく砕いてくれるシェフもいないため、丸かじりするしかなかったが…。

「お下品なテーブルマナーをお許しください、お母さま」


そう言いながら、よく考えるとテーブルそのものがない事に気付いた。

コリコリコリコリ…

空腹が満たされ、自然と涙がこぼれる。

「お食事って、こんなに美味しいものだったかしら…」


前にいた世界なら、こんなナッツ見向きもしなかっただろうな、とローズは思った。

ふらつくぐらいの空腹と、自分で一生懸命取った木の実が、食べ物のありがたさを教えてくれる。


彼女の脳内に、食事を無駄にしてきた過去の記憶がよみがえった。

お金を持っていることを見せつけるためだけに、大量のベーグルを買い、川に捨てたこと。

盛り付けが気に入らないという理由で、シェフが作った料理を床に叩きつけたこと。

学食で、王子に優しくされている生意気なリリィの食事にゴミを入れたこと。

「でも、でも、悲しい記憶ばかりではありませんわ!

 ほら、川にベーグルを流したとき、貧民街の者たちが川に次々飛び込んで…ベーグルを拾って…アレは傑作で…した… …わ… … …」


ローズは、今の自分が貧民街の住人よりも貧しい状況にあると気付いた。

「屋敷…ここには屋敷がありませんわ。

 というより、雨風あめかぜを防ぐものが一切ありませんこと…」


地面が震え、箱庭世界がLv.3になる。

ウィンドウに『ミッション 穴を掘る』と表示された。

不吉な風が吹き、ローズの肌にポタっと雨粒が落ちる。

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