26話 ミッション 貝を焼く-2
「さぁ、貝の砂抜きが終わるまでにやりたいことは山ほどありますのよ!」
2回目に植樹した木は、植えてから8日が経っていた。
リボンを7日目に切り倒した切り株に巻き付け、幹の周囲を測って比べてみる。
すると…
「…太くなっておりませんことよ。
つまり、このナッツの木は7日目を過ぎたら成長が止まる、という事ですの?
いえいえお待ちくださいまし、まだ木材には余裕がありますので、観察を続けることとしましょう。
10日目にボーーンと太くなって、中をくりぬいて家にできるぐらいの大木になるかもしれませんわっ♪」
場所を移動し、ベリーの低木とリンゴの木が生えているゾーンに来た。
甘い食べ物をもっと増やしたい!という欲求に基づき、お試しで水路に沿ってベリーとリンゴの種を植えようと考える。
「リンゴはまだ少し小さい気も致しますが、種を取るために収穫してしまいましょう。
半分に切って、ブリリアントさんと分け合いたいのですわ」
リンゴの実を持ち、枝から離れるように引っ張ったり回転させたりするとプチっともぐ事ができた。
「真っ赤でキレイですわ~!
この世界のリンゴはルビーよりも光り輝いておりますことよ」
しかし、肝心のリンゴを半分にする方法がない。
「『フルーツ加工』のスキルも欲しいのですわ。
仕方ありません、ないものを嘆くより、自分で道具を作りましょう。
そうですわね、この世界でナイフの代わりになるものと言えば…ハッ!」
数日前、黒いガラス状の石を怒りに任せて粉々にしてしまったことを思い出した。
「破片に触れただけで指先が切れ、血が出たのですわ。
あの切れ味なら、ナイフの刃として使えるかもしれません!」
ローズは石と砂のゾーンに走り、地面に落ちているガラス状の石を見た。
「そもそも、これは本当に石だったのかしら?
こんな時は…Lv.3 観察眼ですわっ!」
文字が浮かび上がる。
「黒曜石…ああっ!
なんと言う事でしょう、この石はオブシディアン!
本当に宝石でしたのね!」
黒や赤に細かな金色の粒子が輝く、正真正銘の宝石、黒曜石である。
火山のある場所なら世界中のどこにでも落ちている平凡な石だが、破片が鋭利になることから石器として利用されてきた。
刃物としてはもちろん、矢の先端の矢じり、槍の先端の穂など、鋭い切れ味が求められる場所に活用され、多くの遺跡から発掘されている。
火山列島である日本ではあちこちに黒曜石の産地があり、中でも大分県の姫島村にある黒曜石産地は2007年に国の天然記念物に指定された。
「この破片が良さそうですわ!」
以前粉々にしてしまった黒曜石の中から何とか使えそうな破片を見つけた。
次に太い枝を用意し、縦にV字の切り込みを入れ、そこにナイフの刃のような黒曜石を差し込む。
動かないようにロープ草でぐるぐる巻きにすると…
「石のナイフの完成ですわ!」
さっそくリンゴに突き立ててみると、サクッと皮に刺さった。
少しずつナイフを動かしながら、切っている場所に何度も刃を入れ、サクサクサクサクと少しずつ深くする。
半分まで刃が入ったところで力を入れると、パカっと半分に割る事ができた。
「このナイフ、便利すぎやしませんこと?
わたくしったらジーニアス、天才ですわ~!」
リンゴの芯を取り除き、細かく切って種が何粒入っているのか数えた。
10粒入っていたので、芽が出ますように~♪大きくなりますように~♪と歌いながら灌漑用の水路に沿って埋めた。
水路の反対側の土地にベリーも埋める。
池の水を汚さないように水路で手を洗い、半分に割って2つになったリンゴを持ちブリリアントの元へ向かったが…
「キャウ」
案の定、草しか食べないと言うように、そっぽを向かれてしまった。
「オホホ、ならわたくしが頂いてしまいますわ、ごめんあそばせ」
ローズは甘酸っぱい!と騒ぎながらも美味しくリンゴを食べた。
――――――――――
「さてさて、次に気になる事は…これですわ」
ステータスをオープンし、『特別イベント 隕石の落下』の項目を再確認した。
「ボーナスと特別イベントは同じようなものでして?
何かを頂けるなら嬉しいですわ♪」
光る文字をタップすると、ゴオオオ…と空から異音がする。
「えっ…?
な、何なのです?
どういうことなのでしょうか??」
ドオオーーン!!と激しい衝突音がして、地面が揺れた。
「キャァーッ!!
い、隕石の落下って…もしかして…!?」
そう、『特別イベント 隕石の落下』とは、隕石が落下する特別イベントである。
ドオオーーン!!
ドオオーーン!!
「ぶ、ブリリアントさん!
ブリリアントさーーーん!!!」
「キャウ!!!!」
幸運にも、リンゴを分け合った場所からそれほど移動していなかったブリリアントが、短い4本の足をバタバタバタバタと上げ下げしながら駆け寄ってくる。
「一緒に逃げましょう!
…どこに?
ああ、あの洞窟がいいのですわ!」
ブリリアントを抱えたローズは洞窟まで走り、太陽光の届かない奥まで逃げ込む。
「キャウ…」
「お、恐ろしいのですわ~~~!!!!」
ドオオーーン!!
ドオオーーン!!
ドオオーーン!!
箱庭世界が広がる時と同じような地面の揺れが続き、不安が募る。
「こ、このままですと、この箱庭世界が壊れてしまうかもしれませんっ…!
そうしたらわたくし達はどうなるのでしょう?」
「キャウ…」
ドオオーーン!!
ドオオーーン!!
ドオオーーン!!
ドオオーーン!!
「はわわわわわ…」
「キャウ…」
「…」
「…」
辺りはシンと静まり返っている。
「…」
「…」
「…ス、ステータスオープン!」
ステータス画面から『特別イベント 隕石の落下』の項目が消えている。
「…も、もう大丈夫だと思いますわ」
「キャウ…」
ローズと彼女に抱きかかえられたブリリアントは ゆっ… … …くり 洞窟の外に出た。
恐る恐る辺りを見回すと、地面が抉れている場所がある。
土煙と白煙のようなものがモクモク上がり、かなりの大惨事に見えた。
「まあ…!
隕石が落ちると、美しい緑の草地がこのようになってしまいますの?」
「キャウ」
食べられる草が減った、とでも言いたそうにブリリアントは鳴いた。
「あらっ、何か黒っぽいものがありますわね。
抉られた土でしょうか?」
Lv.3 観察眼のスキルを発動させる。
『クレーター』という文字が浮かび、中央にある黒い物体は『鉄隕石』と文字が出た。
「この円形の窪みはクレーターと言うのですわね。
そして、鉄隕石?
隕石なのに石じゃなくて鉄で出来ておりますのね」
観察眼で見た限り、それ以上の情報は得られなかったので、ぐるっと箱庭世界を歩いて回り、被害状況を観察することにした。
万が一、また隕石の落下があった場合でも速やかに逃げられるように、ブリリアントは抱いたままだ。
「ここも…ここにも…こっちも!」
かなりの数の隕石が落ちて来たらしく、草地が穴だらけになっていた。
「どうやら鉄隕石というものが沢山降ってきたようですわね。
食べられるものなら嬉しかったのに、鉄が落ちてきてもどうにもなりませんわ…ハッ!」
ローズはゆっくりと地面にブリリアントを降ろし、海の方へ駆け寄った。
「そ、そんな…!」
砂浜の近くに隕石が落下たらしく、大きなクレーターが出来ていた。
さらに、トレーがひっくり返って砂の上に貝が投げ出されている。
「ああ、飛ばされているだけで、トレーも貝も無事でしたのね。
ジャベリンとスピアは…もしかして落下地点にございましたこと?
まあいいですわ。
真っ黒こげになった木の道具に利用価値なんてありませんものね」
スライムと戦ってくれた武器たちに酷い言い草である。
「さて、まだ絶対に6時間経っていないので、また水を入れて砂出しの続きを…ちょっとお待ちくださいまし。
2、3時間は経っておりますことよ。
『砂抜き』が何なのかは解りませんが、別に時間を半分にしても構わないのではなくて?」
ローズは貝を拾い上げ、焚き火場へ向かった。




