13話 ミッション 火を起こす 肉を石鍋で煮る-2
悪役令嬢、ローズ・マクダナルは、人生初の火事に慌てまくっていた。
木くずに火が広がり、丸太の周囲をぐるりと取り囲んでいる。
「こういうときは、あ、ああっ!
落ち着くことが大切、ですわ、わ、わたくし水魔法が使えますの!」
手をかざしても水は出ない。
この世界では彼女の魔力は封じられていた。
それを忘れるほど動揺している。
「…なら、水を運んでくればいいのですわ!」
池へと走り、水をボウルに入れ、火事現場に急いだ。
焦って運んだせいで3分の1ぐらいに減った水を、バシャッとかける。
じゅっ… …と音がして、火がの一部が消えた。
それを3回ほど繰り返す。
「…わかりましたわ」
よたよたと歩いて、火事の現場から離れた地面に座った。
「これ…もう…無理…!
消火を…断念いたしますわ~!!!!」
ヒザを抱えて、自然鎮火を待った。
悔しくて涙があふれる。
空を向いて、わーーーん、わーーーん、と声をあげて泣いた。
火が付いた瞬間に、靴で踏んで消せばよかったと後悔する。
灰色の煙がモクモクと上がり続けた。
ただ幸運なことに、木くずは乾燥して燃えやすかったが、木の本体はまだ水分をたっぷり含んでおり、また樹皮もついたままだったので少し焦げたぐらいで済んだ。
枝も生乾きだったおかげか、一瞬火に包まれたものの、表面がすすけたぐらいで助かったようだ。
案外、木くずがすぐに燃え尽きてしまったらしい。
それでも彼女は、黒く焦げた地面を見てガッカリした。
「軽率でしたわ。
わたくしの軽率さん…!
大切な木材を失うところだったんですもの…」
赤い火は見えなくなったものの、まだ木くずから煙が上がっている。
「火の用心、ですわ!」
――――――――――
握りこぶし大か、それ以上の大きさの石を丸く並べる。
その中心に、細かく切った木の枝を入れる。
仕上げに、新しく削り出した木くずをたっぷりのせ、火起こしのスキルを使う。
細い煙が上がって、ボッと火が付いた。
ピロン♪ Lv.1 火起こし → Lv.2 火起こし
慌てず、枝を足していく。
とりあえず火起こしには成功したと一安心し、用意してあった石鍋を石の上に乗せる。
すでに水を汲んで用意してあった木鍋から、ゆっくりと水を石鍋に注ぐ。
「オホホホホッ!
失敗は成功の母…いや父でしたかしら?
おじいさんやおばあさんだったかもしれませんわ。
それは置いておいて…。
今回は事前に手順を考え、何が必要になるかをシミュレイションして揃えておいたのです!
さすがわたくし♪」
ローズは順調に火が燃えているのを確認して、すっくと立ちあがった。
「いざ、お肉の調達ですわ!」
――――――――――
ゲーミンググラスが群生している場所に来た。
2日前にもいだ、肉の入ったつぼみが地面に落ちている。
「これを煮ればいいのです…わ… … …」
その時、長年失われていた彼女の野生の勘が息を吹き返した。
動物はみな持っている本能が、この肉を本当に茹でるのか?と訴えかける。
脳内に不安な気持ちを作る物質が分泌され、ローズは立ち止まった。
「この後のミッションが『煮た肉を食べる』だった場合…。
2日前に収穫したお肉を茹でようとするのは…危険かもしれませんわ。
ここにはお医者様もいらっしゃいませんし、安全を期することの方が、食材を大切にする事よりも優先されるはずでしてよ」
ピロン♪ Lv.2 観察眼 → Lv.3 観察眼
スコップもどきで穴を掘り、こそっと肉入りのつぼみを埋めてしまう。
土をかぶせると、何事もなかったかのように立ち上がり新しいゲーミンググラスのつぼみをもいだ。
急いで石鍋の場所に戻る。
かなりの勢いで火が燃えており、危うく木の枝が燃え尽きるところだった。
木を足し、緑色のつぼみを剥いて、中の肉団子を水に入れた。
「まだぜんぜん温まっておりませんことよ」
石は加熱されるのに時間がかかる。
そこからさらに水が沸騰するには、より多くの時間がかかりそうだった。
「浅いお鍋にしておいて正解でしたわ」
追加の枝を切り、どんどん追加していく。
丸く置いた石からはみ出すぐらいに木を足しまくり、石鍋の底だけではなく、周りをぐるりと取り囲むように火を大きくした。
すると…。
「気泡が出てきましたわ!」
細かい筋のような泡が出てきた。
ローズは手を水面に近づける。
しっかりと温かい。
ぐつぐつ沸騰しているわけではないが、これでも十分煮れるはずだ。
蒸発してしまった分の水をコップで足し、火の様子を固唾を飲んで見守る。
十分後。
湯が踊り、石鍋の中のゲーミンググラスの肉がコロコロと動くほど、お湯の温度は高くなっていた。
水面からは湯気が上がっている。
そしてまた十分後…。
ピロン♪ ミッションクリア 肉を石鍋で煮る
「やりましたわーーーーー!!!!」
ローズの喜びにあわせて地面が少し揺れた。
どうやらレベルアップで箱庭世界が大きくなっても、あまり地面の揺れを感じないほどに球体が大きくなってきたらしい。
彼女の中の逞しさも、また一つ大きくなった。




