1話 ミッション 眠る
「ここは…どこですの!?
わたくしは…悪役令嬢!!」
悪役令嬢としての自覚があるローズは、体育館ほどの表面積しかない、大きな玉の上で目覚めた。
「わたくしは毒をあおり、死んだはず…」
周囲をキョロキョロと見まわすが誰もいない。
丸い地平線が異様だ。
ローズから見て斜めに生えている木に近づくと、ちゃんと真っすぐに生えていた。
球の表面積が小さすぎるため、少し離れると斜めに見えるらしい。
「この場所は一体どこですの?
夢?
どなたかー!
どなたかいらっしゃいませんかー?」
ローズの声に反応するモノはない。
数歩進むと、小さな池があった。
のぞき込むと、自分の顔が映る。
「確かにわたくし、世界で一番の美人、ローズ・マクダナルですわ」
世界一の美人(と自負している)ローズは、水面に映った自分の顔を見てほっとした。
茶色の肌、金色の髪。
そして王子の寵愛を一身に受ける恋敵に飲ませるはずだった毒を、自分で飲んだ時に来ていたドレス。
「……ハァ」
ローズは立ち上がり歩き出した。
その時、ピロン♪と可愛いらしい音がして、
アチーブメント 『ぐるっと一周』
と目の前に表示された。
「これは、何ですの…?」
ローズは向こうが透けて見える水色の板に触れてみた。
機械的な音声が流れる。
『ステータスオープンと発声する、もしくは心の中で唱えると、ウィンドウが出現します。
クローズをタッチするか、クローズと発声する、もしくは心の中で唱えると、ウインドウが消えます』
「何のことかサッパリ分かりませんが…モノは試しですわ。
ステータスオープン!」
ローズの目の前に再び水色の板が現れた。
「これが『ウィンドウ』ですの?」
Lv.1 箱庭世界
スキル なし
木
水
草
土
「これは…ここにあるすべてのモノかしら?」
悪役令嬢は飲み込みが早かった。
ミッション 水を飲む 眠る
「ミッション?
これをクリアしろというコトですの?」
ローズは後ろを振り返り、先ほど自分の顔を映した池を見る。
「…魔法で浄化されたキレイな水でないと、口に入れる気がしませんわ~!!」
絶叫が箱庭世界の裏側まで響く。
――――――――――
数時間後。
ノドの渇きだけではなく、空腹も感じるようになってきた。
「おかしいですわ…さっきから魔法が使えませんの…」
ローズはステータスオープンと心の中で呟き、スキルの欄を見る。
「『スキル なし』
こ、これはもしや、わたくしの末は聖女と言われるほどの魔力、魔法の技術を封じられている、ということですの…?
そんな…夢なら覚めてくださいまし…」
がっくりとしゃがみ込む。
「こんな…地面にある汚らしい水を飲めば、病気になってしまいますわ」
池は、そんなことないよ、というように澄み渡り、夕日を反射してキラキラ輝いている。
――――――――――
数時間後。
すっかり暗くなった。
ローズは絶望しつつ、草の上に仰向けになって、空を見上げる。
美しい360°の星空。
「屈辱ですわ…わたくしが、こんな芝生の上で…何も敷かずに横になるとは」
疲労から、いつの間にか眠りに落ちてしまう。
ピロン♪と音がした。
ミッションクリア 眠る