7. 理想気体への適用
当初の予定では、理想気体の場合の数を求めて、対数をとってエントロピーに変換して、エントロピーを微分して気体の状態方程式を求めようと思いましたが、算術が面倒です。ここでは、結果から示して、解法を説明します。(1)のようなことができることを把握していただければ良いです。(2)は算術なので、飛ばして構いません。
(1)理想気体のエネルギーと状態方程式
理想気体のエントロピーSgは、
Sg=N・kB・log[V・E^(3/2)]
です。ここで、添字gは、気体(gas)を現します。
1/T=dS/dE=N・kB・3/2/E (1)
P/T=dS/dV=N・kB/V (2)
(1)より、
E=3/2・N・kB・T (3)
これは理想気体のエネルギーと一致します。
(2)より、
PV=N・kB・T (4)
であり、これは理想気体の状態方程式です。
熱平衡状態では、二つの系のTとPは一致します。従って、理想気体を片方の系とすると、温度計にも圧力計にもなります。以上から、
1/T=dS/dE
P/T=dS/dV
の妥当性は示されました。
(2) 理想気体のエントロピーの導出
気体の体積をVとします。分子の衝突を無視すると、一つの分子が占めることのできる場所は、体積V内のどこでもよいと近似できます。N個の分子が空間を占める場合の数Ω1は、
Ω1∝V^N (5)
で近似できます。
理想気体のエネルギーは、各分子の運動エネルギーの和、
E=Σi pi^2/2m (6)
で与えられます。ここで、和は、i=1〜Nまでとります。mは分子の質量です。piはi番目の分子の運動量です。通常、運動エネルギーεiは、i番目の分子の速度をviで表しますが、ここでは運動量pi=mviで表しました。以下の関係を使いました。
εi=1/2・m・vi^2=pi^2/2m (7)
式(6)の左辺Eは一定です。そこで、(6)を以下のように変形します。
2m・E= Σi pi^2/2 (8)
は、運動量を軸とした、半径√(2m・E)の3N次元の「球面」です。各分子は3次元方向に運動して、分子数はN個なので、3N次元になります。
運動量の分配の場合の数Ω2は、半径√(2m・E)の3N次元の球面の面積に比例します。3N次元の球の体積は、半径の3N乗です。よって、表面積は半径の3N-1乗です。従って、
Ω2∝(2m・E)^((3N-1)/2) (9)
であり、Nは10^23と大きいので、3N-1≒3Nで近似できます。すなわち、以下となります。
Ω2∝(2m・E)^(3N/2) (10)
場合の数のうち、エネルギーE、体積Vに依存する項だけを考えると、
Ω∝Ω1×Ω2
∝V^N×(2m・E)^(3N/2) (11)
となります。エントロピーは、式(11)の対数をとって、
Sg=kB・log[V^N×(2m・E)^(3N/2)]+[E,Vに依存しない項]
(12)
微分において、E,Vに依存しない項は、EやVで微分すると、ゼロになります。従って、これを省略すると、
Sg=N・kB・log[V・E^(3/2)] (13)
を得ます。
(補足)
[E,Vに依存しない項]は、以下の項からなる。(i) 半径√(2m・E)の3N次元の球面の面積Ω2の比例因子。(ii)場合の数は、場所と運動量の面積から導出したが、場所は長さ、運動量は質量×速さの単位を持つ。場合の数は個数なので、単位が合わない。場所の最小長さΔxと運動量Δpには、不確定性原理ΔxΔp〜hとなる。hはプランク定数である。一つの分子につきx,y,zの3方向あるので、N個の分子には、h^(3N)が場合の数の単位となる。すなわち、
Ω=Ω1×αΩ2/[N!h^(3N)] (14)
である。式(11)では、Ω∝Ω1×Ω2比例関係であったのに対して、(14)は統合式である。N!は分子の順列である。αは、3N次元の球面の面積の比例因子である。頻雑なので、ここでは計算しない。
本日の要点
・理想気体の場合の数Ω∝V^N×(2m・E)^(3N/2)
・理想気体のエントロピーSg=N・kB・log[V・E^(3/2)]
・1/T=dS/dE、P/T=dS/dVにて、理想気体の正しい
状態方程式、エネルギーと温度の関係を得る。
すなわち、これまで「定義した」温度と圧力は、
理想気体のものと同一である。
次回は、8. 相転移、です。