3. 孤立系のエントロピー
孤立系とは、物理的に注目している対象が、他の対象と相互作用のない系です。孤立系では、エントロピーは増加します。熱平衡に達するとエントロピーは最大(変化はゼロ)になります。
数式は、既に1. エントロピーに示しました。エントロピーは、与えられたエネルギーがH2O分子にエネルギーを与えることのできる場合の数の対数でした。言い換えると、与えられたエネルギーで実現できる物理状態の数です。統計力学では、実現できる物理状態は全て同じ確率で実現できると考えます。物理的な状況が、時間とともに刻々と変化する場合を考えると、与えられたエネルギーで実現できる物理状態の数が増えるように変化します。これは、乱雑さが増えると解釈されます。分子があらゆるでたらめな状態をとりやすくなるためです。熱平衡で、エントロピーは最大となります。数式で書くと、以下になります。
ΔS(E)≧0
次に、孤立系のエントロピーとエネルギーの関係を述べます。大抵の場合、エネルギーが大きなほど、エントロピーは大きいです。エネルギーが大きいと、アボガドロ数のH2O分子に、たくさんのエネルギーを分け与えることができます。気体のH2O分子は、前後左右上下、あらゆる方向にあらゆるスピードで飛ぶことができ、場合の数Ω(E)が膨大です。しかし、エネルギーが小さくなると、H2O分子に与えられるエネルギーが小さくなります。H2O分子間には引力が働きます。すると、H2O分子は自由に飛行できずに、お互いに集まります。つまり、水になります。更にエネルギーが小さくなると氷になります。氷のH2O分子のH、O原子の場所は定まり、その場所を僅かに振動しているだけで、気体よりも場合の数が少ないです。エネルギーが「最小」になる物理的状態は、一つと考えられ、場合の数Ω(E)=1となり、S=kB・log(Ω(E))=0となります。
エネルギーが大きいとエントロピーが大きな気体に、小さいと固体になる、その中間が水になることを説明しようという訳です。これを決めるには、温度や圧力を定義する必要ががあります。
本日の要点
・孤立系のエントロピーは増加し、熱平衡で最大である。
・物理的に実現できる場合の数が多い方向に自然は変化する。一般的に、これは乱雑な方向に変化する、と言い換えることが多い。
・エネルギーが大きいほどエントロピーは大きい。
・気体はエントロピーが大きく、固体は小さい。
次回は、4. 二つの系のエントロピー、についてお話しします。温度の定義に触れます。
次週末を予定します。
エントロピーが増大する根本的な理由はよくわかりません。イメージとしては、自動車が走行中にタイヤと路面との摩擦で、摩擦熱を失います。これをもう少し検討します、自動車の走行に使われるエンジンの中の燃焼によるピストンの往復運動がクランクシャフトやギアを介してタイヤの回転運動になります。タイヤと路面との摩擦力により、タイヤの回転運動が自動車の走行運動になります。摩擦は、タイヤの表面のゴムと路面の接触により、タイヤの回転に対する路面からの反作用として、自動車を走行させます。タイヤのゴムからも路面からも熱や破片が飛び散ります。飛び散った熱や破片が自然にもとに戻ることはありません。これがエントロピー増大則です。自動車はエントロピー増大の例がたくさんあります。燃料の燃焼により排気されたガスも自然にもとに戻ることはありません。ピストンやシャフト、ギアにおいても摩擦は発生しますね。
さて、摩擦熱は、最後には以下の末路をたどります。タイヤと路面の摩擦で発生した熱は空気や路面を温めます。温めるとは、空気や路面を構成する分子振動を強くします。分子の振動はやがて遠くに広がり、温まった空気や路面はもとに戻ります。
私たちの知る限り、物理の基本法則は、時間反転に対して対称です。時間反転対称とは、時間変数tに対する解において、t→-tとした解も正しい解です。しかし、エネルギーが摩擦熱として分子振動に置き換わった場合には、エネルギーをもとに戻せません。私には、これが「根本的に」無理なのか、「事実上」無理なのかわかりません。物理法則が時間反転対称である以上、分子振動の摩擦熱が再び燃料に戻るのも解ではあります。しかし、一度散らばった分子振動のエネルギーを再びをもらい直すのは到底無理、事実上無理に思います。私見です。