人質尋問
田山は縛られたままだ。
だが、口は動く。
「何だね。君は、救援が遅いよ!それに・・・君は自衛隊マニアか?マズルコントロールがまるで、なっていない。
それに、64式小銃?森の中で?最低89式は欲しいところだよ!」
※マズルコントロール
銃口管理
少女は、田山を観察する。
おかしい。
敵にポーションで治療された形跡がある。
それに彼の態度、まるで、生かされるのが確定していたようだ。
何故?ホークは鹵獲した銃を使わなかった?
異世界の知識では・・ストックホルム症候群?
※ストックホルム症候群
強盗、ハイジャックなどで人質にされた者が、トイレの許可や食事をもらうことで好意を抱き。救援に来た警察などに敵意を持つ行為
(参照wikipedea「ストックホルム症候群」)
少女の観察を、田山は、神妙な面持ちで、自説を聞いてくれているものだと誤認し、更に、舌は回る。
「そのチョイスは最低だ。64式小銃は部品が多い。コウカンが上にあるって、水が薬室まで入る欠陥品だ。脱落防止をしなければいけない銃なのに、君はしていないな?今時、7.62ミリ弾なんて、時流に逆らっている。今回は狙撃で何とかなったようだが、近接戦闘になったら、どうするつもりなのだ?そもそも64式は弾丸の集約機能が優れている。狙撃に使うなんて、ナンセンスだ!
それに、彼らを射殺して・・・衛兵隊に引き渡すだけでも充分じゃなかったか?・・・・」
「ねえ?ネームドさん。あれ、ぶっとばそうか?」
「フランさん。やめなさい。その労力が無駄、貴方の拳の方が大事よ」
・・・それよりも。ギルドの記録だと5人で5つの銃・・・なのに、4つしかない。
「おい、君、銃に触るな。他人の銃にさわるのはマナー違反だ!」
ガシ!
少女は、片手で田山の胸元を掴み持ち上げる。田山の足は浮いた。
少女の体は薄く青く光る。身体強化魔法を、詠唱無しで、無意識で使う事が出来た。
「答えろ!後、1つの銃は?銃の種類、流出した弾の数を!」
「ヒィ、暴力反対だ。M16だ。弾は100発くらい。夜に裏の武器商人が来た」
ホークがこいつを生かした理由は、銃を自分たちで運用しようとしたか、商売をしようとしたところね。
そして、こいつは、銃の・・整備は出来ない。
銃の分解までする整備は、教育が必要。
使った後、必ず分解して、カーボン繊維や、薬莢の金属片などを除去し、軽く油をふかなければ、容易に動作不良を起こす。
「日本での実銃の経験は?」
「それを、君に言う必要は・・・ギャアアアアアア、言います。言います。グアムの射撃場で何回か・・」
そうか。素人か・・残った4つの銃をみればわかる。
外観整備しかしていない。
それに、
「貴方たちの武器の召喚システムは、クエストを達成したら付与されるポイント制。それも、銃が壊れたら、召喚し続けるから、慢性的にポイント不足」
・・・奇襲が成功したのもあるけど、永続的に使えないと判断したから、ホークは銃を使わなかった。
「不良品だ。実銃は錆びないって言っていたけど、普通に錆びる。すぐにジャムる。壊れる!」
ボトッ
少女は、田山を無造作に落す。もう、聞きたいことは聞いたので、興味はなくなった。
次は、フランにたずねる。
「死体の処理は?」
「気にしないで、猟師と、森を入会いで使う農民の仕事だよ。喜んでやるよ」
「そう。お願いがあるの。銃4つ持って欲しい。私は魔獣を警戒する」
「勿論!家に来る?可愛い弟と妹いるよ。お客様をチヤホヤするスキルは絶品だよ」
「・・・うん・・・え?チヤホヤ?」
「そうだよ!一度体験してみなよ」
「ちょっと、縄をほどいて!!銃を持っていくな!」
ポイ
少女は、田山に小さなナイフを投げて渡す。
「冒険者ならそれで、縄を自力で斬りなさい。貴方はそこにいて、ホーク盗賊団の遺留品を監視する仕事をしなさい。
冒険者の誇りがあるのならね。きちんと仕事をしたら、ギルドから礼金がでるように手続きしておくわ」
「嫌だ!死体と一緒だなんて・・衛生的じゃない!」
「もし、ホーク盗賊団の金銭を持ち逃げしたら・・・殺す」
「ヒィ」
☆☆☆マン男爵邸
「メルダ、あのソロの娘は、後4日後に出発するのですよね」
「義母様、それが、もう、討伐が終わったとギルドから連絡が来ましたわ。これから、確認に参ります」
「何ですって!!」
「奥様!辺境伯様が来ています」
「え、何故?」
顔に、傷だらけの老齢の男が、騎士を引き連れて来た。
辺境伯ロイド、この領主の寄親である。
「メルダの義母、アルテレスとその連れ子、ミリーは実家送りだ。ホークが全て話したと証言が出た!討伐の冒険者に最期、全て悔いて話したと言っていたぞ」
「そんな。ホークが・・いえ。事実無根です。その討伐した者は信頼に当たる者ですか?どうせ、流れの卑しい冒険者です。信頼に当たりません!」
ドン!
辺境伯は、足で床をならす。
「フン、あの子は、女神教会の庇護がある。ワシも後見している者を、卑しいだと!冒険者に卑しい者はいない!反逆罪で投獄だぞ!」
「ヒィ、分りました。実家送りで結構ですわ!!!」
「お母様!ドレスいっぱい買えるって話はどうなるの?」
「だまらっしゃい!」
この義母と義妹は、兄夫婦の元で、質素な生活を送ることになる。
・・・フン、やりおる。あの子は、転移勇者と聖女の子、両親が亡くなった後、
士官候補生として、我が陣営の軍監の見習いとして勤務させたが、
一歩、間に合わず。監視する傭兵団の駐屯する村への略奪を止めることが出来なかった。
それを悔いて、ワシの元を離れ、冒険者になった。
まだ、まだ、甘いところがある。
「引き続き監視をせよ」
「「「畏まりました」」」
「ところで、タヤマなる者は、如何しますか?」
「ほっとけ。一から冒険者として出直し、名が売れたら会っても良いだろう」
もっとも、あの年では、プライドを捨てないと難しいがのう。
☆☆☆次の日、旧ホーク盗賊団アジト
女男爵メルダは、護衛に領の衛兵を引き連れ、村人、猟師を連れて、旧アジトまで来た。
「まあ、武器に、大金貨数十枚はありますわ」
「お嬢様、いえ、男爵様、如何しますか?」
「盗賊団が盗んだお金は、キャラバンを襲って得たお金ですわ。商人に補償として返還しますわ。
これから、専従の領兵を育成しますわ。使えそうな武具は、領の武器庫まで運びます。
村人の皆様、ご面倒ですが、死体の処理と、遺留品の運搬をお願いしますわ」
「「「はい!」」」
「・・・あの、私にも分け前を・・」
「男爵様、この男は如何しますか?」
「・・・縄をほどいて、一応、見張りはしてくれたみたいだから、この書類を持って、ギルドに行きなさい」
「ヒィ、たった、大銅貨5枚(5000円)もう、ポイントはありません!武器の召喚も出来ませんよ。そうだ。あの少女は、銃を盗んでいきました!ホークたちのお金を盗んだかもしれません!」
「だまらっしゃい!貴方は未熟で仲間を死なせた!仲間の冥福を祈りなさい!」
「ヒィ」
「そもそもクエストに失敗して鹵獲された武器は、討伐した冒険者のものです。それに・・・」
ホークは帳簿をつけていた。
その帳簿と、金銭は概ね一致していた。
「・・・あの方が、そのようなことをする理由はございませんわ。一言、条件を上乗せすれば良かっただけですわ!」
・・・私は、男爵、領民たちを守る責務があるわ。
ヒソ、ヒソ
「なあ、何か。男爵様、頼りがいありそうになったな」
「もう、お嬢様なんて、呼べないや」
「ゴホン!手を動かせ」
「「「はい!」」
後年、この領を狙う盗賊は現われなかった。
あの少女、アリサが出没したからと裏組織で流れたからと云われている。