外道な奇襲
少女は、クエストを受ける前に、質問をする。
「敵は何人?」
「・・・分りません。しかし、我が領の農民兵100名で討伐し、半数が倒され、断念しました。」
「そう・・・その時は捕虜を取らなかったと・・」
・・・一人の首領が、何の組織の力を借りずに無理なく統率できるのは中隊規模(150人)まで、150人で金貨300枚を分けるとしても、一人2枚(200万円)、大戦が終わって、これで盗賊稼業の終わりとしたら不十分だ。30名で、一人大金貨10枚(1000万円)で・・・
捕虜を取らない。監視するほどの人数がいない・・・か、身の代金が目的ではない。
「あの、座らないのですか?」
「今、考え中、盗賊は30~40名と考えるのが無難・・一個小隊規模、戦闘員は30名・・」
「そして、敵の戦法は、森の中で待ち伏せして。街道には同時並行攻撃を行う。つまり、ゲリラ戦」
「ええ、森の中から四方から矢が飛んできたと言ってましたわ・・」
「何故、銃弾を防いだ・・・土嚢?それとも・・・待ち伏せで一方的な殺戮?・・・敵の脅威度は、『概ね可』か『可』」
「ところで、何故?貴方が領主?お父様やお母様は?」
「母は病気でなくなり。父と兄は、人魔大戦で出征し、戦死をしました。今、現在、当家にいるのは、義母とその連れ子の義妹・・執事と、老齢の使用人しかいません」
「そう・・」
依頼主の家族状況を聞きながら、
少女はしばらく考えた後、
クエストを受諾する。
「成功報酬大金貨10枚・・・それと、一人つけて欲しい。猟師か斥候職、投擲が出来るものが望ましい」
「死ぬかも知れないから、斥候にもそれ相応の報酬を、前渡しで、お願いしたい」
「ええ、分りましたわ。大金貨300枚を用意すると考えれば、安いものですわ」
「訓練もするから、5日後を目安に、討伐に出ます」
☆☆☆
猟師の娘が、1時間以内に来た。
「よろ~、ネームドさん。フランです。健脚のフランだよ」
「猟に出たことは?」
「6歳から、10年間、ほぼ毎日、女の子の日以外は出ているよ」
「危険な魔獣が出没するときは?」
「身をかがめて、ゆっくり動く」
「殺す・・殺されるかもしれないけど、その覚悟は?」
「森に入ったら、そうだよ!お姫様のために頑張るよ!」
「合格!まず。森の要図を書きます」
「うん。分った」
☆次の日、森の中、ホークのアジト
ホークは、森の開いた場所に、天幕を数張建てていた。
夜は、見張り二名、昼は、八名一組で、交互に、街道まで見張る。
彼らは、朝まで酒盛りをしていた。ここにいるのは、20余名と縛られている田山である。
「アハハハハハハハ、ところで、親分、あの鉄ツブテを避ける方法、どこで、知ったのですか?」
「ああ、あれは・・・言いたくねえが、いたんだよ。軍に雇われた時代によ。本物の軍事チートがよ」
「いつも、言っている化け物ですね」
「あれは、3年前、まだ、人魔大戦の真っ最中よ。傭兵はお給金もっと欲しいわけだ」
☆回想
村を襲ったんだ。人族の領域の奪還作戦の時だ。魔族に略奪されたことにすればいいってよ。
その時の隊長が、村を襲ったんだ。
「へえ、魔族は略奪しなかったので?」
「それが、魔族は税金を払えば、ノープロブレム状態だ。はん。人間の方が魔だよ」
だから、手つかずの村娘や。食料庫、村長宅の金庫なんかを狙ってな。
村娘は陵辱し、男は口封じに殺していたんだ。
俺たちは、正規軍の助攻だ。
本隊は、俺たちに構ってられないくらい激戦だったんだ。
イケると思ったんだが、たった一人、参謀本部から、戦況確認にやってきた。
まあ、憲兵だな。
一人だ。
そいつは、12~13歳の少女だ。
奇妙な見た目でよ。
黒髪、黒目で、茶色と、黒、緑の斑模様の服を着ていたんだ。
鉄の馬に乗ってよ。
俺たちを見て、プルプルふるえていた。
最初は、怖くてふるえていると思ったが、大声で言いやがる。
『お前たち、即刻やめて、縛につけ!軍事裁判を受ける権利がある』
笑ったさ。ナンセンスだ。あの少女を殺して口封じをすればいい。
『ギャハハハハハハハハハ、お嬢ちゃんも混ざる?』
『お~い。誰か。小さい子好きな奴いんだろ?ボム、食っていいぞ』
『ヒヒヒヒ、こっちにきな。・・・グハ、ギャ』
バン!
と杖から、白い煙だ出てな。
それから、記憶にねえ。
木と鉄で出来た杖で、
鉄ツブテを飛ばしたんだ。
俺の部隊は200はいたんだがよ。
俺以外全滅した。
奴は、一人一人死体を確認して、数を数えた。狂ってやがる。一人、一人、鼻をそぎ。数え終わった確認の目印にしたんだ。
『198・・・199・・・一人いない・・既に戦死した?一応、撃っておくか』
バン!バン!バン!
奴は、生き残った村人たちを避難させて、人が隠れてそうなところを撃った。
俺の隠れているところまで来たさ。
ガチャン!とドアを蹴飛ばし、開ける音が聞こえた時は、死ぬかと思った。
『ここも、撃っておくか』
バン!バン!バン!
ボチャ、ボチャ、パシャンって音が聞こえた時は死んだと思ったが、
だけど、俺は助かったぜ。
「リーダーはどこに隠れていたんですか?」
「便所槽だ。村人200人分のクソの中に隠れて助かった。その時だ。鉄ツブテは、水分に当たると、勢いが衰えるってな。分った」
「「「うわ」」
「だから、水魔法のウォーターボールしか使えない。輜重兵扱いのズルタンを見つけた時に、使えると思って仲間に誘ったわけだ」
「へへへへ、どうも」
「でもよ。こいつと何が違うわけ」
一人の盗賊が、田山を指さす。
「なんて言うか。甘さがない。それに、ツブテが途切れない。こいつらみたいに、カチャカチャしていないんだよ」
「それ、わかりません」
「ところで、その女の名は?」
「その後、冒険者になったと聞いたな。外道姫とか呼ばれて、その時の逸話からネームドがついた。鏖の・・おっ?伝書鳩だ。豆を用意してくれ」
パタパタ~と鳩が飛んできた。
鳩の胸に、小さな書簡がかけられている。
「さすが、お頭。どことつながっているのですか?」
「言えねえよ。この稼業、依頼主だけは裏切っちゃいけない。裏切らないと評判がついて更に依頼が舞い込む」
「お、冒険者来たってな。一人?どれどれ・・・」
少女の襲撃は漏れていた。
ホークは、書簡を見て、プルプルふるえ始めた。
「・・・お前たち、その・・外道姫が来るぞ!4日後だ!撤退準備だ!」
「え、でも4日後でしょう?」
「金はどうするのですか?」
「また、ほとぼりが冷めたら来ればいい・・・一軍が来た時の手はずだ。
いいか。俺たちは決して弱くもないが、強くもない。それを忘れるな!」
「見張りに連絡だ。警戒ラインを、このアジト付近に後退!今夜は街で寝るぞ!」
その時、警戒ライン最前衛にいるはずの見張りが、向かってくるのが視認出来た。
「おい、もう、誰か言ったのか?」
「いえ」
嫌な予感がする。
「お~い。ヨルどうした!お前は、何故、こっちに来ている!」
観察しろ。今回も生き残るんだ!
ヨルは手をあげ。口をパクパクしている。
背中に何かを背負ってやがる。
「白煙が出ている!弓を持って来い!」
矢がモルの胸に当たる。
バタン!と倒れて、数十秒後、モルは、白煙をあげて爆発をした。
ドカーーーーン
血肉が飛び散り。霧散する。
「襲撃は5日後じゃないのかよ?爆裂魔法の種を仕込んでいたな。・・待ち伏せ攻撃のアドバンテージがなくなった。逃げる」
と決断したが、
バン!バン!
銃声が響き。
数人に、7.62ミリ弾が着弾する。
☆森の中150メートル先
森の中には、草木で、偽装した少女がいた。
伏せ撃ちの姿勢で、ホークのアジトを狙っていた。
(吸う・・吐く・・止める・・撃つ!)
バン!
・・・この広大な森で、見張りを見つけるのは不可能だ。
見張りは緊張を伴う作業、必ず交代する。
だから、獣道をフランさんと共に交代で見張っていた。思ったよりも早く見つける事が出来たが、
これで、終わり?
いや、弾を防ぐ方法があるはずと考える方が無難だ。
「ウォーターボール?と人質?黒髪の男?あれが、田山・・」
少女は、領主に『5日後を目安』と言った。嘘は言っていない。
情報漏洩を予測していた。もしかして、村人と盗賊がつながっているかも知れない等々・・
・・・しかし、あの伝書鳩は・・・貴族のもの?
☆
ホークは、魔道師にウォーターボールを展開させ。
縛られた田山を前面に出す。
【おい!お仲間だろ!こいつの命が欲しかったら、武器を捨てて、出てこい!】
「ウグッ、ウグ~」
「お前からも、命乞いしろよ!」
しかし、少女の出した答えは・・・
「プランD!フランさん。お願い!」
「え、でも、仲間・・」
「仲間じゃないし、テロリストと取引しない。敵に捕まったら死を覚悟する。冒険者の流儀!」
「はい」
話しながらも、手を動かす。彼女は、TNT爆破薬を二つに割り。
雷管を突っ込み。導火線を調整する。
「この魔道具は、1分後に爆破する。着火するよ」
「はい!」
☆
「ほお、雷音が止まった。よ~し、まだ、ウォーターボールを解くなよ」
「おい、娘ッ子が飛び出てくるぜ。何だ。布を持っている。猟師か?」
フランは、思いっきり走り。
布をグルグル回しながら、何かを放った。
弧を描きながら、それはホークに向かってくる。
煙がわずかに確認出来た。
「ズルタン!あれは爆裂する魔道具だ。ウォーターボールで包め!」
「はい!」
1/2のTNTは、ウォーターボールに包まれるが、
「何だ。気泡が出ている・・」
近代の爆破薬・導火線は、酸素が練り込まれ水中爆破が可能だ。
ズドーーーン!
水は高圧で飛び散り。ウォーターボールの壁は消えた。
・・・何故、魔道師はローブをまとって、魔道師です!と分るようになっているのかしら。
始めに魔道師をうち。
次々に彼らを撃った。
パン!パン!パン!
銃声が見えないところから聞こえる。
単発で撃っているが、規則正しく。一発一発が人に着弾する・・・
もう、勝負は決した。
「はあ、はあ、はあ、外道・・・やっぱり、あの時の化け物じゃないか?お前は異世界人だろ?」
「違う。質問に答えろ。何故、襲撃が分った?」
「フフフフフ、そりゃ、答えたら見逃してくれるのかい?」
「楽に殺してあげる」
「どうせ。死ぬんじゃないかよ!嫌がらせだ。言わねえよ」
「・・そう。なら、私も嫌がらせ。略奪免除税の引き渡しに、現領主の令嬢、直々にお金を持ってこさせて、殺害、もしくは奴隷として売って、義母が男爵家を牛耳る。義妹が男爵家を継ぐ絵を描いていた。それをお前が話したことと伝える」
「な、それはやめてくれ!傭兵の流儀だ。契約主は裏切らない。ホークは最期まで傭兵だぁ」
バン!
頭を撃ち抜いた。
最後までお読みいただき有難うございました。




