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まとった鎧にさようなら

 さて皆様こんにちは。


 ウェイクラウド生まれウェイクラウド育ち、精霊をルーツに持つタイプのエルフ(♂)が前世の日本人社畜、水渚吟子です。


 そうこれ、異世界転生TSな状況。


 しかも死んでようやく記憶を取り戻したと思ったら、前世で信仰してた神からノルマを言い渡されました。


 このノルマ、果たさずに死んだら文明が崩壊した地球で人間の赤ん坊からやり直しだそうです。

 前世の特典なしで。


 死に戻りはなし、残機ゼロです。

 なぜもっと早く、生きてるうちに思い出さなかったわたし……。




 まあもう言っても詮ないことです。

 我が神は愛しの故郷の森へと帰ってしまわれました。

 きっと、わたしがピンチなときには指差して笑うために顔を出してくれるでしょう。

 このもどかしい思いはそのときにでもぶつけてやりたいと思います。クソが。




 とりあえずわたしは、苛立つ気持ちを抑えてもらったチートを確認しようとステータスウィンドウを開いた。

 現代人に分かりやすいなんて親切仕様。

 そして絶望した。


 レベル1。


 ほんとにレベル1だった。

 確かにクラフトスキルが欲しかった。

 クラフトスキルをくれと心から祈った。


 だがレベル1はないだろう!!

 ここはひとつ、そっちのチートも開放して、最初っからアイテム取り放題作り放題で良かったんじゃないかなあ!?


 横浜のファッションビルの一角で、わたしは膝から崩れ落ちて泣いた。


 世界崩壊、もしくは新世界誕生から数時間後の事だった。











 2時間ほど前、わたしが目を覚ますと身の回りには何もなかった。


 大勢の人の下敷きになっていたはずなのになぜ、と顔を上げると、わたしから少し離れた先、ビル内はかなりの数のゾンビがウロウロしていた。

 たまにうずくまっているのは何か食べている。なぜ食べてると分かるかって? 音がするからだよ、ワトソンくん。


 うへえ、と顔をしかめて、わたしは自分がこうして無事でいる不思議に気がついた。


 よく見ると、わたしの周囲を囲むように柔らかな光の結界がある。

 完全に蘇生して目を覚ますまで、どうやらサービスで守ってくれていたらしい。

 まあ目を覚ましたら食われてる途中ですでに感染してました、とか話にならんしな。


 とか思ってると『結界が消えるまであと5分』というメッセージウィンドウが出た。

 慌ててエルフ時代の記憶を探って「隠密」と「気配遮断」、「認識阻害」「消臭」「消音」と思いつく限りの隠蔽スキルを使用する。

 結界を張り直してもいいが、そうすると漏れなく周囲のゾンビが集まってくる人気効果までついてくるのだ。

 有名人は目だたたないよう変装するもの。

 わたしも目立たないよう、見つからないよう、自分の気配を殺して生きるのだ。

 人気者(生きてるお肉)は辛いねー。



 気配を消し、体を起こして自分の状態を確認。

 着ているものが汚れて血まみれなのにガッカリしたわたしは、ひとまず手近な服屋に入った。


 店員さんもお客もみんなゾンビ。


 世界は今まさに崩壊への道をひた走っている。

 みんなで力を合わせてどうにかせにゃ人類は滅亡待った無しなので、ライフラインどころか文明がこれまでのような盛り上がりを見せて復活することもないだろう。

 なので、ここでこうして衣服や必要物質を調達するのは何も間違ってはいないのです。


 適当に何着か手に取って、わたしは鏡の前に立った。


 そして、40数年見慣れた自分の姿に、『あ、これもういらないな』と気がついた。

 正確に言えば、ここ十何年慣れ親しんだ脂肪の鎧に。


 目を閉じて、元の姿を思い浮かべる。


 変わった、という感覚はあったが、完全に元のエルフの姿には戻らなかった。

 具体的には性別が。


 女のままだったのだ。


 前のエルフだったときの顔でも、中性的な顔立ちなのであまり違和感はないのだが、これはこれで問題がある。

 なにしろエルフというのは種族的に顔がいい。

 エルフ自身からすればこれが普通なので顔がいいとか悪いとかの感覚はないのだが、人間と比べると非常に顔がいい。

 というか人間があまりに原始的な顔立ち……ゲフンゲフン。

 まあ現代人はそれなりに清潔で見目が整っていると思う。

 だがそれでもエルフには遠く及ばない。つまり、エルフ顔をさらしてそこら辺をうろついた日には性奴隷まっしぐらというわけだ。


 まあエルフの能力があるのでそんな事にはならないが、それでも危険には変わりない。


 わたしは再度目を閉じ、吟子の顔をイメージした。


 幸い、イメージが上手くいって20代前半、まだ痩せていた頃の水渚吟子、それも若干エルフ寄りの整い方をした体が手に入った。

 あれだな、半霊半物質万歳だな。ま、いうても7割くらいは霊体のような気がするが。


 ニマニマしながら服を選び直す。


 動きやすくてー、可愛くてー、あ、あとバッグも変えよーっと!!










 そうしてキレイな新しい服に着替えて、落ち着いて今後を検討しようとした結果、わたしは今絶望している。


 クラフトレベル1。


 スキルのない一般人からしたらスキルがある事自体がチートだが、このスキル自体はチート仕様ではない。

 なので、材料をバンバン取り出せたり、出来上がったものをガンガン取り出せたりはしない。

 そう、武器や食べ物が欲しかったら、まずは材料を揃えないといけないのだ。

 そしてレベル1なのでごく簡単なものしか作れない。

 銃?

 日本刀?

 今作れるのはすぐに壊れる木でできた弓だけだよ!!

 それも木材と植物のツルから探さなきゃなの!


 ああちくしょう、誰だクラフトスキルくれって言ったヤツ!!!











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― 新着の感想 ―
[良い点] 植物のツルとか手に入るの!? 続きが楽しみです! ワクワクします!
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