F♯
――なんで……? ……ボクは何かしたの……?
――蒼夜のせいだ……! ボクを……ボクを壊したのは……蒼夜だ……!
――ごめん……ごめんね……蒼夜……。
――ありがとう……蒼夜は……約束を守ってくれたんだね……。
――蒼夜……君は……ボクの分も生きるんだよ……――
……だけど、悔しい。
……僕は、僕は変わるんだ!!
「やめろ……」
「何だと?」
「全ての世界を征服するのをやめろ!!」
「知っているのか、なら話は早い」
「それと、彼女の妹を返せ!」
「優依歌は無事なの?」
菜ノ花さんは身を乗り出す。ジュダは黙っている。
「………」
「質問に答えてください!」
「知りたいか?」
「………はい」
「シェイド」
「はい」
ジュダの後ろの暗闇から二つの人影が現れる。
一人は黒髪を持った長身の青年、一つは真っ白なドレスを着た……菜ノ花さん?!
「優依歌!」
菜ノ花さんは動いていた。ということは、あれが優依歌ちゃん?
髪の色や目つきは妙に違うけど、その子は、菜ノ花さんの妹さんだと確信が持てる。
菜ノ花さんが優依歌ちゃんに駆け寄ろうとすると、シェイドと名乗る青年は懐から剣を出し、菜ノ花さんに突き出した。菜ノ花さんは寸止めのところで止まる。
「お姉ちゃん……!」
「無事で良かった……。すぐに、助けるからね……」
「うん……」
「ジュダ……優依歌ちゃんを返して貰う」
「やーだ、と言ったら、貴様はどうする?」
「力ずくで奪い返す!!」
「そうか……。ならば私が直々に葬ってやろう」
ジュダは、自分の背丈よりも大きな槍を手の中に持っていた。
「そうはさせない! ……菜ノ花さん、僕は逃げないよ」
「……」
「僕には、守るモノができたから」
「蒼夜さん……」
「シェイド」
「はい」
「予言者をしっかり捕まえておけ」
「かしこまりました」
すると、シェイドは優依歌ちゃんを縛っていた縄をほどき、優依歌ちゃんの首に自分の腕をかけた。
「や……!」
「優依歌! ……!」
助けようと近づく菜ノ花さんだったが、シェイドの剣によってまたもや止まってしまい、そこにぺたん……と座り込んでしまった。
そして、ジュダは口を開く。
「貴様、そんなふざけた武器で、この私に勝てるとでも思っているのか?」
「う、うるさい! 勇者はこの武器で、最後の魔王を倒すんだ!」
「あぁ、知っているぞ。勇者とは、愚民共を助けてくれる奴のことだろう? さほどの力も持っていないのに、愚かな奴だ」
「違う! 勇者ってのは、皆に勇気を与える存在だ!」
「……まぁいい。いきなり殺すのおもしろくないな……少し遊んでやろう」
ジュダを僕めがけて走ってくる。
僕はただのサッカー部だったので戦う技術は持っていません!
とりあえず逃げまどう。
「蒼夜さん! 何か、何か呪文でも言ってみてください!」
なぜか菜ノ花さんが叫んでいる。
「待ってぇ! これはただの剣だよ!」
「実はそれは、マジカル李莉子ちゃんのまじかるすてっきなのです!」
「何その設定!」
そう叫んでいるうちに、ジュダは僕の剣をしっかりと槍で抑えていた。見た目は子供なのに、かなりの力だ。
「どうした! 押されているぞ、貴様は口だけが立派だなぁ! それに、貴様の武器、使い物にならんだろう」
「あ、折れてる!」
「……大人しく降参したらどうだ?」
……どうしよう。