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「ここが……ジュダの城か……」
「優依歌……」
「菜ノ花さん?」
「優依歌、優依歌! どこにいるの?!」
「菜ノ花さん!」
「優依歌!」
「落ち着いて!」
「落ち着いていられない!」
「敵に見つかったらどうするんだ!」
「そんなの知らない!」
「……菜ノ花さんっっ!!!」
「?!………」
その……自分でもビックリした……。
こんなに大きな声で叫んだのは、久しぶりだったから……。
菜ノ花さん、言葉遣いが変わるほど心配していたんだ……僕も、無事であって欲しいと思うよ。
……でも、その気持ちの片隅に、まだ臆病な自分がいた。
……恐い……。
そんな自分に、嫌気がさした。
「大きな声だして、ごめんね……」
「……いえ」
「僕はただ、菜ノ花さんに落ち着いて欲しかっただけで……」
「私こそ、いきなり騒ぎ出してごめんなさい」
「えっと……僕が大声出したのは、菜ノ花さんのせいじゃないよ」
「え?」
「本当は、凄く恐いんだ」
「………」
「僕は、凄い臆病なんだ。怪我とかやだし、この年でこんなこと言って、笑っちゃうよね……」
「…………」
「そんな臆病者な自分にイライラしちゃって、菜ノ花さんにあたっちゃって……僕、かっこ悪いね……」
「かっこ悪くないです」
「え?」
「蒼夜さんは、かっこ悪くなんかないです。確かに蒼夜さんは、頼りなさそうというか……」
「どうせ僕は……」
「でも、蒼夜さんはカッコイイです!」
「良いよ別に、お世辞とか」
「違います、きいてください!」
菜ノ花さんは僕の手を強く握った。
「人間は外見じゃないってよく言います。蒼夜さんに出会って……その言葉に納得したんです」
「………」
「優依歌と私の話、致しましたよね?」
「…うん」
「それを話したのは、蒼夜さんだけなんです」
「え……どうして僕だけに?」
「蒼夜さんなら、きっと真剣に話を聞いてくれるんじゃないかって、思ったんです」
「菜ノ花さん……」
「だから、そんなに自分をかっこ悪いだなんて、思わないでください!」
「……ありがとう。僕も、菜ノ花さんと喋っていると、勇気をもらえるよ」
「なんだか、ずっと昔から友達だったみたいですね」
「そうかなぁ?」
菜ノ花さんは笑った。それがなんだかとても、嬉しかった。
――夕夜、僕にも、人を喜ばせることが、できるみたいだよ……――。
「侵入者とは、貴様らのことか」
「……! ……誰だっ?!」
「私か?」
重くて、深い闇の底にあるような、邪悪な妖艶さを持ち、でもなんだか、幼い雰囲気を持った影が、目の前に現れた。
「私が、この世界の王、ジュダイン・ダークライト・ハーデスカスだ」
「お前が……」
「我が城へようこそ」
雪のような白髪を持ち、
「たった二人で我が城へ、勇敢だ」
瞳の色は金。
「不法侵入だそうだな」
でも、背丈は僕よりも小さくて。
「それ相応の罰を与えなければならない」
とても綺麗な子供で。
「どんな罰がいい?」
なのに、僕は一歩もそこから動けなくて。
「どうした? 恐怖で声すら出ないか……惨めだな……」
恐い。
逃げたい、逃げたい!!
体中の震えが止まらない……。