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「菜ノ花さん、少し休憩しようよ」
「そうですね」
僕たちは一時間ほど色んな道を歩いた。
先程より、城は近くなった。
「あと、もう少しになったね」
「はい」
「それにしても、とても危ないし、自分の命をかけてまで妹さんを助け出すなんて、よほど、その……優依歌ちゃんのことが大切なんだね」
「…………」
「菜ノ花さん?」
彼女は、下を向いている。そして、顔を上げ、口を開いた。
「私、優依歌のこと嫌いだったんですよ」
「え?」
すぐに菜ノ花は笑顔になった。
「でも、今となっては大切な存在です」
「何が、あったの?」
「……この世界は、魔法や不思議な力を持って生まれてくる子がたまにいるんです。優依歌もその中の一人です」
「………」
「優依歌は物心付いたときから予知能力を持っていました。両親はとても喜びました。しかし、私は優依歌の予言の力は嫌いでした」
「………」
「両親は優依歌ばかり可愛がり、何の力もない私は、周りから優依歌と比べられ、時には馬鹿にされ、とても憂鬱な日々でした。でも、唯一の妹だから、その時は優依歌が可愛くて大好きでした。
……あの事件が起こるまでは……」
「あの事件?」
「ある日、私と優依歌はいつものように仲良く、外で遊んでいました」
「………」
「そのころ、ジュダは優依歌の予知能力の噂を聞き、数人の手下達と私たちの家にやってきて、優依歌の居場所を言わなかった両親を……殺してしまったのです」
「酷い……」
「そして、ジュダ達は優依歌が近くにいないと知ると、しばらくして引き上げていったそうです」
「………」
「帰ってきた私たちは、言葉を失いました。かろうじて息のあった母は、『優依歌、優依歌』と言って、息を引き取りました。また、優依歌……」
「優依歌ちゃんは、その事件のことを予知できていたはずなのに、どうして言わなかったの?」
「理由は分かりませんが……優依歌は予知したことを他人には言わないのです。それを知っていたのに、私……私は……!」
『何で言わなかったのよ! 優依歌のせいよ! 優依歌が予知したことを隠さずにちゃんと言ってくれたらこんなことにはならなかった。
お父さん達の代わりに……あんたが……あんたが死ねばよかったんだ!!』
「そんなことは……」
「分かってます! 言ってはいけないことだって……!」
「菜ノ花さん……」
「その時はまだ……何が起こったのか把握できていませんでした。気が付くと、優依歌が涙を必死にこらえていました」
「……」
「そして、自分が言った事に気が付いたときには、自分で自分を追い込みました。取り返しの付かないことを言ってしまった……私と優依歌の間に、大きな壁ができました」
「………」
「その後、私たちは隠れるように生活してきました。満足に外を歩くことさえできず、学校にも行けず………辛かったです」
「学校にも…?」
ドックン。
心臓の高鳴りが、今一瞬早くなった。
嫌だ、あの記憶は思い出したくない……!
違うよ、違うんだよ…夕……夜。
「でも、一番辛かったことは、優依歌が……『ごめんなさい』って、謝ったことです」
君も、謝っていた。
「本当は私が謝らなきゃいけないのに、優依歌が謝って、私、どうしたらいいのか分からない……!!」
違う。謝るのは、君じゃない…!
「あり…がとう」
「え?」
僕は何故か菜ノ花さんに言っていた。
「気持ちを言葉にするのって難しいよね。僕も、苦手なんだ」
「…………」
「でも、菜ノ花さんは一生懸命に話してくれた。気持ちが凄く伝わってきたよ」
「………」
「妹さんに、謝ってないんだよね?」
「……はい。謝りたくても、どうしたらいいか……」
「菜ノ花さんの気持ちを、ありのまま伝えたら?」
「…………」
「優依歌ちゃんを助けたら、一番に謝ると良いよ」
「蒼夜さん……!」
「さぁ、そろそろ、行こうか」
「はい!」
菜ノ花さんはとても素敵な笑顔になっていた。
――ダークライト城 最上階。
シェイド・バークライカンは一つの大きな扉の前に立つと、その扉を叩いた。
「入れ」
中からは、特有的な声がきこえてきた。それをきいたシェイドは扉を開けた。
「はっ、失礼致します」
入った部屋の中は暗く、ろうそくが所々についている。そして、一つの大きな影が、言葉を発した。
「なんだ」
「侵入者です」
「誰だ?」
「予言の血縁関係者です。それと……」
「他にもいるのか」
「はい、異国の世界の者です」
「許可をだした覚えはないが……良い度胸だ」
「今すぐ始末致しますか?」
「そうだな……それと……予言者を連れてこい」
「……はい」
そして、シェイドはその部屋をあとにした。同時に、自らの笑みを持ち…。