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――ねぇ、あそこの信号まで競争、蒼夜は男の子なんだから僕に勝てなかったらアイスをおごる、いいね。ボクに勝っても何もないけど、えへっ。
えぇ、そんなぁ。全く、……は、いつもそうやって不公平な条件を……で……だから――。
「蒼夜さん、蒼夜さん! ……もぅ……起きてください!!」
「ん……ここは……? ……ごわっ?!」
僕の手を持ち上げて起こそうとしていた菜ノ花さんは、起きた瞬間、パッと手を離してしまった。
「すみません……大丈夫ですか?」
「ありがとう、大丈夫だよ」
「良かったぁ…」
ごろごろどっしゃーん!
金色の閃光が、上空を通過する。
「うわぁ! ……ここは一体……」
「ここが、私の住んでいる世界です」
菜ノ花は静かに言った。雷はあまり好きではないのに…。
「なんだか、不気味だね」
「ジュダが現れるまでは……平和な世界だったんです……」
「そう…」
「……あの城です」
菜ノ花さんが指さした方向を見るとそこにはいかにも魔王の城という様な、真っ黒な城がそびえ立っていた。心なしか、邪悪な妖気の様なモノを感じる……。
「あれか……って、菜ノ花さん!」
「どうされました?」
「こっちの世界には来たくないって……」
「でも、来ちゃいましたよ」
「………そうだね」
菜ノ花は心配そうな顔をしてくる。
「帰りたい……ですか?」
「僕みたいな人間が戦うなんて……ムリだよ」
「それで帰りたい……と?」
少し考え込んで、菜ノ花は真剣な眼差しで言った。
「それでは尚更、ジュダを倒してください」
「や、だからジュダとは戦いたくないって……」
「帰れません」
「え?」
「ジュダを倒さなければ、蒼夜さんは帰ることはできません」
「なんで、どうして……?」
「この世界は、ジュダが支配しており、異界を行き来するときは、ジュダの許可を取らなければなりません」
「え……じゃあ菜ノ花さん、今僕がここにいるのは……」
「はい、すでにジュダの手下によって知られており、もし元の世界に帰ったとしても、きっと、蒼夜さんの存在を消し去りに来るでしょう……もう残された選択肢は、ジュダを倒すしかないのです」
「僕、頼りないよ?」
「そんなことないです!」
「弱いし……取り柄ないし……あんな事が、あったあとなのに……」
蒼夜は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
違う、違うよ…僕は……を助けるために……。
「蒼夜さん」
静かに目を開けると、そこには僕の手を優しく握ってくれている笑顔の菜ノ花さんがいた。
「まだ私、蒼夜さんと出会ったばかりであまり貴方のこと分かりませんが……でも、取り柄だったらたくさんあります。多分」
「多分?!」
「はい!」
菜ノ花さん超笑顔。
「なんだか複雑な気持ち……」
「えへへっすみません」
でも、少し心が安らいだ気がする……。僕でも、できることがあるのかな。
「わかった……菜ノ花さん、協力するよ」
「本当ですか?!」
「うん。何もできないかもしてない。だけど、頑張ってみる」
「蒼夜さん……! これからも、宜しくお願いします」
菜ノ花が右手を差し出す。僕も右手で握り替えした。
「こちらこそ」
頑張ろう。妹さんや菜ノ花さん、そして、君のためにも……。
「そろそろ、出発致しましょうか」
「そうだね」
僕たちは、城の方へ向かって、歩いていった。