A
「しかし私は奴の本心を知ってしまった」
――これはお母さんには内緒だよ? 大人って現実的じゃないモノ見ると否定的になるんだもん。
「実際奴は無差別に、何の罪もない人々を殺していった!」
――どうして……なんで……? ……ボクは何かしたの……?
「あの時私を救ったのも、ただ私の力が欲しかっただけ……私のことはどうでも良かったんです」
――ねぇ、お母さんがうちへ帰ってきてくれないよ?
……蒼夜のせいだ……! ボクを……ボクを壊したのは……蒼夜のせいだ……!
……お母さん! 夕夜の……夕夜の元へ行ってあげてよ!
お母さん!
………………どうして私が、化け物の元へ行かなくてはならないの……?
「私は悲しさと共に、絶望と憎しみを覚えました。……だから、私は全てを破壊するのです。何も感じない、真っ白な世界……。もう苦しみたくはないんです」
――ごめん……ごめんね……蒼夜……。
――ありがとう……蒼夜は……約束を守ってくれたんだね……。
――蒼夜……君は……ボクの分も生きるんだよ……――
「駄目だ……そんなの駄目だ……間違っている!」
「……」
「感情があるから人間なんだよ。悔しい思いをして、耐えて、たくさん間違えて、僕たちは成長していくんだ!」
「貴方は私に…もっと苦しめと…?」
「違う! 僕はただ君に…」
「貴方はジュダのような人ですね……人に苦しみを知らない、綺麗事を言って人を騙す!」
「話を聞いてくれ!」
「……やはり貴方にも、消えていただきます」
シェイドは僕に剣を向ける。その時、先程からずっと震えていた彼女が声を上げた。
「……いけない……駄目よ!」
「優依歌?」
こっちに来ようとする優依歌ちゃんを菜ノ花さんが止める。
「シェイド・バークライカン……彼の未来が二つに分かれているのが見えるの……。一つは暗くてよく分からない……でも、もう一つは、世界を消しているの!」
それを聞いたシェイドの顔にまた、笑みが戻る。菜ノ花さんは表情をこわばらせる。
「それでは、私の夢は叶うわけですね」
「そんな……」
「だから、速く逃げて!」
――蒼夜……君は……ボクの分も生きるんだよ……――
「今なら間に合う!」
「そうですね、命は助けてあげましょう」
――それで家族みんなで……
「ほら、だから……」
新しい家族を、迎えようねぇ……――
「それは」
僕は口を開く。
「それは優依歌ちゃんの予言だろ? 自分の未来は、自分で決めたい」
――約束だよ、お兄ちゃん……――
「いつも何かから逃げている自分が嫌なんだ……だから……死ぬかもしれないけど、最後くらいは……」
僕は、真っ直ぐとシェイドを見つめた。シェイドは無表情で剣を鞘から抜くと、僕の方へ向かってくる。
思わず、目をつぶった……。