女神も付いてきた
朝、教室へ向かうと、俺の机の上に、タンポポの綿毛の刺さった花瓶が、置かれていた。
「ん?」
これって俺の机だよな。いつの間にイジメの対象になった? こんなご丁寧に花瓶まで用意してくれて、しかも、タンポポもどこかで摘んできたのか? テレビのドラマじゃあるまいし誰だよ朝っぱらからこんなことしてんのは。
俺の名前は佐藤ユウキ。どうやらいじめの標的にされているらしい。面白そうだから様子を見てやるか。
窓際でおしゃべりしてる五人組の女子がこっちにやってくる。
唐突に
「お前キモイんだよ」
「風呂入ってんのかよ」
「ユウキさ、学校来んなよ!」
お、いきなりクラスでもイケてるグループの女子が来たかと思えば、それぞれ俺の事をディスってくる。
イケてるグループがみんな可愛いわけでは無い。キモイと発した女子の顔は可愛いとも思えない。少し太ってるし、スカートを腰で丸めてミニスカートにしてるけど、ちょっとキツイところがある。
男はみんなミニスカートから白のパンツが見えれば喜ぶとでも思っているんだろうか? そんなわけない。キツイ。
それにしても、俺はいつの間に嫌われたんだ。容姿はデブで顔はお世辞にもイケメンとは言えない。、皆は愛嬌のある安心出来る顔なんて言ってくれるけど、ブーちゃんなんてあだ名をつけられてるから半分馬鹿にされてるような気もする。
俺の目の前に四人の女子がいてディスり、後ろに俯いているのが、宮内エリカだ。エリカは文句無しにこの学年で1番可愛い。サラサラの黒髪ストレートで、たまに髪を纏めていたりする。この子とすれ違うとフローラルのような甘美な香りがする。
まあ、何かあったんだろうな。それともあれか?
まさかあれがバレたのか? エリカのリコーダーを放課後、みんなが帰った後に、舐め回してたあの姿を見られた? まさか…。
エリカが涙ぐみながらこっちを睨んでいる。やっぱり。これだけはいいたくない。誰だって興味本位でついやることもあるだろうに。
俺だって躊躇ったさ、でも衝動的にそんな行動をおこしてしまった。なぜ止められないのかは、自分でも分からない。あの気持ちは継続的に続くものではなくて、あーそうだ。
俺の隣の席が宮内エリカの席で、授業中に消しゴムを落としたら、直ぐにしゃがみこんで、耳に髪をかけながら、「しょうがないわね!」と、口元のグロスが光って艶めかしく、さらに俺を見る瞳が輝いてた。あれが俺の心を動かすトリガーになってたような気がする。
「もう分かってると思うけど、あんたが何やらかしたか分かってんの?」
エリカといつも一緒にいる太めのサユリが強い口調で俺を責めてくる。まあ、観念するしかないか。
「リコーダーだよな?」
俺は唐突に口にだす。四人は顔を見合せて怪訝な顔をする。さゆりは、
「はいっ? 何言ってんの。意味わかんないし。エリカが、イケメンの工藤君に告ったら、『ユウキがエリカのこと好きだから悪いな。友達裏切れねえわ』って言われたんだよ! どうしてくれるんだよ」
凄いとこから攻撃がきたな。俺には関係ない話じゃないか? 工藤は女を見る目はあると思う。正直エリカは一癖ある女子だ。基本ニコニコしているけど、ふいにほかの女子に小声で悪口を言ってるのをたまに見かける。
「それは俺には関係ないだろ? 何だよこのたんぽぽの綿毛とか」
そう言うと、エリカがリコーダーを布の袋から出して、
「あんたまさか? 舐めてないわよね?」
とか、言い出す。好きな女子に嫌われることほど辛いもんは無いじゃないか。リコーダーぐらい減るもんじゃないし、ふざけんなよ。そもそも俺が工藤ならリコーダー舐められても頬を赤らめて喜んでるやつじゃないか。
「舐めてない! 神に誓って舐めてません」
俺がそう言うと、くんくんリコーダーの匂いを嗅ぐエリカはうっとか言ってゴミ箱に投げ捨て、
「あんたやったわね! 工藤くんなら関節キスで許すけどお前が舐めたリコーダーなんて使えるわけないでしょ」
「ちょい待ち、なんで俺が舐めたってわかんだよ。証拠ないだろ?」
「リコーダーの口のとこ歯型が有るのよ。貴方じゃないなら、誰かがやったのよ」
「もう来なくていいから帰ってよ」
その場に泣き崩れるエリカ。あーちきしょう。なんでこんな不細工に生まれたんだよ。親は二人とも整ってるし兄弟も美男美女だぞ。なんで俺だけ。
「バカヤロう!」
教室に響く怒鳴り声を上げて机を蹴飛ばし俺はスクールバッグを引っつかみ帰ることにした。その途中、
好きな女に秘密のリコーダーがバレてしかも嫌われ泣かせたこともあり頭が痛くなり廊下で倒れてしまった。
目を開けると綺麗な女神様が目の前にいる。
「あなたは本日死亡しました。私はベル。死者の魂を正しい方向に導くものです。あなたの人生を覗いて見ますね。うっ!きっしょ。女子のリコーダーを齧ってました? 地獄行き決定です。言い逃れはできませんよ!」
「ちょっと待ってくれよ。好きな女子のリコーダー位舐めることもあるだろ? 中学1年だぞ」
俺は周りの男性鬼達の顔を見ると、そいつらもそうだなと、満更でもないように頷いている。
ベルは真っ赤になりながら、
「じゃあこうしましょう。あなたを異世界に飛ばすからそこで魔王を倒してきなさい。それが完了すれば、天国でもその街で暮らしてもいいことにするわ! それにしても不細工な顔ね!」
美人の女神は肌が透けるような服を身にまとっていて、服の隙間からは豊満な胸がチラチラ見える。こいつは見せてんのか?
「本当に女神なのか? さっきから聞いていれば文句ばかりじゃないか? 俺だっていい事の一つや二つやってるはずだぞ! もう一度見てくれないか!」
「もういいわよ! 昨日の放課後あなたがエリカのリコーダーをチュッパ付いてるシーン見たら鳥肌出たし、異世界行きで決定ね。あとお情けで顔だけ何とか魔法でしてあげるわよ」
ベルは手に持つロッドを振る。俺の顔が少し小さくなったようなあれ、全身がぽっちゃりから痩せ型に変化した。
「もう特別サービスよ。そんな不細工だと生き残れないわよ。さあ、それでは行ってらっしゃい。名前なんだっけ? あら私好みのいい男ね。私もついて行こうかしら。スズーっ。いるのー? この男と異世界デートしてくるからあとここの仕事頼んだわよー!」
ベルが手を前方にあげると魔法陣が現れ俺と一緒に転送された。