8話 ギミックなんて知りません
「ベアトリスって頭の中お花畑なの?」
ダンジョンに向かう道中アヤメがベアにそんなことを言っていた。
「はい!頭の中は常に明るく楽しくお花畑にしています!」
はっきり答えるベアを見て思わず笑ってしまうアヤメ。
「勇者に選ばれた理由が分かるかな」
「俺も丁度思ってたよ」
まさに光のような存在だベアは。
いくら馬鹿でアホでも聖剣が選びたくなる気持ちは分かる。
「私は選ばれたくないですけどねーぽーい」
聖剣を投げるベアだったが
「ぎゃっ!」
また戻ってきた聖剣に殴られていた。
「絶対魔王退治なんてしませんからね!私は!」
職務放棄宣言をするベアトリスだが聖剣は何の反応もしない。
本当にこいつでいいのか聖剣。
今なら選び直せるんじゃないか。
そう思う俺だった。
そうして辿り着く聖なる塔。
俺は許可証を入口にいた職員に見せる。
「確認取れました。ザクロ様ですね。どうぞ、ご武運を」
見送られて俺たちはダンジョンに入る。
まず一階層。
周りを見ると色んな冒険者がいる。
「色んな冒険者がいるんだね」
「まだ未踏破のダンジョンだからみんな攻略したいんだろうな」
アヤメとそんな会話をする。
ダンジョンを1番先に攻略する事が出来れば名前が広まる。
それは冒険者にとって何よりの報酬だ。
「とにかく、先に進もう。ゆっくり進んでも攻略が遅くなるだけだ」
「私が戦闘を歩くよ」
アヤメが名乗り出る。
「私の速さだと罠があっても避けれる。絶対回避を見せてあげるよ」
そう言ってウキウキと進んでいくアヤメ。
「嬉しそうだな」
「全力出してもザクロ達なら付いて来れそうだからね」
そう言って歩いていくアヤメ。
道中。
「宝箱ありますよ!あそこ!」
ベアが部屋に入るのを止めるアヤメ。
「私が行く。トラップがあるかもしれないし」
彼女が歩いていく。
部屋の真ん中まで入った時彼女は宝箱を空ける。
その瞬間だった、モンスターが大量に湧いてきて
バタン!
扉が閉まった。
俺たちは扉に駆け寄り
「アヤメ?」
呼んでみるが予想外のところから声が聞こえた。
「うん?私ならここだよ」
後ろから聞こえた声。振り向くとアヤメがそこで鉱石を持って立っていた。
「え?今閉まる前に部屋の中にいたよな?」
「いたけど閉まる前に出てきた。これが絶対回避」
ゴクリと唾を飲み込んだ。
これが歴代最速と呼ばれたアサシンか。
ダンジョンの罠部屋すらも無効にする速度か。
話は変わるけど俺は前から気になってたことを聞いてみる。
胸と腰のとこだけ薄い布で覆ってあるだけの攻めたスタイルについて。
「ところでその痴女みたいな格好は?何か関係あるの?」
「痴女じゃない!」
彼女はそう言って続ける。
「速さを限界まで高めるための装備だよ」
彼女の言葉を聞いてベアも質問する。
「もしかして胸がツルツルなのってその努力の成果なの?」
そう聞いたらワナワナと震えるアヤメ。
ベアトリスは純粋にそう思ったから口にしたのだろうし中々怒れないのかもしれない。
「そ、そうだよ。胸なんていらないもん。私には」
「私も小さくなれば速くなれるかなぁ?」
喧嘩売ってるのかと思うような言葉を次々と吐いていくベアトリス。
やめてやってくれアヤメが泣きそうだ。
「先に進むぞ2人とも」
俺はそうフォローを入れて先に進ませることにした。
次の宝箱部屋が見えた。
「私が行くよ」
アヤメがそう口にするが
「えー?次私の番じゃないんですか?」
ベアトリスが不満げな声を漏らす。
「お前見てたのか?さっき扉閉まったんだぞ?その前に出れるの?」
「え?敵全部倒せば出れる感じですよね?」
「何体いたと思ってるんだよ」
「え?知りませんけど全部倒せば出れますよね?」
いや、うん。出れると思うけどさ。
出来れば力を温存しとこうとか思わないのかこの人は。
「俺もついていく。アヤメもくるか?」
「分かった。この人頭の中お花畑過ぎて不安だし」
そう言って付いてくるアヤメ。
3人で宝箱部屋に入りベアトリスが宝箱に手をかけると。
ベロォン。
俺の顔を何かが舐めた。
「ミミックだ!」
俺が叫んだ頃には遅かった。
「何してるんですか?あなた?」
ベアトリスが剣を逆手に持ってミミックの箱を壊していた。
「私だって舐めたことないんですよ?!許しませんからね!羨ましいですね!どんな味しましたか?!」
怒るのそこかよ。
「このセクハラ宝箱。楽に死ねただけ有難いと思ってくださいね」
蔑んだ目で睨んだ後ミミックを投げ捨てるベアトリス。
モンスターには容赦ないなこいつ。
「それより、お怪我はありませんか?」
いつかのように俺の身体をチェックしてくるベアトリス。
こいつ触らなくていい所まで触ってるのは知らずにやってるのだろうか?
「いや、もういい。やめてくれ」
「大丈夫ですか?」
心配そうに首を傾げるベアトリス。
それを見てアヤメも顔を赤くしていた。
「なに触ってるのよこの人……」
「後でアヤメから言っておいてくれ。こいつほんとに剣の事しか知らないらしい」
俺はアヤメにそう伝えて先に進むことにしたのだが
「あれ、扉開かないな」
入ってきた扉が開かない。
その時、ガコン!
ミミックを投げ捨てた辺りに新たな通路が出来た。あれを通れということなのか?
そう思っているとベアトリスが剣を抜いた。
「どうするつもりだよそれで」
「こうするんですよ!」
飛び上がって剣を扉に向けて横に振り抜く。
ザン!
それから扉を蹴りつける。
ドォォォォォン!!!!!!!
扉だったものが向こうに倒れてまた通れるようになる。
「さぁ、進みましょう我が王。障害は全て取り除きます」
俺に手を差し出してくるベアトリス。
俺はアヤメにチラッと目をやった。
顔を青くしている。
「ゴリトリス……」
仲間内に呼ばれてたあだ名を知らないはずのアヤメがそう呟いた。