5話 死んだ程度で逃げられると思うなよ
俺はアヤメに教えられた名前を調べて墓場を特定して彼女を殺した犯人を突き止めて蘇生した。
名前はヌーマと言うらしい。
「いやはや。ザクロ殿の魔力は凄いですな」
「いやいや、そんなことはないよ」
そんなことを口にしておく。
「死者を蘇生、ですか。未来ではそんなことも出来るのですね」
俺は事前に考えていた話をする。
「現在も魔王の脅威は残っていてね。そこであなたの力をお借りしたいと思っていたところで」
「ザクロ殿に言われてしまってはこのヌーマ付き合うしかありませんな」
はっはっはと豪快に笑うヌーマの前で彼の墓石を見て殴りつける。
ガラガラガラ。
墓石が砕けたのを見てヌーマはビビっている。
「ヒッ、す、凄いパワーですなザクロ殿」
俺の力じゃない。ベアトリスの力を俺が使っただけだ。
「し、しかし何故墓石を破壊したのですかな?」
ヌーマの質問に答える。
「もう不要だろう?これは。こんなもの残しておくより他の者に場所を譲った方がいい」
「た、確かに生き返っておりますからなこの私は。少しの無駄でも無くす。流石ザクロ殿です」
ハッハッハと笑うヌーマを俺はアヤメと約束していた場所まで連れていくことにした。
その道中ヌーマの親友だったらしい男を1人ついでに生き返らせておく。
「いやはや感謝しかありませんよザクロ殿には。親友の蘇生まで行っていただきましてなんとお礼を申し上げたらよいのか」
「いや、構わないよ。俺は俺の都合であんたらを目覚めさせたのだから」
そうして俺たちは歴代の勇者パーティの墓石が並ぶ場所に来た。
「いやはや時代はやはり進んでおりますなぁ。私がいた時代よりも墓石が増えておりますな」
そう呟いたヌーマの前で口を開く。
「この粗雑な小さな墓は何?一つだけ木製だが」
「それはですな裏切り者の墓ですよ」
そう言ってその墓に唾を吐きかけるヌーマ。
「こんなものももう不要でしょう」
アヤメの墓を蹴り飛ばした。
「この女は自分の命惜しさに1人逃げ帰ってきた恥知らず。ゴミのくそ虫!!!墓を用意してやっただけ有難いと思わないとな」
ヌーマはポケットからペンを取り出すとアヤメの墓に落書きを始める。
ヌーマの親友も一緒になって落書きしたり蹴ったり。
「アヤメ?贅沢な名前だ。裏切り者の馬鹿でカスでゴミで丁度いいこんな女は」
「ホントに恥知らずなカスのようだ」
「ほんとですよ。ザクロ殿。この女は馬鹿でアホで救いようがないクズ」
「あんたに言ってんだよクソ野郎」
俺はヌーマとその親友を蹴り飛ばす。
「ごばぁっ!」
その時墓石の影に潜んでいたアヤメのパーティの仲間たちが出てくる。
事前に俺が一時的に目覚めさせたものだ。
「「ひぃっ!」」
それを見たヌーマ達が後ずさる。
「ざ、ザクロ殿ぉ?!ど、どういう事ですかな?これは!!!」
俺は質問に答えず勇者に目をやった。
後は勝手にやるだろう。
ザン!
勇者が近くに刺さっていた自分の剣でヌーマの親友の首を飛ばす。
「聞いてたぜ今までのこと。よくもまぁ好き勝手話してくれたなお前」
勇者がヌーマに詰め寄る。
ドサッ。
尻もちを着くヌーマ。
それから慌てて後ずさろうとするが遅い。
グサッ!
「ぎゃっ!」
勇者は剣でヌーマの足を地面に縫いつける。
「アヤメが1人逃げ帰った?裏切り者?全てお前の妄想だ。俺が逃げろと命令した。それをあいつは守ったに過ぎない」
「ひ、ひぃいぃぃぃ!!!!」
この場から離れようとするヌーマを鼻で笑う勇者。
「敵前逃亡かよ?なら裏切り者として処刑しないとな?」
「ひ、ひぃぃぃぃぃい!!!!!!あがぁあぁぁ、助けてぇぇぇぇぇ!!!!!」
ヌーマの断末魔が響く。
全てが終わった後アヤメが出てきた。
聖女と話すアヤメ。残りの2人は直ぐに土に潜っていった。
使い魔として本格的に契約したわけじゃないから直ぐに動かなくなる。
「ごめん。私にもう少し力があればみんな助かったかもしれないのに」
「ううん違うよアヤメ。私たちが弱かっただけ。アヤメを活かしきれなかった私たちの問題だよ」
そうやってにっこり笑う聖女。
それから俺を見て頭を下げる。
「アヤメをお願いします。ザクロさん。あなたになついてるみたいですし。彼女処女なのでそちらの方も考えてあげてくださいね」
アヤメに余計なこと言うな、と言われてから墓に戻ろうとする聖女。
「ま、待って。お願いザクロ。彼女だけでも生き返らせてよ」
アヤメはそう懇願してくる。
「お願い。何でもするから」
「ダメだよアヤメ。そんな無理なこと言っちゃ」
そう言われて口を挟む。
「無理なこと?」
俺は聞く。
「無理ですよね。怪我を治すだけのヒールですら皆さんかなり辛そうなのに死人を蘇生させるなんてこんな奇跡。そう何度も有り得ませんよね」
「出来るけど?」
俺がそう答えると
「「「えぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!!!」」」
先に帰ったはず勇者も土を掘り起こして出てきた。
「お前たちがゾンビみたいな生き方を望むならこのまま2回目の人生を送らせられるけど」
どうする?と目で聞くが
先に墓に帰った組は遠慮していた。
普通はそうだろうな。
起こしてすまなかったと見送るが聖女だけは残っていた。
「ザクロ様」
聖女は俺の前で頭を下げた。
「私はまだ生きていたいです。お願いします」
「分かった」
俺は聖女のその望みに応えることにする。
その最中アヤメが俺の背中に額を押し付けて口を開いた。
「嬉しかった。ありがとう私のためにあんなに怒ってくれて……ザクロが初めてだよあんなに私の事思ってくれた人。私あなたについて行く。どこまでだって。もう要らないって言われるまで傍にいるから」
アヤメとの距離がかなり近くなったのを感じる。
多分最初から好感度マックスだったベアトリスと同じくらいだこれ。
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