大きな街を創り上げましょう
第三笑 大きな街を創り上げましょう
豪華な応接セットに腰を沈めた右京たちは、この家というよりも城の主の大屋桜を見入っている。
大屋桜は何から話そうかと大いに戸惑っているようだ。
「時間は無限ではない」
右京の堂々とした言葉に、「はい、お父様!」と大屋桜は叫んでから眉を下げた。
「おまえ、自分の父親の尻を蹴って、戦場に送り出すつもりか?」
「…そんなつもりはぁー…」と大屋桜は言ったが、まさにそうしようと画策していたことは事実だ。
よって次に浮かんでくる言葉が何もなかった。
「どうか穏便に」とハモンドが真顔で言うと、「俺はお前と同じで老兵なんだけどな」と若々しい右京が言うと、ハモンドは大いに苦笑いを浮かべていた。
ハモンドがあの地獄の戦場から帰ってきた兵士だと知った大屋桜の衛兵たちは、ハモンドを大いに尊敬していた。
まさに、大屋菊と大屋京馬がいた戦場は地獄でしかなかったのだ。
「ちなみに、中条勇也さんとはいつ話し合ったの?」
「えっ?
中条さんは軍関係で働いてたんじゃないの?」
楓が大いに困惑の眼をして右京に聞くと、「小説の終わりが中途半端だった」と答えた。
「俺としては所属していたらしいとしか記憶になかった。
だから、俺と菊さんの近くにいた
誰かから詳しく話を聞いて書き上げた小説だと確信したんだ。
その協力者候補がハモンド」
「おまえとは別の部隊だったからな…
中条は俺の部隊のかなりの雑兵…
だがその雑兵が生き残った。
とんでもなく運が強いヤツだと思っていたが、
そうではなかったんだ」
ハモンドは言ってから、右京を挑発するようににやりと笑った。
「超常現象的なことで言えば予知能力。
そして現実的なことで言えば、
軍人には珍しい臆病者。
きっと、どちらも持っていないと、
あの戦場は雑兵では生き残れなかったはずだ」
ハモンドは大いに苦笑いを浮かべたので、どうやら正解だったようだ。
「だから詳しい理由を知りたくて中条さんと話をした。
そして中条さんから俺と菊さんの件を実録として小説にしたいと言った。
だからお前は、かなり詳しい内容まで話した。
しかし、中条さんは最後の最後で、
ミランダとマックがどうなったのかを克明にしなかった。
読みようによっては、ハッピーエンド直前で、
ミランダとマックが息絶えたと思わせる終わり方だ。
…誰を驚かせようと画策したんだい?」
右京の言葉に、ハモンドは一瞬目を見開いて、「…当時の女王様…」とハモンドは少し不貞腐れたような顔をして答えた。
「次期女王争いが熾烈だったからね。
俺は蚊帳の外だし全く興味が沸かなかった。
ミランダ…
菊さんが死んだと知らされて、
次期女王候補の誰かが大いに嘆いたはずだ。
…そうか…
だから俺は実験材料とされたわけだ…
俺は小説の中では死んでいたはずだからな」
ハモンドはついにいたたまれなくなり、さらには涙を流して、「申し訳なかった」と謝った。
「まあ終わったことだけど、
俺はお前を信用しないことに決めた。
一度の裏切りは二度目があるはずだからな。
…だが、これはお前が知らなかったことだったと明言すればその限りではない」
「誓って言う!
おまえが消えて俺は大いに戸惑ったんだ!!」
ハモンドが魂からの声で叫ぶと、「前言撤回だ」と右京は言って、ハモンドに頭を下げた。
「ま、その首謀者が生きていようが死んでいようが、
今の俺はそう簡単には殺せない。
だが、桜姉ちゃんは敵になったと思っておいて欲しい。
俺は人は恨まないことにしたが、戦いと軍は恨んでいるからな」
するとメイドが大いに眉を下げてティーセットを持ってきた。
さすがにこの険悪な雰囲気には、眉程度はを下げていて当然だ。
「俺、かなり敏感なんだ。
そのトレイのどこかに薬物が入っている」
右京の言葉を聞いて、「誰の差し金だ!」とハモンドがメイドに怒り狂って叫んだ。
大屋桜はおろおろとするばかりだ。
メイドは意味がわからず、その場に立ち尽くしている。
「普段いない人が厨房に来たんじゃないの?」
右京がやさしくメイドに聞くと、「…は、はい… タリス様が来られて…」と答えると、ハモンドは血相を変えて応接間から出て行った。
右京は大屋桜に視線を移した。
「毒物じゃなくて睡眠薬だね。
タリスって何やってる人?」
大屋桜は大いに戸惑って、「斥候部隊長…」とぼう然として言った。
「となると、捕まえて吐かせようとしても何も言わない可能性はあるね。
桜姉ちゃんが知らないところで、
この軍は誰かが影の王として牛耳っているわけだ。
桜姉ちゃんはお人形さんでしかないね。
ここまでくると、やはり王室を疑うべきだろう。
楓と秋桜姉ちゃんは女王争いから離脱した。
残るは桜姉ちゃんと、モグラの菖蒲さん。
今はまだはっきりとは言えないけど、
秋桜姉ちゃんも楓も命を狙われる可能性がないとは言い切れない。
誰を押しているのかわからないかぎりね。
扱いやすそうなのは菖蒲さんだから、
その取り巻きの可能性が高いと思う」
するとハモンドが線の細い少し陽に焼けた男を鎖で縛って連れてきた。
「タリスさん?」と右京が男に顔を向けて聞くと男はにやりと笑っただけだ。
「変装している」と右京が見抜くと、ハモンドが男の顔を押さえつけて、特殊メイクをはいだ。
「…鯖江時子…
今は、菖蒲様のメイドだったな…」
ハモンドの言葉に、「はっ!」と時子は一声笑って口を開けたが、そのまま固まった。
「口の中に自決用の毒。
あ、俺が取り出すからいい」
右京は言ってからブルーパーに変身して時子の口の中から数個の小さなカプセルのような塊を取り出した。
「…致死性の高い猛毒だ…」とブルーパーは言ってすべてをファスナー付きのビニール袋に入れた。
すると楓はサラマンダーに変身して、体中にうっすらと炎を帯びている。
「…うわー… めっちゃ怒ってるなぁー…」とブルーパーは眉を下げて言った。
術で顎を固められた時子は、「あう、あう」としか言えなかった。
「王家の相続争いに手を出したらあとで面倒だぞ」
ブルーパーの言葉に、サラマンダーは思い直したようで、その姿を楓に戻した。
しかしその眼はしっかりと時子をにらんでいる。
「あうう… あうう…」と時子はよだれを垂らしながら泣きだし始めた。
ブルーパーはじっと時子を見ているだけだ。
「おかしいね?」と桜が初めて声を出して小首をかしげた。
「そうだね、かなりおかしい。
狙いが何なのか全くわからなくなった。
この時子さんは、女王様のスパイでもあるんだ。
今回の件は、女王様の命令で、だろうね…」
ブルーパーは言って、桜を見たのだ。
桜は大いに戸惑っている。
もちろん、全く身に覚えがないからだ。
「かなり飛躍してるけど、
実は桜も次期女王様候補のひとり」
ブルーパーの言葉に、時子は眼を見開いてから、憑きものが落ちたようにうなだれた。
「女王様はとんでもないことをしてくれていたようだ。
あえて桜を失意のどん底に陥れて、
その才能などを見抜く。
そして更生できれば、女王候補として王家の仲間入りをさせる、
とかな」
ブルーパーの言葉に、楓は強く桜を抱きしめると、桜もすがるように楓を抱きしめた。
ハモンドは何も言わずに、少しうなだれて首を横に振っただけだ。
「さて、ふたり桜がいるけど、
桜の本当の名前はどんな名前かな?
桜のままでいいかい?」
ブルーパーのやさしい問いかけに、「桃の花の方が好きぃー…」と桜は笑みを浮かべて言った。
「ああ、色鮮やかな濃いピンクで、
すごく甘い香りがするから俺も好きだ。
…桃の花…
桃花なんてどうだい?」
「うんっ! その方が好きっ!」と桜は大いに喜んで叫んだ。
「…桃花ちゃん…」と楓はつぶやいて、桃花の顔を見てからまた抱きしめた。
「血縁的には、母子じゃなくて姉妹のようだけどね。
桃花とは大いに縁があったもんだ」
ブルーパーは言って、桃花の頭をなでた。
「…ふむ…」とブルーパーは言って大いに考え始めたが、考える方は右京だと思ってロボに戻った。
「…何もかも、女王様の手のひらの上…
桃花を警察官の頃の俺と接触させようと仕向けた。
…桃花、あの交番に落としものとして届けにきたのは、
誰かに言われていたのかい?」
「あっ?!」と桃花は叫んでから、「…知らない女の人が… ブルーパーは優しいからって言われてから、ずっと…」とつぶやくように答えた。
「その出会いがどう転ぶかで桃花の資質を見抜こうとしたわけだ。
そして、本当の親と信じていた母親も、
もちろん自分の娘ではないことはわかっている。
下手をすると、桃花の父もグルかもしれないな…
あとで調べてもらうか…」
右京はため息交じりに言って、楓とともに席を立った。
「桜姉ちゃん、もう帰ってもいい?」と右京が聞くと、大屋桜は眉を下げて何度もうなづいていた。
大屋桜としては、右京と楓がそれほど怒っていないことに安堵していた。
「じゃ、またな」と右京はハモンドに親友として気さくに言うと、「ああ、またな」とハモンドも気さくに答えた。
右京はブルーパーに変身して、楓と桃花を抱きしめて城に向かって飛んだ。
工事現場に戻ると春之介が来ていて、作りかけの駅周辺を見回していた。
右京は春之介を気さくにあいさつを交わして、現在わかっているごみ捨て場や産業廃棄物をすべて使って、橋脚と透明のチューブを大量に創り上げた。
そのあと、駅から南方面の立ち入り禁止区域の土を固めるため、超巨大ローラを走らせる。
「それ、すげえなぁー…」と春之介は大いに感動して言った。
すると秋桜が戻って来て、「どこに行ってたのよ!」とかなり怒って言ってきたので、右京は女王様のたくらみなどすべてを早口で語った。
「…お疲れさまでした…」と秋桜は大いに眉を下げて右京を労った。
今回はかなりの量のゴミが手に入ったので、また橋脚とチューブを創り出した。
さらには高架下に道路用のマットを敷くと、鉄道と道路が同時に出来上がる。
道路は自治体にでも売ればいいので、これも鉄道会社の資金源となる。
よって、駅周辺は今すぐにでも営業できるほどまでに出来上がっていた。
まずは列車の試運転をしようと右京は思って、列車をリモートで駅の北側にゆっくりと運んだ。
駅構内に入るまでに、円を描くようにチューブを敷いているので、走行実験ができるように、チューブのポイントを切り替えた。
そして列車をゆっくりと始動させて、時速100キロまで一気にスピードを上げた。
「振動も音もない」と春之介は言って、満足そうにうなづいた。
「チューブの中は、風切音がすごいんでしょうけどね」と右京は苦笑いを浮かべて言った。
列車からの情報と、チューブの情報から何も問題がないので、200キロまでスピードを上げた。
何度も丁寧に確認して、最終的には時速800キロまでスピードを上げた。
「ジャポンの列車最高速度をマーク!」と右京は叫んで大いに喜んだ。
しかもほとんど音がしないので、質も含めると世界一の列車と言ってもいいはずだ。
すると、秋桜が呼んだようで、大勢のマスコミがこぞってやってきた。
秋桜の説明に、記者たちは必死になってメモを取っている。
もうすでにパンフレットも作ったようで、クロコダイルが記者たちに渡している。
ふたりは観崎駅周辺にもこのパンフレットを置いてきている。
「駅の名前は城下桃花駅に変更で」と右京が言うと、「わかったわ」とすべての事情を聞いていた秋桜は笑みを浮かべて答えた。
列車は簡単に時速1000キロを突破して、世界記録を樹立した。
しかも車内は快適で、走っている車内とは思えなほど揺れないのだ。
全くストレスを感じることなく、観崎駅と城下桃花駅を約20分で行き来することになる。
実際の乗車テストは明日以降にすることにして、列車を車両基地に戻して充電を開始した。
運転後の列車の状態にもまるで問題がなかったことを、右京は大いに喜んでいた。
モーターに問題が起きないだろうかと思っていたのだが、常温よりもたった一度しか変化がなかった。
重くはなるが、容量の大きいものを採用したことと、簡素な空冷式にしたことが功を奏したと思い、右京は大いに喜んでいる。
今日の作業はこの程度で終えて、右京一家は春之介とともにアニマールに戻った。
「天照島のチューブライナー以上だな…」と春之介が言うと、「天照島?」と右京は不思議そうに言って、子供の姿の天照大神を見た。
「あ、また別に、天照大神がいるんだよ。
源一様が住んでいた星の神だよ」
すると八丁畷桜良が大いにホホを膨らませていて、「また私が呼ばれるって思ってたのにぃー…」と大いに不機嫌そうに言った。
右京が廃材を再生して創っていると詳しく話をすると、桜良は大いにうなだれた。
材料を決まった場所から失敬することを桜良はそれほど得意としていないからだ。
だが右京が雇うことに決めると、桜良は小躍りして喜んでいる。
「…確実に勝手に商売するから…
…それにかなりせこいから、あまり笑ってやらないでほしい…」
春之介が小声で言うと、「…はい、そうします…」と右京も小声で答えた。
桜良を雇ったことについては春之介の願いのようなものなので、右京は素直に従った。
工事の二日目は二班に分かれて作業を行った。
単純作業になる長距離の橋脚とチューブの設置は桜良に任せて、右京と源一は観崎駅に飛んだ。
桜が手配をしていて、至る所で道路は通行止めになっていて、歩道も制限されていたので、いとも簡単に駅を創り上げて、それぞれの鉄道の高架の連絡通路も創り上げた。
まさにこの街のメインの観光スポットになったように、広大で素晴らしい環境に変貌した。
必要であれば高架下や階上にも店舗を出せるほど余裕ができている。
そして噴水や多くの花壇なども作り終えて、この場所は通勤客の穏やかな心のよりどころになるはずだ。
そしてチューブを巨大な円形のフラスコ型につなぎ終えて、あとは桜良と合流するだけとなった。
通行人たちはパンフレットやニュースでこの観崎駅が様変わりすることは知っていたが、まさに今だったと思い、スマートフォンなどで写真を撮っている。
少々近未来的な街の様子に、誰もが少し陽気になっていた。
すると桜良が飛んできて、「材料足りなくなったよ!」と陽気に叫んだ。
ここはまずは腹ごしらえと思い、完成した空中庭園広場で昼食を摂ることにした。
三人は大いに食事を摂ってから、右京は残り50キロ分の材料をすべてそろえた。
そしてあっという間にチューブを繋ぎ終えた。
三人は外側と内側から入念に目視確認をしてから、早速列車をチューブ内に誘導した。
列車は予備を含めて5編成用意した。
実際は上り下りを1編成ずつ使用することになる。
始発から終電まで、上り下りとも同時刻に30分おきに列車を走らせるのだ。
まずは確認として一編成だけ観崎駅に向けてリモートで走らせ、ブルーパーたちは外から確認を行う。
そして観崎駅でしばらく停車させてから、城下桃花駅に戻った。
全く問題ない走行を終え、三人は喜びあった。
次は列車に乗り込んで、実際の乗り心地を確認する。
全くもって快適で、ペットボトルの飲み物が全く揺れない。
今日のところは一往復しただけで試運転を終えた。
右京たちがアニマールの食卓で寛いでいると、かなり怒っている秋桜が社から出てきた。
列車に乗れなかったことが大いに気に入らないようだ。
「私もまだ乗ってないわよ」と楓が言うと、秋桜は大いに目を見開いている。
「…今日は何やってたのよぉー…」と秋桜が聞くと、「優夏さんと幼稚園児たちのお母さん役」と少し陽気に言った。
サラマンダーとしては右京たちの手伝いができないので、桜良の代わりにできることをやったまでだ。
秋桜は無理が言えなくなったことで、「…明日乗せてね…」と力なく右京に言った。
「明日は営業スピードで走らせるから。
時速350キロで20分で到着する。
だけど実際は時速600キロ出てるんだよな…
かなり不思議だ…」
「中が繋がってるとはいえ、少々速すぎるが、
何か得をするような現象でも起きているのかもしれないね。
新しい物理の理論を発見できるかもしれない」
右京と春之介の言葉に、「…それを解明できた人を雇っちゃうぅー…」と秋桜が言うと、右京も春之介も同意した。
よって翌日は、アニマール王立学校の生徒全員で遠足に行くことになった。
今日の予定は、城下桃花駅と観崎駅を何度も往復するだけだ。
大勢の人を乗せているのだが、列車はまるで何も乗せていないようにスムーズに運行する。
よって、無重力状態が発生しているのかもしれないと、源一も右京も閃いていた。
しかも上り下りの二両を走らせるとさらに効率が良くなる。
一度フル充電すると、終電まで充電する必要がないほどにエネルギー消費が少なくなったのだ。
列車とチューブの状態を確認したが、何も問題はない。
「…まさかだが…
チューブ自体の素材の分析を先にした方がいいかもしれない…
思わぬ偶然が、この素晴らしい効果を生んでいるような気がするね」
源一の言葉に、右京も大いに賛同して、まだ残っているごみを使って、実際に使っているチューブを創り上げた。
春夏秋冬と右京が分析をして、考えられないものがチューブに含まれていたことが判明したのだ。
春夏秋冬が分析結果の画像を宙に浮かべて、「…虹鉄に似た成分と、ラット石に似た成分が検出されました…」と眼を見開いて報告した。
「チューブ自体が宇宙船…」と春之介が言って、大いに苦笑いを浮かべた。
「しかも、右京様の計算よりも強度が上がっています。
この二つの成分がチューブを固く柔軟にしているおかげと推測します」
右京も目を見開いていて、「…特に変わったことは何もしていませんが…」と言いながら、混沌で造り上げる工程の一覧を宙に浮かべた。
「…工程が多いな…」と春之介が言って、素早く読んでから、右京と同じように巨大なチューブを創り上げた。
すぐさま春夏秋冬と右京が分析して、「このチューブが俺の計算通りのものです」と結果を言った。
「…そうなるよなぁー…」と春之介が言ってこの件に関しては納得していた。
よって右京の魂の混沌の球自体に何らかの原因があるのだろうと春之介は言った。
「じゃあさ、ものづくりの基本として、
創り出す時の感情」
春之介の言葉に、「…事故がないように… 喜んでもらえるように…」と右京が言うと、春之介は笑みを浮かべてうなづいて、春之介はまたチューブを創り上げた。
そして分析すると、「…意味不明の物質が混ざっています…」と春夏秋冬が大いに眉を下げて言った。
「今は知らなくていいさ。
感情次第で、いいものも悪いものも生まれるってことだよ」
春之介は言って右京と陽気に肩を組んだ。
学生たちは高速列車に乗るだけという遠足を終えてアニマールに戻ったのだが、今日もまた秋桜が血相を変えて社から出てきた。
今日は生徒たちとともに列車の旅を何度も満喫したので、その件の苦情ではない。
「マスコミが騒ぎ始めたの。
どの学校も使ってない制服を着た学生が大勢いたって。
大量の宇宙人がやってきたって」
「大正解」と春之介は言って大いに笑った。
「クロコダイルだって、異星人じゃないか…」と右京が言うと、「…もうすでに忘れてたぁー…」と秋桜は言って大いに眉を下げている。
「どこにでもありそうな制服だけど、
全く同じじゃないから、気になって調べまくったんだろうね。
ジャポンで使われていない制服だったから、
世界中の制服を調べたけど一致するものがなかった。
だから宇宙人だという話は分かるけど、
新設校の制服だったら誰も知らないだろうなぁー…」
春之介の言葉に、秋桜は笑みを浮かべてから素早く頭を下げて、クロコダイルとともに社に駆け込んだ。
「…城下町に学校を創る計画がありますので…」と右京が言うと、「ここの制服を使えばいいさ」と春之介は陽気に言った。
「では、アニマール学園という校名にさせていただきます」
「学力は二の次で、素直でいい子だけを入学させてあげて欲しいね。
そういった子は優秀になれる資格があるものだから」
右京はすべてを心に刻んで、春之介に頭を下げた。
するとまた秋桜が血相を変えた顔をして戻ってきた。
そして、「女王様が視察に来るって!!」と秋桜が叫んだ。
「王の権限で運航許可をもらえばいいんだろうけど、
鉄道会社の従業員は?」
「コンピューターに明るい社員を30名ほど。
それなりに使える上司を5人雇ったわ」
さすが秋桜は仕事が早いなどと右京は思って、「研修は?」と聞くと、「私の直属の部下にやらせてるわ」となんでもないことのように言った。
難しことは何ひとつないので、それなり以上の知識を持っていれば、安全に運行できるように作り込んである。
しかも、上りと下りのニ編成だけだし、しかもうっかりミスがあっても、中央監視システムがすぐさま列車を止めるように組み込んである。
もちろんその確認も終えている。
さらには右京がシステムに入り込めるので、どのような事態に陥ろうと事故は未然に防ぐことが可能だ。
「問題は桃花の件だけになったな」と右京が言うと、秋桜と楓が大いに眉を下げた。
その桃花は昼食を終えて学友たちと今日の遠足についての感想文を書いている。
何度も乗っていて、ひとつやふたつは何か感じることがあったはずなのだ。
「女王様は明日来るの?」
「今すぐにでもっていう勢いだったけど、
明日の朝一番にしてもらったわ…」
右京は何度もうなづいてから、課題が終わった桃花を呼んだ。
「女王様と対決することになる。
しかし、桃花がジャポンに女王の後継者になりたいのなら、
俺たちは何も言わない」
「言わないわけないわよ!」と楓は大いに右京に反抗した。
「ママ、そうじゃないの。
パパは、私のためを思って言ってくれたの」
桃花の言葉に、楓は大いに眉を下げてからうなだれた。
「私はひとつの国じゃなくて、星の王様になります!」
桃花の言葉に、右京と源一だけが大いに拍手をした。
そしてふたりはこの場にいる者たちに拍手をするように促した。
「その覚悟があるのなら何も言わない。
桃花の邪魔をする者は、パパとママで排除する。
その程度の手伝いはさせてほしい」
「はいっ! ありがとう、パパッ!!」と桃花は笑みを浮かべて叫んで右京に抱きついた。
「…俺も協力してやろうかぁー…」と春之介が大いに気合を入れて言うと、「…私も手伝っちゃうぅー…」と優夏も春之介に倣った。
心強い大人4人に守られた桃花は、大いに胸を張っていた。
もうすでに、小さないながらも女王様がここに君臨していた。
桃花が子供たちに向けて陽気に手招きすると、悪魔っ子たちがすぐさまやってきた。
「みんな、頼んだよ」と右京は言って、全員の頭をなでて回った。
楓も負けじと、悪魔っ子たちを抱きしめて回った。
「クロちゃん、こっちに来る?」と桃花が聞くと、クロコダイルと秋桜は大いに苦笑いを浮かべていた。
だがここは茶色い小さなクマの秋之介が走ってやってきて、雄々しき人型に変身した。
「お任せあれ」と秋之介が言うと、「あはははっ!」と桃花は陽気に笑って秋之介の太い足を抱きしめた。
よってクロコダイルは、秋桜のお付きが決定的となった。
しかし、小さな犬の夏之介がクロコダイルを見上げていた。
「時には、お願いできますか?」とクロコダイルが丁寧に言うと、夏之介は人型の少年に変身して、「はい、いいトレーニングになリそうです」と笑みを浮かべて言った。
「…あー…」と桃花は言って、秋之介を見上げてから、夏之介を見上げて、ホホを赤らめた。
「…初めて変身したなぁー…」と春之介は夏之介を見て言った。
「ここぞとばかりにアピールしたのね…」と優夏は言って、恋の予感の胸の激しい鼓動が止まらなくなっていた。
「そうだったのですか…」と右京は言って大いに苦笑いを浮かべていた。
「…いいの… 桃花ちゃんが幸せになれるのなら…」と楓はホホを赤らめて、右京を見上げて言った。
「今の桃花には夏之介はちょうどいいパートナだーだ。
この先の桃花の成長によっては、
夏之介程度では満足できないかもしれないけど、
夏之介も黙っていないだろうね」
秋之介は神という存在で、夏之介は巫女という存在だ。
巫女は神のサポートを請け負う仕事を主にするのだが、能力次第では神へのステップアップも大いに可能だ。
まだ巫女である夏之介が本気で上を目指そうと奮起を始めたので、春之介としては何も言うことはなかった。
「大きな経験を積んだ子供や大人以上に鋭いところがあるから、
何かを持っていることは確実なんだ」
春之介の言葉に、右京も大いに賛同した。
「はい、何度もその事実を確認しています。
桃花はそれほど饒舌ではないのですが、
口から出た言葉の意味がまだよくわからないようです。
ですので、確実に何かに化けると思っています」
すると、桜良が両手のひらで口を押えて踊り始めた。
「…言いたいけど我慢することにしたようだよ…」と春之介が眉を下げて言うと、右京も同じ顔をしていた。
翌日、朝食を終えてから、右京の家族と春之介の家族は、まずは女王である大屋蓮華と面会することになった。
そして蓮華は大いに戸惑っている。
桃花が手の届かない場所にいたからだ。
距離は近いのだが、屈強な者たちに守られているからだ。
よってここは小細工なしに、「桜は私の産んだ子です」と蓮華はすぐさま桃花を見て言った。
「私、桃花だよ?」と答えると、蓮華は大いに戸惑って側近たちを見入った。
誰も何も知らなかったようで、側近たちも大いに慌てた。
「本当の名前は桃代です」と蓮華が威厳を持って言うと、「桃花の方がいいもん!」と桃花は言い放った。
「…名前争いで負けたぁー…」と蓮華が大いに悔しがって言うと、楓と優夏はさも愉快そうに笑った。
「それに、女王様の子だって、今初めて知ったもん。
だけど私にはお父さんもお母さんもいるから、
困るようなことは言わないでほしいなぁー…」
桃花の言葉に、蓮華は大いにうなだれた。
―― 生みの親よりも育ての親… ―― と蓮華は思って、自分自身の策略に大いなる落ち度があったと思い、ひとりの女性の顔を思い出していた。
「そんなことよりも、チューブライナーに乗るんですよね?」
「営業は許可するわ…
資料や提出物はすべてそろっています。
できればさらに手を広げてもらいたいところだけれど、
この星はもういらないそうね」
蓮華は右京を大いににらんで言った。
「俺としては早々に出て行きたいところですが、
秋桜姉ちゃんがまだ納得していないのでね。
その手伝いはするつもりです」
「…そう、わかったわ…」と蓮華は言って、側近たちを引き連れて部屋を出て行った。
「鉄道はついでだったようね…」と秋桜は眉を下げて言った。
「サービスで無料運転でもして集客に励めば?」と右京が言うと、「…訓練がてらそれもいいわ…」と秋桜は言って、クロコダイルと夏之助を連れて廊下に出た。
「用事はもう終わったから、みんなは学校だ」と右京が言うと桃花たちは少し眉を下げてから、秋之介とともに社に入って行った。
「子供心にも拍子抜けだったようだ…」と右京が言うと、「ここでみんなと遊ぶ気満々だったようよ…」と楓は眉を下げて言ったが、すぐに愉快そうに笑った。
「まだまだ子供らしくていいさ」と右京は笑みを浮かべて言った。
「ところで…
俺たちのお付きも欲しいところだよね…
まあ、どうしてもってわけじゃないけど…」
「俺もそうしたいんだけどな…
暇なのは俺と優夏さんだけだ」
春之介は言って、右京と肩を組んだ。
「この星の候補は…
…いそうにないわ…」
優夏は眉を下げて言った。
「心当たりはあるんですけどね、ロボですけど」
右京の言葉に、楓は大いに眉を上げて、「四宮や二郷は許さないわよ!」と叫んだ。
「ふたりは一癖も二癖もあるから、
疲れるからいらないよ…
ブラックソルジャーかブラックスライサー程度でいいんだ」
「…色々と教え込むわけね…」と楓は大いにうなづきながら言った。
「合格が出たら、源一様にお願いして造り直してもらうから」
「…許可しそうだわ…」と楓は少し呆れて言った。
秋桜がいなくなったことで、右京たちもアニマールに戻った。
そして修練場で鍛えていると、ブルーパーにクロコダイルが追い付いてきた。
「何か問題でも?」とブルーパーは言って少しペースダウンした。
「いえ、ご意見をお聞きしようと思いまして…」とクロコダイルは言って、秋桜の言葉を伝えた。
右京はすぐさま桜良を推薦すると、クロコダイルは笑みを浮かべて礼を言ってからコースアウトしていった。
交通機関は今のところ必要ないようで、駅の周りを城下町化していきたいそうだ。
よって建築が得意な桜良を推薦したわけだ。
駅は見た目は近未来的だが、駅舎自体は城にあわせて建てたので、ほかの建築物も全てを木造建築として建てたいそうだ。
すると桜良がクロコダイルの手を引っ張って右京に追い付いてきた。
「お仕事手伝って!」と桜良が叫ぶと、「俺の得意分野じゃないから桜良先生を推薦したんだけど…」と右京は眉を下げて言った。
「ライフラインを処理する人が欲しいのぉー…」と桜良が甘えるように言うと、「あ、それは重要だ」と右京は言ってゆっくりとペースダウンした。
そしてリフレッシュしてから腹ごしらえも終えて、今日は楓と八丁畷レスターも連れて城に移動した。
「…うふふ… 私の城下町を完成させなさぁーい…」と秋桜が妙な威厳を放って言うと、「肉体の鍛錬よりもハードになりそうだ…」と右京はあきれるように言った。
秋桜に大雑把な完成予想図をもらってから、右京は細かい部分の建築図を書いて、秋桜に渡して許可を得た。
多いのは住宅だが、大きな建物に学校と商店街がある。
産地直売の小屋も、この商店街に移動することになる。
商店街はアーケードを採用して、電気仕掛けで開閉式にすることに決めた。
さらには住居にはすべてに大きな軒を設けて、雨が降っても傘なしでほぼ濡れないように家まで帰れるように工夫もしていた。
観光客と住人へのちょっとした気遣いだ。
軒下での夕涼みや水遊びもおつなものだろう。
道路に陸橋なども設置するのだが、全てに屋根がついている。
右京たちは草原の草の処理をしてから、均等に二メートルほど掘り下げた。
そして設計図通りにハンドホールとマンホールを埋めて回った。
電気は車両基地から引いてもよかったのだが、住居用、学校用、商店街用それぞれに発電施設を設けることにした。
しかしハンドホールはすべてを網羅するようにして繋げて、通信用のラインを引いて、全てを埋めてから、道路の部分だけしっかりと超巨大ローラーで固めて回った。
すると桜良がなぜか喜んでいる。
この超巨大ローラーの活躍を見たかったようで、夫のレスターは苦笑いを浮かべて右京に頭を下げていた。
何もかもすべて自分だけでものづくりをしていたが、誰にでも得手不得手がある。
桜良は機械を扱うことが苦手なようだ。
ここからは楓にも手伝ってもらって、至る所に木を植え、花壇を造って回った。
この町には必ず造園業者と花屋、ホームセンターなども必要になる。
さらには数カ所に小さいながらも児童公園を造って回った。
そのノウハウは春之介の影の春夏秋冬から収集を終えている。
何もかもが柔らかく、ちょっとした怪我もしないように造られている。
少々過保護にも思えるのだが、楽しい場所での不幸は避けるべきだという想いも強い。
右京と楓は農地の近くに、少し大きめの児童公園を作ると、子供たちがわらわらとやって来て、大いにはしゃいで遊び始めた。
すると秋桜がやって来て設計の追加があった。
「…総合運動グランド…
まあ、土地があるのなら、
自然一杯のここは最適だと思う。
また別の集客も認められるし、
鉄道会社を造った意味もできる」
「これはまだ決まってないんだけど、
ウルトラスーパーベースボールの球場も作るように進言したの。
今のところはフリージアでしか試合はしないそうだから。
収容人数100万人は魅力だわ…」
秋桜が夢見る乙女のような顔をして言うと、「それだけ運ぶのに今の乗車率では丸一日かかるぞ…」と右京がさも当然のように言うと、「列車もっと長くしてぇー…」と秋桜が懇願してきた。
「まずは安全を考えて、最長でも10両編成だ。
一度に最大で千人運べる交通機関が順当なんだよ。
無理をすると、必ずどこかでボロが出るぞ」
右京の言葉に楓も賛同して秋桜をにらみつけると、「ほかの交通機関も考えといて!」と叫んでから逃げるようにして城に向かって走って行った。
「ま、あるけどな」と右京は言って素晴らしい道路を見た。
「どうするのかまだ決めてなくてよかったわね」と楓も笑みを浮かべて言った。
「大きなバスターミナルが必要だ。
ここはいいけど、
観崎駅は少し長いバスターミナルにする必要があるなぁー…
専用道路だし、百キロほど出しても問題ない。
所要時間一時間20分のバスの旅もいいだろう。
この道路を横切る道はもう処理済みだし問題はないはずだ。
バスの台数は100ほどは必要になるかなぁー…
一度に走らせて5000人を運べる。
時間を考えると、列車とほぼ同等の輸送力程度か…」
観光客用の駐車場はもうすでにあり、景観を損なわないように右京がもうすでに造り替えてある。
一度に百万人を呼ぶのには、まだまだ輸送力が足りない。
「もう一本、バイパスを造るか…」と右京は言って、チューブを見上げた。
「上を専用道路にするのね?」
「そうすれば下の道は自由に使ってもらえるし、
移動ルートは現状のものと合わせてふたつできることになるから、
渋滞を避けられると思う。
あ…
だったら上は道路じゃなく鉄道、モノレールでもいいか…
その方が大量に運べて安全だ。
三カ所で、駅を造ってほしいと嘆願があった。
その問題もクリアになる」
「速度はそれほど出さないのよね?」と楓が眉を下げて聞くと、「モノレールのようなジェット機を考えた」と右京は笑みを浮かべて言った。
「戦闘機のカタパルト…」と楓が大いに苦笑いを浮かべて言った。
「レールのある飛行機。
だけど問題は騒音だ。
せっかくのチューブライナーの無騒音が台無しになるから、
かなり考える必要がある。
あとは、お転婆姫が置いて行ったモグラタンク」
「地下鉄も作るのね…
この路線地はかなり開発されちゃうわよ?」
「まずは人を運べとのご用命だ。
そこは秋桜姉ちゃんが考えるだろう。
まずは案として提出しておこう」
秋桜はアニマールにいると春夏秋冬から聞きつけたので伝えておいてもらうことにして、右京と楓は桜良のダイナミックなものづくりを眺めながら、こまごまとした作業を楽しんだ。
そして完成した家とのライフラインをつないで、数十世帯はもう生活ができるようになった。
産地直売店も商店街に移動して、今までよりも土産物をじっくりと見て回れるようになった。
ストックもかなり置けるので、まさに大いに売れているというアピールもできる。
やはり野菜がまだまだ高いので、規格外のものが飛ぶように売れる。
右京と楓がその運搬の手伝いをするほど忙しくなっていた。
右京は手動式のオイルジャッキ付きの台車を数台提供すると、農民たちは大いに喜んで、楽しそうに運搬作業を始めた。
右京と楓が産地直売店の解体をしていると、子供たちが眉を下げてやってきた。
「あとで城の近くに造るから。
お前たち専用の児童公園にすればいい」
右京が察して言うと、子供たちは大いに喜んで、右京たちの手伝いをした。
住民専用に新しく作った児童公園には図書館も併設させた。
子供たちが通っている公立学校はここからはるか南にあるので、この地の学校も早々に開校した方がいいと右京は思っている。
本を仕入れたついでに、仕入れを頼んだ書店がこの商店街に出店したい意思を見せてきたので、右京の独断で許可した。
大きな書店なので、デメリットは何もない。
しかも田舎なので、家賃は安いものだ。
すると、ようやくひと段落ついた農民たちは子供のような顔をして、書店がオープンするのを心待ちにしていた。
ここは右京と楓が大いに手伝って、半分程度だが強制的に書店をオープンさせた。
農民たちも書店の従業員も大いに礼を言って、早速記念セールが始まった。
書籍の安売りはしないのだが、バックナンバーは安売りをする場合がある。
さらにはステーショナリーグッズなどもそろえ始め、多くの農民たちに笑みをもたらせた。
早急に運搬できたのは、チューブ下の道路を使ってもらったからだ。
まさに大量の書籍がスムーズに運び込まれていた。
するとアニマールのメイドたちがやって来て、洒落たカフェなどを開店した。
右京は桜良とレスターを呼んで、ささやかな昼食会を豪快に行った。
もうすでに活気にあふれている商店街に笑みを向けて食事を楽しんだ。
ついに大勢の観光客もやって来て、商品は飛ぶように売れた。
そしていつの間にか、親衛隊を引き連れた桃花が右京と楓に笑みを浮かべて見上げていた。
今は制服姿なので、右京も楓もその愛らしさに大いに目尻を下げていた。
「児童公園と図書館、みんな喜んでたよ!」と桃花は陽気に言った。
「ここに足りないものを創っただけさ」と右京は少し照れながら答えた。
「こっちの学校にも通おうかなぁー…」と現在建築中の学校を眺めながら桃花は言った。
「午後はこっちに来てもいいと思うけど?
少々疲れるかもしれないけどな」
「ううん! そうしたい!」と桃花が言うと、右京も楓もすぐに賛成した。
学校もあり生徒もいるが、肝心の教師がいない。
もちろん、秋桜が手配をしているだろうが、それほどすぐに開校できるわけではない。
右京は同志で優秀だった者に大屋桜から連絡してもらうと、その大屋桜が右京の旧友を戦闘機に乗せて城の空き地に降りてきた。
「本当にブルーパーが京馬だったのかっ?!」
やはりこのジャポンではブルーパーは超有名人だった。
「ハモンドに会ったかい?」
「相変わらず偉そうなヤツだ!」と佐久間為吉は大いに怒鳴った。
右京は楓と桃花に佐久間の紹介をした。
「…お前… こんなに若い嫁さんもらってかわいい女子まで…
許されるとでも思っているのかぁー…」
佐久間は大いに憤慨して、「暇だったらここの学校の校長を頼もうと思っていたんだが…」と右京が言うと、佐久間は目を見開いた。
「おおー… 本当にかわいいお子様たちだぁー…」と佐久間はいきなり好々爺に変身して、子供たちとスキンシップをとった。
「…ん、この制服…」と佐久間はすぐに気づいた。
大々的に報道されていたので、知らない者はいない。
「学校の名前はアニマール学園。
できれば水戸右京校というサブネームも付けてくれ」
「アニマールという学校の系列校というわけか…
そこに連れて行け」
「察しがよくて何よりだ」と右京は言って、秋之介に佐久間をアニマールに連れて行ってもらうように頼んだ。
桃花たちは佐久間の手を引っ張って、城に向かって走って行った。
「…息切れどころか、昇天しなきゃいいが…」と右京が言うと、楓は大いに眉を下げていた。
あとで知ったことだが、右京の想像通り佐久間は優秀さを惜しげもなく発揮して、大きな学校の創始者となっていた。
今は勇退していたので、優秀な人材の獲得という意味で言えば、まさにかなりのツキがあった。
まさか佐久間を校長にするとは思わなかったようで、秋桜は勢い勇んで、こまごまと働いている右京のそばにやってきた。
「何か不満でも?」と右京が聞くと、「出し惜しみしないでもっと出しなさい!」と秋桜は大いに笑みを浮かべて言った。
「ほかはいないよ。
やつが最後の切り札のようなものさ。
あの戦場から帰ってきた者は、
どんなことでも耐えられたはずだからね。
あ、なんなら、
色々と事情を知っている中条さんにも協力してもらえば?
主に語学に長けた優秀な教師が手に入るかも」
秋桜は礼も言わずに、クロコダイルと夏之介の手を握って走って行った。
そしてすぐさま、飛行艇が飛び立った。
「…半分ほどは秋桜姉ちゃんのデートだな…
まあ、楽しそうなので別にいい…」
右京が嘆くように言うと、楓は愉快そうに笑った。
街としては見た目はもう完成したと言っていい。
足りないのはこの街に住む住人だけだ。
しかし、観光客と工場で働く工員で、商店街はごった返している。
よって、少々手狭だと右京たちは思い始めた。
商店街は深い森に沿って建てたので、森を切り崩せば通りをふたつ造り上げることはできるが、さすがにそれはしたくない。
よって木を移植することに決め、まずは木を植え直す草原の土地の地面を一メートルほど均等に掘った。
そして幅30メートルほどを商店街として使えるように、木を丁寧に掘り起こしてから、均等に並ぶように木を植え替えていく。
右京でもいいのだが、ここはブルーパーに変身して、かなり効率よく植樹を終えて、商店街を建てる下準備を終えた。
桜良はまだ仕事ができるなどと思いながらやってきたが、「今日はもう終わりにしませんか?」という右京の言葉を尊重して、右京たちは穴をあけた部分にバリケードやフェンスを設置してからアニマールに戻った。
右京たちはリフレッシュをしてティータイムを楽しんでいると、笑みを浮かべて秋桜がやってきた。
秋桜もお茶に付き合うことにして、今日の成果と明日からの作業について話し合った。
「そうだね、賃貸の方がよさそうだ。
維持費はかかるけど、それほど面倒なことにはならないからね」
住居については土地も建物も売らずに、住まわせるだけにする。
よって、田舎ということもあってそれほど高い賃料はとらない。
さらには工場の工員なども、社宅ではなく一戸建てに住みたいと思っている者もいるだろうということで、さらに安価で家を貸すことに決めた。
しかし、全てにおいて条件が厳しい。
その見極めを、右京たち家族にしろと、秋桜は言ってきたのだ。
「…一番面倒な仕事をくれたもんだね…」と右京は言って眉を下げたが、楓も桃花も一緒に仕事ができるのならと賛成した。
よって右京がふたりに従うしかなかった。
午後からは桃花の学校が終わるので、昼食後に住人希望者の面談を行うことになった。
もうすでに募集をかけていて、チューブライナーの運行を始める日から、引っ越しを受け入れることに決めた。
よって、チューブの下の道路は、今のところは何もしないことに決めた。
引っ越し用のトラックをスムーズに受け入れられるからだ。
住居の半数が埋まった時点で、道路の利用方法を考えることにしたのだが、商店街の商品搬入などを考えると、今のまま使用した方がいいのではないかと右京は言った。
さらには、こちらの生産品を運び出すことにも使えるので、道路は私有地のままとした方がいいという結果を出した。
そして広大な運動公園については、ごく一般的な野球の球場と陸上競技場、フットボールのグランドやテニスコートを建てることに決めた。
しかし秋桜はまだ、ウルトラスーパーベースボールの興行を諦めたわけではない。
何とかして、さらに集客できるような交通手段を作り上げようと、大いに画策していた。
さらには、ほんの数日間の利益を使って、広大な土地を買い取っていた。
まさにカネに糸目はつけないと言わんばかりに、カネをばらまくようにして土地を手に入れた。
「…埋蔵金とか、掘り出して?」と秋桜がかわいらしく言うと、「…あればいいけどね…」と右京は大いに苦笑いを浮かべた。
ジャポンの国民はかなりルーズで、歴史などにはそれほど興味がない。
戦いの連続で、大屋家が天下統一を果たしてから、その歩みを知るために考古学という学問ができたと言っていい。
天下統一してからまだ五百年ほどしか経っていないので、新事実は色々と出てくる。
水戸右京城を建てた辺りにも遺跡があって、地面をくりぬいて別の場所で調査をさせているそうだ。
そして秋桜は夏之介に命令して、この辺りに金貨を埋めさせていた。
右京はこのお遊びに付き合わされて、辺りを見回してほんの数秒で三カ所のお宝の場所を指で示した。
「えっ?!」と少年の姿の夏之介が驚きの声を上げて、右京が二番目に指をさした場所を見入っている。
「そこだけかなり深いと思うけど、違ったの?」と右京が言うと、春之介が大いに興味を持って、「これはまた別のようだ」と言って、お目当てのものを掘り出した。
貴金属には違いなさそうだが、金貨ではなく銀色だった。
「あっ! それっ!! 僕の僕の!!」とゼルダが大声で叫んで、春之介の肩に飛んできた。
「随分と昔に埋めたもんだな…
数万年は経ってるだろ…」
「あはは! そうだろうね!」とゼルダは陽気に言って、丸い銀色のメダルのようなものを受け取った。
「ここに住まわせていた動物にもらったんだよ。
僕の財布はここら辺りの地面だから」
例えが面白かったので、春之介も右京も大いに笑った。
「…となると、金目のものはそれだけのようだな…」と春之介が言うと、「僕の大切な思い出だ!」とゼルダは胸を張って言った。
よって右京は貴金属ではない、変わったものだけを探り、かなりの数のガラクタが現れた。
その中には石に刻んだ芸術品のようなものまである。
ゼルダは大いに右京に礼を言って、春之介に陳列台を造ってもらって飾り始めた。
「かなり大勢の動物が立ち寄ってるな…
まあ、穏やかなゼルダがこの星の長だったからという理由もあるようだけどね」
春之介は苦笑いを浮かべて言うと、「…お宝は手に入ったも同然だわぁー…」と秋桜は言って、懇願の眼を右京に向けた。
「宝探し、行くのっ!!」と桃花が陽気に言うと、右京に断る言葉はなかった。
夕食までの二時間だけ桃花に付き合うことにして、秋桜が団長のようにして胸を張って先頭に立った。
右京は大いに眉を下げながらも広大な土地を見まわした。
そしてブルーパーに変身してから、植樹をした森に向かって歩いて行った。
秋桜は大いにワクワクしていて、「竜巻城っていう、武将の屋敷があったようよ」と冊子を開いて言った。
「かなり深い…
十メートルほど掘らなきゃな」
右京はさもめんどくさそうに言ったが、一辺二メートルほどの長い土の塊を持ち上げて、横にして置いた。
秋桜は喜ぶどころか大いに呆れていた。
しかしここは宝探しと言わんばかりに、まずは、「右京君に戻って」と言った。
もちろん、右京自身が記録装置でもあるので、証拠として使えるからだ。
ブルーパーは逆らうことなく右京に戻った。
「…ロボットを虐待してない?」と右京が言うと、「してないしてない!」と秋桜は慌てて言った。
右京のへそを曲げてしまうような言動は慎まないと、いくら桃花の願いとはいえ、発掘作業が滞ってしまうかもしれないからだ。
しかし桃花は秋桜の隣に寄り添って、長い土の柱の底の部分を丁寧に掘り始めた。
「あっ!」と桃花は言って、満面の笑みを右京に向けた。
桃花が丁寧に指でさすると、金色の何かが光っているのだ。
「…ああ… 昔の流通貨だわぁー…」と秋桜は恍惚の表情をして言った。
だが、考古学がそれほど一般的ではないお国柄なので、プレミアなどはまずつかないので、貴金属自体の価値でしかない。
右京は笑みを浮かべて、楽しそうな桃花を見てるだけだ。
しかし、その黄金色の物質をつぶさに見て、「…ダイキン?」と右京が言うと、「えっ?!」と秋桜が驚きの声を上げた。
「桃花、一枚だけ手にとってみろ」と右京は言ったが、「…くっついてるぅー…」と桃花は眉を下げて言った。
右京はブルーパーに変身して、「手のひらを出して」というと、桃花は手のひらを上に向けた。
「…おっ ずっしり来た…」とブルーパーは苦笑いを浮かべて言って、人工的に加工が加えられている直径3センチほどのメダルのようなものをサイコキネッシスで持ち上げて、桃花の手のひらの上にゆっくりと乗せると、「重い重い重いっ!」と桃花が叫んだ。
秋桜が真剣な顔をして手のひらを上に向けたので、ブルーパーはメダルを操って秋桜の手のひらの上に乗せると、秋桜の手は地面に埋まる勢いで手を突いた。
「…間違いなくダイキンだわぁー…」と秋桜は少し涙目になりながらも言った。
「じゃ、ほっといて帰るか…」とブルーパーが言うと、「イジメちゃダメ」と楓が愉快そうに言って、メダルを持ち上げようとしたが叶わなかった。
「さすが、この星で一番重い金属だ。
しかも加工したものは俺は知らない。
かなりの数を集めて、メダルにしたんだろうな。
この金属の溶解点は一万度以上だ。
大昔の方が、高度な技術を持っていたんじゃないのかなぁー…」
「使えないものには目もくれなかったのね…
だけど今となっては、ダイキンは超高価な貴金属だわ…」
ついに秋桜がブルーパーをにらみ始めたので、秋桜の手からメダルを浮かせた。
「それ一枚だけで、この土地の資産価値と同額だろうね」
「それは言えるわね…」と秋桜は痛む手をさすりながら言った。
ここからは右京、クロコダイル、夏之介が丁寧に掘り出して、メダルを磨いた。
全て同じ型で、誰かの肖像画と文字が刻まれている。
「和馬さんに似てない?」と楓が言うと、「似てる似てる!」と桃花が陽気に叫んだ。
「推定だけど、今から5万年ほど前の地層だ。
この土地は柔らかいものだったから、
雨が降ると浸食されていたそうだ。
地表に近づくにつれて、土が硬くなっている。
普通は逆なんだけどな」
メダルは百枚ほどあり、ほかの埋葬物は別の金属で作られた宝石箱のようなものも出てきた。
「この箱だけでも、5千万モエ程だろう。
素材は普通の金。
だけどかなり重い」
桃花は頑張ったのだが、持ち上げることができなかった。
鍵などの高度な技術はなかったのか、力任せにふたを開けることができそうだ。
これだけ重量があれば、そう簡単に開けることはできない。
しかしふたは開かなかった。
ブルーパーは箱を透視して、ふたの部分の側面を上に押し上げた。
「簡素な組み木細工のようだね。
これでふたが開く」
秋桜が、「…ふふふふ…」と不敵に笑いながらふたを開けた。
すると、丸いガラス玉のようなものが敷き詰められていて、少し変色した紙が入っている。
紙は四つ折りにしているように見えた。
「この透明の球、何か意味があると思う?」と秋桜がブルーパーに聞くと、「ダイヤだよ」とすぐさま答えた。
ブルーパーは丸い透明の球を手に取って、白い紙を出して球を置いた。
「…青くなったような…」と楓が言うと、「それが良質のダイヤモンドの性質だよ」とブルーパーは笑みを浮かべて言った。
「たぶん、ダイキンで工具でも造って、
ダイヤを丸く加工したんじゃないの?
かなり磨き上げてるから、相当時間がかかったと思うし、
ひとつひとつがかなり大きい。
価値としては値をつけられないね。
だけど、この玉全部でジャポンを買えることは、
ほぼ確実だろう」
透明の球は数えきれないほど入っている。
「さて、ここで提案だ」
ブルーパーが言うと、誰もが大いに緊張していた。
「これはすべて、アニマールに持ち込んで管理してもらおうと思う。
この事実を知られたら、戦争が起こる気がしてならない」
ブルーパーの真剣な言葉に、「…そうした方がよさそう…」とすぐさま秋桜が言って眉を下げた。
「金貨と交換してもらってもいいさ。
大金持ちになることには違いなさそうだし。
小人族は貴金属に詳しいから、
値をつけてもらえばいい。
メダル一枚とダイヤ一個で、
それなりの大金持ちになれると思う」
「…そうしてみるわ…」と秋桜は言って、次の興味は折りたたまれている紙になった。
現在の製紙のようにコシはそれほどないように見える。
そして少し厚みがあるようなので、手すき和紙のようにも見えた。
ブルーパーは全く意識せずに紙を開いて、「うつけもの?」と言った。
すると全員がこの場から飛びのいた。
箱を開けたことで、災いがあるとでも思ったようだ。
「いや、危険はない」とブルーパーは言って、秋桜に紙を渡すと、「どこにそんなこと書いてんのよ!」と大いに怒鳴った。
ブルーパーは模様のような文字に指をさして、「うつけ、もの」と言ってから、大いに考え込み始めた。
「これは、古い神の一族の文字のはずです。
ほかに、どなたか読めますか?」
すると、桃花が眉を下げて手を上げたのだ。
「…俺と桃花はやっぱり繋がっていた…」とブルーパーは言ったが、寂しそうな顔をしている楓を見て眉を下げた。
「魂の過去の話だ。
現世はしっかりと、俺たちは家族となった。
春之介さんと優夏さんは古い神の一族の一員だが、
源一様と花蓮さん夫婦の場合、
源一様は古い神の一族の関係者なんだ。
だから俺たちのようなパートナーであっても、何も問題ないんだよ」
「楓様は、ヤマ様のお孫様と聞いています」と夏之介が言うと、「え?!」と誰もが眼を見開いた。
「動物の古い神の一族の頂点におられるヤマ様は、
数名のお子様をお産みになりました。
その中のお孫様に春之介様もおられるのです。
楓様は動物ですので、古い神の一族の文字は読めないはずなのです。
ですか、別の何かを感じるはずです」
夏之介の言葉に、楓はマジマジと紙に書かれた文字を見て、「…謙虚すぎるな…」とつぶやくと、ブルーパーは少し笑った。
「…そういう意味のうつけもの、か…」とブルーパーは言って、納得するように何度もうなづいた。
「今の俺はごく自然だと思う。
産まれたばかりの俺は、
嫌気をさされるほど、謙虚だったんだろうな。
何度も転生して、俺の名前に恥じないように、
生涯を充実したものにして今に至ったんだろう。
だけど、身元がはっきりしたのは、
楓だけだな…」
ブルーパーの言葉に、「これ以上のことは私も存じ上げません」と夏之介は眉を下げて答えた。
「ああ、そういえば…」とブルーパーは右京に戻って、古い神の一族の家系図を宙に浮かべた。
「あ、ここ、抜けてるな…」と右京は言って、ヤマの孫たちの名前のある部分に指をさした。
ヤマの子供の名前だけがあるところが三つある。
「カマ様、タケ様、ガズ様…
ベティー様がゼルダ様をお産みになって、
現在の名前が八丁畷春之介…」
「…アニマールのどこかに、トカゲがいたような…」と楓が言うと、「家守様ですね」と夏之介が笑みを浮かべて言った。
「…気配はあるんだけど全く見えないの…
まさかだけど、私と関係あるのかなぁー…」
楓が言うと、「それほど気にせずに生活していればいいと思う」という右京のやさしい言葉に、楓は笑みを浮かべてうなづいた。
「和馬様と桃花様ですが」と夏之介は言って、『セント』という神の名が書かれている場所を指さした。
「おふたりは、セント様の系列のような気がするのです。
お子様は少ないのですが、お孫様がかなりおられるようなのです。
ですので、未だ判明していないお孫様かもしれません」
「…佐藤俊介…」と右京は言って、大いに苦笑いを浮かべた。
「…子供だったわよ…」と楓が大いに眉を下げて言うと、「青空ちゃんの彼氏だって!」と桃花が陽気に言って、夏之介に笑みを向けた。
「佐藤様はもちろん大人で、現在千才を超えておられます。
桜良様が青空様をお産みになって、
佐藤様がパートナーに立候補されたのです。
そのお付き合いも、もう十数年と聞いております」
「…まさに、神の世界を垣間見た気になったよ…」と右京は夏之介に言って笑みを浮かべた。
「…私とクロちゃんはぁー…」と秋桜が悲しそうな顔をして言ったが、夏之介は苦笑いを浮かべるばかりだった。
「そう簡単に神ばかりがいるわけがない」と右京が何とか言ったが、秋桜は大いにホホを膨らませていた。
右京たちは地面に開けた大穴を丁寧にふさいで、まるでコソ泥気分でアニマールに戻った。
そしてまずは春之介にすべてを話した。
「古い神の一族が三人も同時に現れたことの方が奇跡に近いから…」と春之介は眉を下げて秋桜に言った。
「…根っからの家族がいい…」と秋桜は大いに駄々っ子になっていた。
「すべての情報をここで示してもいいのです」
春之介の堂々とした言葉に、「…生きる希望が無くなるような…」と今度は大いに躊躇した。
「この星の住人で、古い神の一族と言われる人はほんの数人です。
右京さんが言ったように、ゴロゴロと出てくるわけじゃないのです。
だけど…
俺としては近い関係者が見つかってうれしいよ、楓さん」
春之介のやさしい言葉に、楓は笑みを浮かべて頭を下げた。
「…はぁー…」と秋桜は深いため息をついた。
「じゃあ聞きますよ」と春之介が言うと、秋桜の背筋が伸びた。
「人ならざる体験など記憶にありますか?」
春之介の言葉に、秋桜は大いにうなだれて、「…ございません…」とつぶやいた。
「経営ばかりではなく、己の肉体と精神を大いに鍛え上げることが重要です。
そうすれば、古い神の一族よりも力を持てる存在になれる可能性もあるんです。
源一様がいい例ですよ。
古い神の一族の数倍の力を持っておられる。
そのようなことなど気にされていることなど見たことがありません。
まあもっとも、産んだ母がかなりの大物ぞろいということもありますけどね。
ですがそんなことは偶然に過ぎない。
今の自分自身に自信をもって、生きて行くことが重要なのです」
春之介の説教に、秋桜はうなだれたままうなづいた。
「…めんどくさくなったら、ここに来られなくなる…」と右京が言うと、それは困るようで、秋桜はすぐさま顔を上げて、ぎこちない笑みを浮かべた。
「…いや、この程度だったら面倒でも何でもないよ。
能力者よりもかなり働いてくれているからね。
ま、早死にしないように気を付けた方がいいと思う」
春之介の言葉に、秋桜は目を見開いた。
「…きちんと、休息も取りますぅー…」と秋桜は眉を下げて言った。
春之介は小人族たちを呼んで、金色のメダルと丸いダイヤを見せると、「合計で、金貨百三万枚」とマサは言って、メダルに抱きついた。
「金貨百万枚の方を大いに気に入ったようだ…」と春之介は言って、大いに眉を下げていた。
「金貨三万枚で、三十億モエ程あるから」と春之介が換算して言うと、「…これだけでもすごいぃー…」と、まさに現金なもので秋桜はもう立ち直っていた。
残りのお宝は銀行の大金庫で預かってもらうことになった。
小人たちはメダルに重さがないかのように腕を上げて陽気に運んで行った。
「…トカゲじゃなくてヤモリ…
…ヤモリ?
…まさか、家を守る家守っ?!」
楓は言ってすぐさま母屋を見て、大いに意識した。
「…ああ、いらっしゃったぁー…」と楓は言って母屋に向けて頭を下げてから涙を流した。
「…泣くほどに感動したわけじゃない…」と春之介が笑みを浮かべて言うと、右京もすぐさま母屋を見た。
確かに、何か巨大なものがいるような気配を感じたので、ブルーパーに変身したとたんに、巨大なヤモリがいることに気付いた。
「…ヤマ様はご存じだったはずです…」とブルーパーが言うと、「…まあ… 自分の子供だったら、ヤマ爺ちゃんがわからないわけがないだろうね…」と、春之介は苦笑いを浮かべて言った。
楓は大いに感動して、母屋に走って行って、家守の巨大な足に触れて笑みを浮かべた。
『…立派になりましたね…』と家守が楓に念話を送ってきた。
「…ありがとうございます、お母様…」
『…私はずっとここにいます。
ですがあなたはご主人たちとともに様々な世界を見て、
私に教えてくださいませ…』
「…はい、お母様…」
家守と楓は、まさに親子として穏やかな会話を楽しんだ。
「…きちんとお話、できるんだぁー…」と優夏が言って涙ぐんでいた。
「…母子だからこそだろうと思うね…
俺には話しかけてくれなかった。
願掛けでもしていたのかもしれないね。
その想いが届くかもしれないなどと考えたのかもしれない。
だから今を守るために、今までと何も変えないように思う」
するとヤマが巨大な首を上げて、家守と楓を見た。
『別に共に行動すればいいじゃん』とヤマがいうと、あまりにも子供のような言葉に、ブルーパーはついつい笑ってしまった。
家守は大いに困っていて、巨大なヤマを見た途端、人型に変わって屋根の上に立っていた。
その姿は楓によく似ていて、母子というよりも姉妹でしかない。
「…楓ちゃん、下ろしてぇー…」
家守の大いに困惑した言葉に、ヤマは野太い声で愉快そうに笑って、長い首を体に巻き付けて眠った。
今の眠った姿で、その体高は一万メートルある。
近くにいるように見えたが、実はヤマのいる場所まで100キロほど離れている。
ブルーパーはすぐさま術を放って、家守を地面に降ろした。
術の出どころはわかっていたようで、家守はブルーパーに頭を下げて笑みを浮かべた。
「…素敵なご主人に出会えてよかったわ…」と家守は穏やかに言った。
「…はい、ありがとうございます…
お母様にも素晴らしいご主人が現れますように…」
「…そうですね…
ですが、あまり意識しないでおきますわ…
それに、春之介様よりも素晴らしいご主人は
いらっしゃらないと思っておりますから…」
「…はい… おられないと思いますぅー…」と楓は眉を下げて答えた。
男性としてではなく、主として家守が思ったことを言ったまでだ。
「…奥様の優夏様のように、
少々変わったご主人がいらっしゃらないかしら…」
「気にかけておきますよ」とブルーパーは笑みを浮かべて気さくに言ってから自己紹介した。
「…ロボットの方は、私のご主人じゃダメなのかしら…」という家守の言葉に、ブルーパーも楓も大いに眉を下げていた。
春之介が大いに笑って、「いいわけがない」というと、家守は大いに眉を下げて春之介に頭を下げた。
春之介は家守にとって恩人でもあるので、まず逆らうことはない。
しかも今の場合は、家守の無理強いでしかないことは家守自身がよくわかっていたので、春之介に従うしかない。
「…失恋しましたので、やけ食いさせてくださいませ…」という家守の言葉に、春之介は大いに笑って、家守に席を勧めた。
メイド軍団の長の真由夏が家守の好物のプリンを持ってきた。
家守は大いに喜んで、まさに人間と同様に、きちんとスプーンですくって味わうようにして食べ始めた。
ここからは家守の今までの生涯などをお茶うけにして話を聞いた。
家守が家を守る妖怪となったことには理由があり、それは神として生を受けた時から続いていたのだ。
家守は神が散り散りになってしまったことが悲しかった。
よって何とかして家族が壊れないようにと、家を守ることにしたのだ。
その思いが通じたのか、このアニマールからは誰かが出て行ってしまうことはない。
もちろん追い出されることもない。
まさに宇宙一の素晴らしい家がここにある。
「…基本的には今まで通り、家をお守りいたします…」と家守は薄笑みを浮かべて春之介に言った。
「思い通りに過ごしてくれていいけど、
人間的な欲を出すと、どうなるのかはわかってるはずだから」
春之介の少し厳しい言葉に、家守はそれほど感情を変えることなくうなづいて、「…トカゲの姿のままの方がよかったのかもぉー…」と言って少し嘆いた。
「ヤマ爺ちゃんからの厳しい修行だよ。
だけど、家を守ってもらうことほど、
安心することはないんだよ。
フォルテさんが言ったように、
この大地はフォルテさんが守り、
家は家守に守ってもらいたい」
すると、まさに妖気を帯びていると言わんばかりに、巨大な白いキツネが森から現れて、姿を人型に変えた。
「あなたも森に行ってお休みになった方がよくてよ」と今話に出たフォルテが言うと、家守は素直にうなづいて、巨大なヤモリに姿を変えて、少し宙に浮いて森を目指して飛んだ。
「…彼女、少々気が立っておりましたわ…」とフォルテが眉を下げて言うと、「…わかりにくい人だぁー…」とブルーパーは大いに嘆いた。
春之介は大いに笑って同意した。
「本来の彼女はうらやましがる言動はしませんので。
起きて姿を現した時、少々変わってしまっているはずですわ。
ですが、なかなか起きてこられないはずですので、
ここはゼルダ様とともにすべてをお守りいたします」
フォルテの言葉に、楓だけが大いに眉を下げていた。
その感情の変化に誰もが気付き、楓を見入った。
「…トカゲの時の私…」と楓が言うと、「…かなり乱暴になるわけだ…」とブルーパーは言って眉を下げた。
「動物ですもの…」とフォルテは淑やかに言って、「おほほほ…」と上品に笑った。
真由夏はフォルテの好物などをテーブルに並べ、ここは大いに食べた。
そして素晴らしい盛り付けの弁当箱を出した途端、「…本当においしゅうございました…」とフォルテは春之介と真由夏に頭を下げて、また妖狐に変身して、すたすたと森に向かって歩いて行った。
「…食べたはず…」とブルーパーは言って、真由夏が持ってきたままの弁当箱を見入っている。
「本来の神の食事。
眼で食べたんだ。
実際に食すことと精神的に食べること。
神だからこそのなせる業でもあるんだ。
だからこの弁当はもう食べたあとで、
その証拠は全ての味が消えていること」
「召し上がっても?」とブルーパーが聞くと、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。
右京は遠慮なく、仕切られた一角にあるてまり寿司を口に近づけた途端、「…匂いもなくなっている…」と嘆いてから口に入れて、「…不思議な感覚です…」と言ってから、弁当箱と森に向けて頭を下げた。
「全宇宙で唯一、評価できない食べ物に変化したわけだ。
空気を食べていることとそれほど変わらないから」
楓も弁当箱に手を出して、その感覚を体験した。
そして涙を流し始めて、「…お母様…」とつぶやいた。
「…私、いつもいつも、お母様の食べ残しを食べていたことを思い出したわ…」と楓が言うと、ブルーパーは大いに笑った。
すると楓はサラマンダーに変身して、『シャーシャー!』と抗議するようにブルーパーに向かって鳴いたが、ブルーパーはトカゲを抱き上げた。
「それも、楓の修行だったんじゃないのかなぁー…」とブルーパーが言うと、トカゲは眉を下げて、ブルーパーに甘えるように体をこすりつけた。
「所有物としての主張」と春之介が言うと、トカゲはすぐさま春之介を見てまた威嚇して鳴いた。
ブルーパーは右京に戻って、トカゲを抱きしめた。
まさに右京自身の主張でもあった。
右京の全てをサラマンダーにささげたことになる。
サラマンダーは上機嫌になってから、楓に姿を戻してホホを赤らめ、全身から火を噴いた。
「…俺を溶かすつもりかい?」と少し服が焦げた右京が眉を下げて言うと、「燃えないもぉーん」と楓は言ってまた炎を出した。
春之介は何度もうなづいている。
サラマンダーの炎は、右京には攻撃しないと察した。
右京には攻撃しないが、服は溶けてしまって上半身は裸になっていた。
「服も溶かさないでほしいな…」と右京は少々苦言を言ってから、新しいデザインの服を創り出して着替えた。
「精神的にもさすがによく鍛えられてるよ」と春之介は右京を大いに褒めた。
「いえ、それほどでもありません。
久しぶりに会った親友に三下り半を突き付けたほどですので。
全く冷静ではない俺がいました」
全ての事実を知っている春之介は笑みを浮かべてうなづいた。
「問題はそのあとだよ。
誤解は解け、元通りになっている。
人の生き死にに関することだから、
そう簡単に元に戻らないことが世の常だから」
右京は嬉しく思って、恭しく頭を下げた。
「桜姉さんは味方に付くだろうが、
女王の方は、さて、どう出るだろうなぁー…
完成間近の街に屋敷を建てることも考慮しておいた方がよさそうだ。
城を空けると、それほど良くないようにも思うね。
今は天照たちがいるようだから、
手を出せないと言ったところかな?」
「いつもお世話になっている天照大神様に何かお礼をしたいのですが…」
「その気持ちだけで十分なんだ。
だけど、それだけでは右京さんの気が済まないことはわかる。
右京さんが自信をもって渡せるものをプレゼントしてやって欲しい」
右京は目を見開いてから、「自信をもって… 誠心誠意…」とつぶやいて、席を立ってから、木彫工作セットを出して、木を削り始めた。
「うっわ、怖ええ怖ええ」と春之介は眉を下げて言った。
まだ何もわからないのだが、春之介には完成したものが見えていた。
右京はじっくりと時間をかけて、天照大神本来の姿の木像を造り終えた。
そして姿勢を正して手のひらを合わせて、木像に頭を下げた。
さらに、「…長生きしてください…」とつぶやくと、春之介は、「そう、それで完璧だ」と陽気に言った。
「プレゼントをお渡しして、昇天されても困りますので」と右京が言うと、怪訝に思っていた楓はようやく理解を終えた。
「さらには右京さんとブルーパーが天照の力に変わったはずだ。
今までよりも厳しくなったかもね。
それが純粋な信仰心だよ。
そうならない場合は信仰じゃなく欲をもって神を崇めているだけ。
天照は今頃、秋桜さんの街の守りに入っていると思う。
それが神の真骨頂でもあるんだよ。
そうなれば、誰も手出しができなくなるはずだよ」
右京は春之介に頭を下げてから、木像を置く台も造り上げて、社に入ってすぐに出てきた。
城に設置してある社に木像を祀ったのだ。
これで完全に天照大神は請われて、どこにいたとしても秋桜の街を守ることに専念できる。
よって、今までよりも雄々しき姿の天照大神と巫女たちが戻って来て、右京に丁寧に礼を言ってから、いつものくつろぐ姿の幼児に戻った。
「…神やっててよかったぁー…」と天照大神は言って、笑みを浮かべて右京を見上げた。
右京も春之介も愉快そうに笑ったが、天照大神は気分を害することなく穏やかそのもので、お子様スペースに向かって走って行った。
「父親として礼を言うよ」と春之介は大いなる父の感情をもって言ってから、右京に頭を下げた。
父親というのは言葉のアヤだろうと右京は思って、ごく普通の感情をもって頭を下げ返した。
しかし春之介の顔がいつもよりも穏やかなことを知り、―― まさか、本当の父親… ―― と右京はかなり深く考えた。
そして楓を見ると、眼を見開いて春之介を見ていた。
まさに春之介の種族としては本当に複雑に思える。
勇者のようでそうではなく、神のようだがそれも違う。
まさに動物で、さらには人間なのだが、それだけではないと考えている。
だがそのヒントがフリージアに実例としてあったのだ。
「…まさか、ですが…」と右京が目を見開いて春之介に言うと、「俺は地球という星そのもの」と春之介が言った。
「フリージアの源太様がフリージア星自身だという情報がありました…
春之介様も同じでしたか…」
そして星が外を出歩いても大丈夫だろうかと思ったが、何かいい方法があってこのアニマールで暮らしていると考えた。
そのヒントが源太の生誕の中にあった。
これは源太の策略に源一が引っかかってしまった事例だった。
源一は高エネルギー体を超圧縮させて核融合を起こし、出来上がった金色の球をまじまじと見入った。
その金色の球から、源太が生まれてきたのだ。
春之介は動物であるのと同時に、16年前に生を受けた人間でもある。
「もしよろしければ、ご教授願えませんか?」
「…これは俺の欲のようだから、
それほど話したくはないんだけど…」
などと春之介は照れながら言って、春之介の半生を簡単に説明した。
「…身代わりとなる金の球を地球に置いてきた…」と右京は嘆くように言って眼を見開いた。
確かに、自由の身になるための欲には違いない。
しかしそれ以上に、全宇宙の平和を守るために尽力している。
大勢の後継者を育て上げ、さらに完璧にするために様々な事業も展開している。
春之介は贅沢らしい贅沢はまるでしない。
極端な欲ではない限り、それは願いとして叶えている。
右京自身が春之介のようにできるだろうかと大いに考え込んだが、さすがの高性能の思考回路でも、解答は出なかった。
よってこの先、できる限り春之介に近づけるように、様々なものを積み上げていこうと決意した。
「…星にも、魂が宿るのね…」と楓はようやく落ち着いて、右京に笑みを向けた。
「必ず宿っているという事実はないんだ。
星の創造神がいなくて、自然に出来上がった星には、
魂が宿りやすいことはわかっている。
源太様がその代表例だよ。
もっとも、フリージアの星の創造神はエッちゃんなんだけど、
本人が放棄したから、魂が星に定着したようなんだ」
「…星まで創ってしまわれるのか…」とエッちゃんというあだ名を持つ桜良を見て言った。
八丁畷桜良は今世に生まれ変わって千年が経過しているが、その間に十度ほど名前を変えている。
人間として生を受けた時、安藤悦子という名前を授かった。
その時のあだ名を今も使っているのだ。
気に入った星々の長に名前を授かって、その星の一員になろうという決心にも受け取れるし、それなり以上の能力者でもある。
ちなみに、少し前まではフリージアに住んでいたので、万有悦子と名乗っていた。
しかし桜良は本来の希望でもある人間として再出発できるようになった。
桜良は人間としてはわずか19才の若い命を、殺人者によって散らしてしまっていた。
その続きができるようにと、多くの高能力者が桜良の願いを叶えて、晴れて人間に戻れたのだ。
しかし、一度死を経験した者は自然の摂理として生まれ変わることが普通のことだ。
全ては奇跡の上に成り立っていて今がある。
もっとも、桜良がとんでもない能力者であることが、そのバックボーンにあるので、桜良以外ではその奇跡は起きないはずだ。
桜良も古い神の一族の一員で、その名前をデヴォラルオウという。
古い神の中でも上位にいて、能力的には特に秀でている。
「…怒らせると怖そうですね…」と右京が眉を下げて言うと、「それはエッちゃんにとってデメリットでしかないから、本気で怒ることはないよ」と春之介は気楽に言った。
その自信は古い神の一族のデヴォラルオウを出した時点で、人間ではなくなってしまうからだ。
そうならないように、桜良は慎重に生きて行っている。
しかも魂が生まれて長い年月、このように慎重に生きて行くことがなかったので、桜良にとって今が一番充実しているのだ。
ちなみに、以前の桜良なら、秋桜が計画した町など、ほんの一瞬で創ってしまっていた。
しかし今は、造り上げる作業なども、仲間とともに働くことが楽しく思うようになってきていた。
そして三人いる赤ん坊の世話も桜良は大いに好んでいる。
この千年間でかなりの数の子供を産んできたが、子育てとしては一番充実しているようで、まさにやさしい母の典型がここにいた。
さらには夫であるレスターの存在も、桜良を穏やかにする原動力になっている。
レスターは控え目だが、ハイレベルの神でもある。
春之介はもちろんのこと、源一までも一目置いている実力者だ。
それほどでない限り、桜良の夫は務まらないのだ。
「…結婚式、いつ?」と楓は言って、また炎を噴出した。
右京は眉を下げて、炭になった服を着替えながら、「街が完成したら一段落つくと思うから」と言うと、楓は今度は炎を噴出しないで大いに照れた。
「ウエディングドレスは、燃えない生地で作らないとな…」
「…着てる服は大丈夫ぅー…」と楓は身をねじりながら恥ずかしそうに言った。
確かに楓の服は燃えるどころか焦げてもいない。
右京に炎が燃え移らないことと同じ理屈のようだ。
「…優夏さんのドレスのマネをして…」と右京は言って、ドレスを創り上げて、マネキンに着せた。
「…マネキンに嫉妬しちゃうぅー…」と、楓は言いながら、天に手のひらを向けて炎を放出した。
少しすっきりしたようで、楓は機嫌よくドレスを見入っている。
「みんないるから、今やれば?」と春之介がにやりと笑って言うと、楓が大いに戸惑い始めた。
そして巨大な火柱を上げて、ドレスを灰にした。
「…縁起が悪いな…」と右京が言って少し笑うと、楓は申し訳なさそうにして眉を下げてから頭を下げた。
「右京さんの言葉にしか反応しないから、これはありでいいさ」
春之介は投げやりに言ったが、ドレスを焼いたのは春之介が余計なことを言ったせいだ。
右京も楓もわかっていたが、あえて言わなかったし、言えるわけがなかった。
「…春之介さんのせいよぉー…」と優夏が言うと、「…あ、そうだった…」と春之介はようやく気付いて、右京と楓に頭を下げた。
「まあ、結婚式の場合は、きちんと日を決めておいた方がいいね。
その日は何があろうとも、結婚式が最優先。
もっとも、このアニマールは大いに守られているから、
余程のことがない限り中止や順延はありえないから」
「…ないわね…
あったとしてもすべてを止めるからいいの…」
優夏の自信満々の言葉に、右京も楓もすぐさま頭を下げた。
すると眼鏡をかけた利発そうな幼児と、天使の幼児が手をつないで社から出てきた。
そして右京の背後に立って、なぜだか大いににらみつけている。
まずは楓が気付いて、「…何を怒ってるの?」と聞くと、右京もその存在に気付いた。
「…佐藤俊介さんに、青空さん…」と右京はつぶやいて頭を下げた。
「…むぅー…」と俊介少年がうなると、「…むぅー…」と青空もうなった。
パートナーというよりも、仲のいい兄妹にしか見えない。
「あのさ、俺が毎日創ってるからいいじゃん」と春之介が気さくに言うと、「…むぅー…」とまた俊介少年がうなった。
言いたいことがあるのだが言えないといった感情だ。
すると、俊介少年と青空かいきなり消えた。
「欲、持ちすぎ」とゼルダがさも当然のように言って、小さなデザートをうまそうにして食っている。
「ゼルダが決めることだから、
右京さんが悩むことはないから。
だからこそ、この星は平和なんだよ。
真の平和があってこそ、
外の不幸がよく見えるものだから」
「…はあ… この星の素晴らしさがかなりよく理解できたように思います…」と右京は大いに眉を下げて言った。
過保護過ぎるのも問題だとまずは思ったのだが、春之介の言ったように真の平和を知らないと、外の世界で見落とすことがあるかもしれないとも考えられる。
まさにジャポンはそんな状態で、このアニマールほど平和だとは思えなかった。
いい手本はその神髄からよくなければ手本にはなりえないと考えるに至った。
よってこのアニマールの平和を骨の髄まで感じることに決めた。
しかし、―― 肉体の鍛錬はどう考えても平和ではない… ―― などと考えながら、ランニングコースを右京は走っているのだが、その心構えも違うのではないかと考えた。
浩也たちは必死になって右京を追いかけてくるが、ライバル心や妬みなどを感じられない。
敏感なブルーパーに変わるとさらに良く分かった。
まさにどれほど自分を高められるかという、自分自身に期待をしているのだ。
―― これこそが、ここに住むための神髄… ―― とブルーパーは考え、ほんのわずかだけペースダウンした。
「手を抜くことはないぞ!」とすぐ背後から浩也の少し厳しい声が飛んだが、「二周回増やすことに決めましたから」という、ブルーパーのさらに厳しい言葉に、「わかった!」とだけ浩也は答えて、多少の悲壮感が流れ始めた。
ブルーパーは有言実行で、いつもは5周回するところを7周回した。
浩也たちは疲労困憊となったようだが、笑みを浮かべて柔らかい芝に寝転んだ。
浩也は瞳を閉じたまま、「結婚式の後は暇になりそうかい?」と穏やかに聞いてきた。
「今のところはその予定ですが、
女王様と対決する必要があるように感じています」
「…そうかい… ま、急がないでおくか…」と浩也は言って眼を開いて半身を起こした。
「ここには部隊が4つある。
どこに所属するのか決めておいて欲しいんだ。
まずはお試しというのもありだからな。
時にはもうひとつ増える場合もある。
ここには住んでいないが、春之介の弟子の春野夏介の部隊。
最近主戦力をふたり抜かれて、
少々厳しいらしい。
そっちも気にかけてやって欲しんだ」
「はい、了解しました」とブルーパーは答えて右京に戻ってからすぐさま情報収集を行った。
「ルオウ様の部隊に決めました」と言った右京の言葉に、「…さすが、わかってるなぁー…」と浩也は感心するように言ったのだが、少しうなだれた。
「夏介さんの部隊は補強が終わったそうです。
ですので、労働力としては、
一番大変そうなルオウ様のお手伝いをしたいと思ました」
「…ふーん…」と浩也は言ってから、「どうしてルオウさんは様付けなんだい?」と聞くと、右京は目を見開いた。
右京は様付けをそれほどしない。
様をつけて呼ぶと溝ができてしまうように感じるからだ。
しかしルオウに対しては自然に様をつけていたことに気付いた。
「…現在、計算中です…」と右京が言うと、浩也は大いに笑った。
「前世とかに、そういった関係があったんじゃないのかなぁー…」と浩也は言ってから立ち上がって、全員を抱え込んで風呂に行った。
「…なんという… 素晴らしい悪魔だ…」と右京は大いに感心して浩也の逞しい背中を見つめた。
するとまた俊介少年と青空が右京の近くにいてにらんでいた。
「そろそろ思い出しなよ、このうつけもの」と俊介少年が言うと、青空もそれを認めるようにうなづいている。
「何か、急がなきゃいけない理由でもあるのですか?」と右京が聞くと、俊介は大いに戸惑っている。
『うつけもの』の件はどこかから聞き出したのだろうと漠然と考えていた。
「また消されますよ」と笑みを浮かべてルオウがやってきた。
その隣には眉を下げている、春之介のひとつ年下の叔母の八丁畷春菜がいる。
「…うう… どうすればいいのかわかんないぃー…」と俊介は大いに眉を下げて言った。
「急ぐからそう思うのです。
ですから、急がなければいいだけですよ」
ルオウのやさしい言葉に、「…それはそうなんだけどぉー…」と俊介少年が言ったとたんにまた消えた。
「佐藤様はうまいエサを食べられないことを悔しく思われているのです。
ですが右京さんがそれを気にすることはありませんので。
佐藤様の身勝手は、ゼルダ様が認知しておられますので」
「…はあ… 春之介さんにもそうお聞きしました…」と右京は言って照れくさそうにして頭をかいた。
右京は改めてルオウと春菜とあいさつを交わした。
そして楓は右京の妻として自己紹介をして、少し離れて炎を吐きだしている。
「純粋な奥様です」というルオウにひとことだけで、右京はルオウを尊敬した。
まさに最高の誉め言葉だと右京は感じたからだ。
「実は落ち着いた時に、
ルオウ様の部隊にお世話になろうと思っているのです。
よろしいでしょうか?」
右京はお伺いを立てると、「いえ、私はあなたを必要とはしません」とルオウが少し厳しい口調で言うと、「…ちょっとルオウさん…」と春菜は大いに眉を下げてルオウを諫めようとした。
「ですが、研修としてならもちろん歓迎ですので。
そしてご自分の部隊を率いて、
宇宙を旅してください」
断られた理由がすぐに見えて、右京はすぐさま頭を下げた。
よってルオウの部隊にこだわらず、全ての部隊で研修をさせてもらうことに決めた。
その間に、気の合う仲間も探すことに決めていた。
翌朝は早速ジャポンに戻って、大いに街づくりを楽しんだ。
午後からはこの街の住人希望者の面接がある。
今日は三百組ほどいるらしいのだが、それほど時間はかからないと思っている。
そして田舎には必要な住人専用の駐車場を造り上げてから昼食となった。
桃花たちが元気よく城から出て来て、今日は城をバックにしてバーベキューで腹を満たすことにした。
食材はこの農地で採れたものを使うので、まさに食い放題だ。
桜良は大いに陽気になって、上品に大飯を食らう。
アニマールでもそうだが、外で食べる食事はまた一段とうまく感じるものだ。
すると遠くにいる観光客の子供たちがうらやましそうにして桃花たちを見ている。
しかし親などに叱られながら移動していく。
「…ふむ…」と右京がうなったとたんに、「何とかするわ」と秋桜は言って、事務方の部下を呼び出した。
そして図面を広げて、「…森の裏手でいいか…」と秋桜は言って地図に丸印を入れた。
そして簡素な設計図を右京に渡した。
「排煙装置だけは備えておくから。
二千人ほど収容できればいいでしょう」
「それもあるけど、商店街に食堂は作らないの?
また人を雇うことになるとは思うけど…
農民たちに協力を仰いでもいいんだけどね」
「いや… 何とかメイド修行に出して店を開店する」と秋桜は考えながら言った。
そして、「…ここに料理学校でも創るか…」と秋桜が言い始めた。
多くの農作物があるのでそれは有効な手でもある、
学生たちに実習として働かせることも可能だ。
もちろん、アルバイト料としてそれなりのものを支払えば、苦学生でもここで暮らしたいと思うかもしれない。
秋桜はまた事務方と話を始めて、料理学校を創設することに決めた。
商店街を抜けると何もないので、少し余裕を持たせて料理学校を建てることに決まった。
生徒数は全学年で五百名ほどの小規模とした。
もちろん料理を作るだけの学部だけではなく、飲食店の経営や栄養学についての学部も設ける。
秋桜はすぐさま佐久間を呼び出した。
今は学校の開設準備中で学校にいたようだ。
「おまえだけうまそうなものを食いやがって…」と佐久間は右京に大いに憎まれ口をたたいた。
「おまえも食って行けばいいんだよ」と右京が言うと、桃花たちが陽気にホステスを務め始めると、佐久間はすぐさま好々爺となった。
そして秋桜が料理学校の件を話すと、「あ、自信をもって推薦できるヤツがいますぞ」と佐久間は陽気に言って、著名な料理研究家と世界に股をかけている料理人の名前を上げた。
「…ラッキー…」と秋桜は陽気に言って、とんとん拍子に話は決まりつつあった。
秋桜が料理研究家に電話をしていると、『列車に乗りたい!』とわがままを言い始めたようで、秋桜は大いに眉を下げている。
さらには、数人の知り合いも連れて行きたいようなことを言ったが、「あのね、この話はビジネスなのよ」と秋桜が厳しい口調で言うと、さすがに契約が無に帰してしまうことを恐れたのか大人しくなったようだ。
よって列車に乗せるのは、本人ただひとりとなった。
マネージャーなどもいるそうだが、秋桜は許可しなかった。
そして少し憤慨しながら好々爺と化している佐久間をにらんだ。
「…人間、変われば変わるものさ…」とまさに悟りを開いた仙人のように言うと、右京は大いに笑った。
「この街の厳しさを叩き込めばいいだけさ」と右京が言うと、佐久間も賛成するようにうなづいている。
料理人の方は相手側から頭を下げるようにして承諾して、もうすでに車でこちらに向かっているようだ。
「言っておくが、二人の仲は悪い」と佐久間が言うと、「先に言え!」と秋桜の雷が落ちたが、佐久間はどこ行く風と言わんばかりに陽気に笑っている。
「年を取っただけで、昔と何も変わってないな…」と右京は言って少し笑った。
「人間、それほど変わるもんじゃない」と佐久間はさっき言ったことの逆のことを言った。
もちろん、人によりけりなので、間違っているわけではない。
「見た目変わっているように見えて、
少し諭すだけで元に戻ることもあるものなんだよ」
佐久間が桃花たちに言うと、「そうなんだぁー…」と桃花は素直に答えて笑みを浮かべた。
「その点、桃花の親父は大いに変わった。
昔はあんな大声で笑ったことなどなかったからな」
佐久間の言葉に、「…なかったな…」と右京はすぐさま認めて答えた。
「だが、陰気なヤツじゃなかった。
そういう京馬を俺は気に入っていた。
それをヤツは…」
佐久間が悔しそうに拳を握りしめて言うと、「ハモンドが何も知らなかったことは確認済みだ」と右京が言うと、佐久間は目を見開いた。
「…そうだったのか…」と佐久間は言って、照れ隠しなのか薄くなってしまった頭を撫でまわし始めた。
「ヤツもお前も、当時と何も変わらず俺の親友だ」
佐久間は照れくさそうに眉を下げて、少しだけ頭を下げていた。
するとその巨体を揺らして、ハモンドが地面を踏みしめながらやってきた。
「うまそうな匂いに引き寄せられたか…」と右京が言って苦笑いを浮かべると、佐久間が大いに笑った。
そして右京の目の前に立って、「なんでもいい、手伝わせろ!」と叫んだ。
「…ラッキー…」と秋桜はまた言って、早速ハモンドの面接を始めた。
もちろん、大屋桜がそう簡単にハモンドを手放すとは思えなかったからだ。
ハモンドの答えは単刀直入だった。
「老兵は引退することに決めて、後継者は指名してきた」と堂々と言った。
「まさか、王女様の手下じゃないでしょうね?」と秋桜が大いに疑って聞くと、「和馬と戦争はしたくないからそれはない」とまた胸を張って言った。
「もちろん、その話が俺に来たことは事実だ」とハモンドは事実を述べて、女王の別宅を準備させるように半分命令してきたそうだ。
しかし同じ理由で、「あんたに消されようとも、和馬との友情を守る!」と堂々と言ってのけたのだ。
さすがの女王様も、ハモンドを篭絡できないと知って、この話はなかったこととして口止めをしたようだが、ハモンドが断った。
もちろん、黙っていることが後ろめたさにつながるからだ。
よって女王は渋々認めて、ハモンドを解放した。
「…よく消されなかったものだわ…」と秋桜が言うと、「ここに来るまで、狙われていたと思う」とハモンドは言ってから不思議そうに思ったのか眉を下げた。
「ここは守られているからね。
ハモンドも守る対象だったということさ。
ここに来てすべてを話したことで、
狙われる理由はなくなった」
右京の言葉に、「…ふーん…」とハモンドは言って辺りを見回した。
「この地に来てから、あの戦場で何度も味わった殺気が消えた。
一体何に守られているんだ?
ここには神でも住んでいるのか?」
ハモンドの疑問に、「誠心誠意お願いした結果を見せてもらったことになるね」と右京は言って、ハモンドと肩を組んで喜んだ。
「…ここは神に守られている、か…」とハモンドは言って城を見上げて笑みを浮かべた。
「苦情のひとつも言いたいところだけど…」と秋桜が言うと、「やんわりと聞いたことだけを伝えておけば?」と右京が言うと、秋桜は渋々認めてスマートフォンを手に取った。
ハモンドの仕事としては今すぐにでも働いてもらいたいところだった。
今のところ騒ぎにはなっていないが、商店街に人が多いことで、ちょっとしたことでケンカにでもなりかねない。
右京は大いに目立つ警備員用の服を出してハモンドに渡した。
「…どこから出した…」とハモンドが大いに戸惑うと、「手品だよ、手品」と右京は言ってごまかした。
「城のメイドに言って、
どこか部屋を借りて着替えてから、
商店街の見回りを頼む。
別に検挙する必要はないから。
見回っているだけで、誰もが大人しくなるはずだから」
「…俺は番犬か…」とハモンドは派手な服を見て眉を下げたが、ここは従うことにしたようですぐさま立ち上がった。
そして佐久間と目があって、大いにバツが悪そうな顔をした。
「お前たちも友人になれよ。
無理にとは言わないけどな」
右京とハモンド、右京と佐久間は親友だが、親友同士が親友とは限らない。
しかし知らない間柄でもなし、戦火を駆け抜けた戦友には違いない。
右京に雇われた意識も多少なりともあるので、双方が大いに折れて頭を下げあった。
そして実際に取り締まる警官だが、駅構内と外の一角に交番を設けた。
この地の警察署にも話はしてあるのだが、まだ警官は来ていない。
よって女王が何かを画策しているように右京は感じていた。
この地に踏み込もうとしてもそれができないのかもしれない。
電話を終えた秋桜に聞くと、「…遅いわね…」と秋桜は言ってまた電話をかけ始めた。
秋桜はこのエリアの名士でもあるので、警察と言えどもかなりの低姿勢で、すぐに警官を行かせると答えた。
「女王がいらんことをしたせいだと思うよ」
「…困ったもんだわ…」と秋桜は言って眉を下げた。
「…おっきいおじさんは先生じゃないの?」と桃花が佐久間に聞くと、佐久間は答えに困って右京を見た。
「ハモンドは警備として働いてもらうことにしたんだ。
だけど、先生の方がいいのかい?」
「絶対優しい先生」と桃花は満面の笑みを浮かべて言った。
「…それは初耳…
子供が大好きってことか…
ハモンドは既婚者かい?」
右京が佐久間に聞くと、「結婚をしたとは聞いたことがないし、仲のいい女性も知らないぞ」と佐久間はすぐに答えた。
「…子供がいないからこそ優しい…
ま、あいつに聞いてからにするか…」
「聞いてきていい?」と桃花は大いに食いついてきた。
「ああ、いいぞ。
仕事と言ってもただの見回りだからな。
ハモンドの邪魔になることはないから」
桃花が勢いよく立ち上がると、護衛の鬼っ子たちもすぐさま立ち上がって、桃花を先頭にして、元気よく走って行った。
「…ワシのかわいい生徒たちが…」と佐久間が嘆くと、右京と楓は大いに笑った。
すると今回は車で来たのか、客用の駐車場から大屋桜がまっすぐに右京を見て歩いてきたが、門番に止められて、大いに眉を吊り上げた。
「通していいよ!!」と右京が叫ぶと、門番は右京に頭を下げてすぐに門を開いた。
今までは敷地内に乗りものを下したので問題はなかったが、通行人に対しては厳しく警戒をする。
軍服を着た強盗ということも考えられるからだ。
「…通行証でも造って渡しておいた方がいいかもね…」と右京が言うと、「…そうするわ…」と秋桜は眉を下げて言った。
桜はまっすぐに右京を目指して歩いてきた。
「…様子がおかしい…」と右京が言うと、楓はサラマンダーに変身して、『シャ―――ッ!!』とかなり大きな声でうなった。
そして威嚇として桜まで届かない巨大な炎を吐くと、桜たち一行はしりもちをついていた。
そして何人かは拳銃を手に持っていたようで地面に落とした。
「命まで狙われるはずなはないんだけどな」と右京が言うと、桜はすぐさま銃の存在に気付き、銃の持ち主ふたりを蹴り飛ばした。
そして桜は目を見開いた。
このふたりは、桜の警護の者ではなかったのだ。
「化けの皮がはがれたね」と右京は大いに呆れて言った。
まさに言葉通りで、特殊メイクの一部がはがれていたのだ。
「女王様はかなり悔しいようだな。
こっちから出向くしかないか…
いや、それだと天照大神様に抗うことに近いか…」
「一緒に行くからいいよ!」と幼児姿の天照大神が右京の足元にいた。
「はい、ありがとうございます」と右京は言って、頭を下げた。
「一番気に入らないのは桃花の件かなぁー…」
「違うよ。
和馬さんが気に入らないみたい」
「…王として認めてもらったと思っておこうか…」と右京は言った。
「俺の能力を把握して、
その対策をしようと考えているようだ。
俺としてはまだ何も見せていないからね」
「…あのね、
女王様はもういらないようなことを言ってる人がいるみたいなの…」
「…善意でも悪意でも、迷惑千万だな…」と右京は言って大いに嘆いた。
「もし、ただの国民が言ったところでこれほど敏感には動かないはずだ。
王家の誰かか、宰相の関係者か…」
「ムカイアキラって知ってる?」
天照大神の言葉に、右京はすぐさま苦笑いを浮かべて、「…あいつか…」と言ってうなだれた。
『シャ―――ッ!!』とサラマンダーは今度は右京を威嚇した。
「向明は男だよ。
性格は女だけどな」
右京が答えると、サラマンダーは大いに戸惑ってから楓に戻った。
「…姉ちゃん、向明は今何やってんの?」と右京が桜に聞くと、「…王室事務局長…」と言った。
「王室の事務方のトップか…
面倒なことを言ってくれたもんだ…」
「…お父様の存在を、どこからか聞きつけたそうなの…」と桜は眉を下げて言った。
「…女王様の側近からだろうね…
それが一番正確だから…
それに報告義務もあるんじゃないの?
王室の管理者に、何も言わない方がおかしいから。
だけど、そろそろ定年だろ?
俺よりも5つほど下だ」
「局長クラスは定年はなくなったの」
桜の言葉に、右京は大いに眉を下げた。
「…王を管理する存在でもあるからね…
そうじゃないと、王の独裁を許すことにもなりかねないから。
姉ちゃんも余計なこと言ってないだろうね…」
「…会ってません…」と桜は答えて、苦笑いを浮かべた。
「…じゃあ、そこの転がってるふたりが言った可能性はあるね…」と右京は言って完全に意識を断たれている男と女を見た。
「もう、誰が味方で敵なのかもわからないほどだよ。
だけど、王の継承については、
法律では覆せないんだけど…
今のままでは、男を王にすることは不可能なはずだ」
「…未知なる力、能力者っていう項目があってね…」と桜は少しうれしそうに笑みを浮かべて言うと、「…それは知らなかった…」と右京は嘆くように言った。
「その証拠があれば、王になれることもある。
今までにはいなかったはずだし…
それで俺の映像を撮ってたの?」
「…あはははは、うん…」と桜は言って大いに眉を下げた。
「このくだらない抗争のようなものを簡単に止める方法はある。
俺が能力を見せつけて、王になればいいだけだ」
右京が堂々と言うと、桜は手がちぎれんばかりに拍手をした。
一方楓は大いに眉を下げている。
「楓も付き合え。
おまえも俺と同じ能力者だから、
さらに面倒がない。
おまえは元々女王候補だ」
「…一緒にやるのならいいー…」と楓は答えて、大いに照れて、炎を噴出した。
「いや、やるというほど、長くは居座らない。
王の権限として、
すぐに後継を指名して継いでもらう」
右京が言って桜を見ると、桜は目を見開いて何度も首を横に振っている。
「もちろん、後見人として、
困ったことがあれば手伝うと約束する。
今の秋桜姉ちゃんと同じ待遇だ。
それで構わないだろ?」
「…それが、すっごくうらやましかった…」と桜は笑みを浮かべて言った。
「…結局、女王様を失脚させるだけ…」と楓が言うと、「それが一番面倒だからね」と右京はすぐさま答えた。
「さらにすべての国民も納得できる。
さらにはこの国で一番の有名人を女王様にして、
先王も協力すると言えば、
国民だけでなく他国にとっても脅威だからね。
元々完全にアニマールに移住しようなどと甘いことは考えていなかった。
だけど、今よりはかなり楽になることは確実なはずだ。
何なら今すぐに、明を呼んできてくれ」
桜は総司令官命令で向明に命令して、ここに来させることに決まって、秋桜が飛行艇で迎えに行った。
飛行艇から降りてきた向明は、男性なのだが淑女でしかなかった。
そしてこの日を待ちかねていたと言わんばかりに、うるんだ瞳で右京を見上げた。
「…気持ち悪いからやめてくれ…」と右京が眉間に皺を寄せて言うと、「…本当に京馬ちゃんだぁー…」と明はまさに女性の声でうれしそうな笑みを浮かべて言った。
「おまえにこんな口を叩くヤツは、
昔も今も大屋京馬しかいないさ」
右京は言って、明の頭をポンポンとやさしく叩いた。
「…みんな、根性なしぃー…」と明は笑みを浮かべて言ってから、楓に鋭い視線を浴びせかけた。
楓は大いに眉を下げてから、サラマンダーに変身して、『シャァ―――ッ!!!』と今までで一番の迫力で威嚇した。
さすがの明も大いに戸惑って、数歩下がった。
右京がブルーパーに変身してサランマンダーを抱き上げて宙に浮くと、「…おー…」と誰もがうなって大いに拍手をした。
そしてブルーパーたちはほんのわずかだけ農地を広げて、ドドンガの実を成長させた。
もちろん映像は明の秘書官が撮っているので、何も問題はない。
「…神様がふたりも現れたぁー…」と明は大いに陽気になって言った。
「特例で俺と、本来の女王として楓を任命してくれ。
今すぐに」
「うんっ! 京馬ちゃん!!」と明は陽気に答えて、秋桜とともに飛行艇で飛んで行った。
「これでようやく蓮華は解放される。
これでいいんだ」
右京は笑みを浮かべて言った。
「…かわいい妹だったのね…」と楓は嫉妬することなく言った。
「最後に見た顔は、5才の蓮華だ。
今の俺には、その蓮華にしか見えない。
子供が駄々をこねているだけでしかないんだ」
すると農民たちがすぐさまやって来て、「もう公表されました」とブルーパーに伝えると、右京に戻ってから、テレビの映像を宙に浮かべた。
さらに映像を大きくして、観光客たちにも観られるようにした。
誰もが足を止めて映像を見上げている。
『満場一致で、特例の王を右京和馬、
またの名をブルーパーに。
さらには正式血統の一業楓を女王とする!』
向明は比較的男を出して発言すると、議員一同は、『おお―――っ!!』と大いに叫んで、大いに拍手をした。
『なお、後継も指名された。
その名は現在の軍総司令大屋桜。
これも正式に登録された。
王の意思として、
カネのかかる儀式はすべて省略される。
だが、国民の休日として明日から一週間の休暇を与える!』
その国民である観光客たちは大いに喜んでから、ブルーパーと楓に陽気に頭を下げた。
もちろん桃花もこの映像を観ていて、すぐさまやって来てブルーパーに抱きついた。
「あえて火中の栗を拾ったか…」とハモンドは苦笑いを浮かべて言った。
「これで丸く収まるさ」とブルーパーは言って、遠くを見た。
そしてただひとりで歩いてきていた、大屋蓮華を術で引き寄せた。
「やあ蓮華、無職になったな」とブルーパーが言うと、「…これが自由…」と蓮華は強がることなく笑みを浮かべて言った。
「ここに引っ越してきて暮せばいいさ。
それに、教師程度ならできるはずだ」
「…お兄ちゃんの命令には背けないなぁー…」と蓮華は明るく言って、満面の笑みをブルーパーに向けた。
「命令のつもりはないさ。
それに正式に誰かと結婚してもいいんだ。
俺以外とな」
さすがにこの言葉に、蓮華は笑みを浮かべることはできなかったが、「…ゆっくり考えるわ…」とだけ言った。
「ひとつだけ聞いておきたいことがあるんだ」
ブルーパーの言葉に、「…それが一番怖いわ…」と蓮華は言って少し体を震わせたが、表情は笑みだった。
「菊さんとはどんな感じの仲だったの?」
「桜と秋桜と似たようなものかなぁー…」と蓮華は穏やかに答えた。
「それに菊は、女王の座など欲していなかった…」と蓮華は言ってブルーパーをにらみつけた。
「逆に王家を恨んでいた、か…
まあ、本当のところは、
軍関係者のただの嫉妬だったようだけどな。
俺としてはいい経験をさせてもらったよ」
すると蓮華は、まるで5才児のように天を仰いで大声で泣きだし始め、「…お兄ちゃぁ―――んっ!!!」と大声で叫んだ。
さすがの楓も嫉妬することなく、ブルーパーの背中を押して、楓も涙を流していた。
ブルーパーは構えることなく、「帰ってきたぞ」とやさしい笑みを浮かべて蓮華を抱きしめた。
すると、「…むうー…」と桃花がうなって、蓮華とブルーパーを引きはがして、桃花がブルーパーに抱きついた。
「…はは… かなり複雑な心境のようだ…」とブルーパーは言って桃花の頭をなでた。
「絶対、パパから離れなくなるもんっ!!」と桃花は蓮華をにらんで大いに叫んだ。
「昔返りの儀式はもう終わりだ。
俺も蓮華も大いに年を取った。
俺は新しい家族と今を生きて行く」
ブルーパーは言って、楓を呼んで抱きしめた。
「…相手は何人もいるのに、結婚する気は起きないわ…」と蓮華は言って、大きなため息をついた。
「ここに呼んで改めて付き合えばいいじゃないか。
俺の知る限り、確実に三人もいるんだから。
相手はただの種馬だが、
それなりの地位にいることはわかっているんだ」
「…そうね… みんな今の私よりもお金持ちだわ…」と蓮華は言って、力ない笑みを浮かべた。
女王は貯蓄をできないシステムになっているので、女王を解雇されるとその身ひとつで放り出されることになる。
しかし今までにこのようなことはなかったので、蓮華が初のケースだ。
「秋桜姉ちゃんも俺たちと行動を共にするから、
この地の女王として君臨すればいいさ。
なんなら、ジャポンから独立してもいいんだ。
その資産はもうあるからね。
この街はさらに大きくなる。
働き甲斐はあると思うんだけどな」
「母さん、引継ぎするわ」と秋桜は言って、蓮華の手を取って強制的に城に向かって歩いて行った。
ブルーパーは秋桜と蓮華を見送ってから、「国民の休日の一週間で、この街を盤石にする」と宣言した。
「そして、俺たち家族は、一般人に戻ることにする。
桜姉ちゃん、あとは頼んだよ」
ブルーパーの言葉に、「…いや…」と桜が拒否したので、ブルーパーは大いに笑った。
「別に菖蒲ちゃんでもいいんだ。
まあそうなったら、
このジャポンは大いに軍事国家になることだろうなぁー…
桜姉ちゃんは菖蒲ちゃんに顎で使われることになる」
さすがにそれも困るようで、桜は頭を抱えてうずくまった。
ほぼ一時間後に、王室関係者やマスコミなどがこぞってやってきたが、ブルーパーと楓はこの城下町に住む住人の審査をしていたので、城の外で待たされることになった。
しかしそれほど時間がかかることなく、右京は大いに眉を下げて城から出てきた。
面接はかなり増えて500組いたのだが、わずか50組だけしか住人として認めなかった。
それ以外に、農民住人希望者30組と工員の希望者100組ほどが住むことに決まっただけだ。
第一期としてはこんなものだろうと、右京は思っておくことにした。
右京は城の外にテーブルを並べて、まずは王室の仕事から手を付けることにした。
まさに開けた王室で、マスコミに映像を撮らせることを許可した。
このような事態は初だったので、まさに親しみをもって誰もが、「ブルーパー」と右京を呼ぶ。
「王室は無駄遣いが過ぎるんじゃないの?
これほどに予算をとる必要はまるでないと思うんだけどな」
「そうね、三分の一でいいわ」と経済には大いに明るい楓が言うと、王室関係の役人たちは大いに眉を下げている。
「現在残っている予算の半分を、
国民すべてに還元しろ。
これは王の命令だ。
一人当たりどれほどになるんだ?」
「二万モエ…
ありえないほど多いわ…
もっとふんだくってもいいほどだけど…」
まさに楓の真骨頂で、ここは役人たちが泣きついて楓を止めた。
「あとは、消費税などというわけのわからん税金は廃止だ。
足らん分は、軍の予算からもぎ取ればいい。
軍の女王ひとりにあれほどの従業員はいらんから、
半分ほどはこの城に連れてこい。
ここではそれなり以上に働けるはずだからな」
右京は次々に指示して、国民に大いに受け入れられた。
しかし国費が回らなくなるのではという不安が出てきたことも事実だ。
マスコミ関係者からの質問に、「俺、金持ちだから」と右京は気さくにこう言った。
「この星の規則に従って、俺の資産は全くないが、
その資産はジャポンとは別のところにあるからな。
そこまでは手が届かないだろう。
足りなくなったら補填するから、
心配する必要は何もない」
右京の自信満々の言葉に、観光客たちの財布のひもが大いに緩んだ。
「さらにエネルギー問題だけど、この街は自給自足している。
かなり効率のいい太陽光発電だから、
化石燃料に頼る必要はない。
この先順次、国有地を発電プラントに変えていく。
俺が王でなくなったとしても、
この事業はやり遂げる。
ちなみに電気代は一円も取らないから。
全てはゴミから生まれるから、
もちろん国民に還元することになる」
このビッグニュースに、ジャポンの経済はもう安定したと誰もが大いに喜び、国民のほとんどの財布のひもが緩み始めた。
電気代だけでも一世帯当たり最低でも年間10万モエは使っている。
それがそのまま浮くことになるのだが、もちろん今すぐではない。
しかしその証拠として、都心の電気をすべて太陽光発電で賄った。
都心の電力会社は次々に発電機を止め、今までよりも十分な電力量があることに驚いていた。
貯蔵量が常に100パーセントとなるのだ。
ブルーパーはこの城下の自然を損なうことなく、至る所に太陽光パネルとバッテリー施設を造り上げていた。
城下全てで発電していることと変わりがないので、都心程度なら賄える電力貯蔵量はあったのだ。
よって都心では大いに無駄遣いを始めていた。
浮く金以上に使わせることも、右京の作戦でもあった。
そうすれば、倒産を免れる企業も多くできる。
誰もが不幸にならない国となれるはずなのだ。
王に就任した日はこれでよかったのだが、ジャポンの経済効果に、ほかの国が黙っていなかった。
よってブルーパーに面会を申し出るのだが、『公務多忙につき』という理由をつけてすべてを断った。
すると、ジャポンの株価が大いに上がり、全く止まる気配を見せなくなった。
ブルーパーは言葉通りかなり多忙で、国有地に太陽光パネルを立てて回った。
この日一日で、広い国土の半分の電気を無料にした。
よって電力会社だけが収入がなくなったことで、やせ細るようになるのだが、国から援助金という理由で、今までと同等のカネを手にした。
電力会社は実質国営と変わって行くことになる。
化石燃料をほとんど輸入しなくなったことで、友好関係にあった産油国から大いにクレームがあったが、ブルーパーが直接飛んで、楓が全てを説明した。
「…百分の一だけでも、輸出できて幸せですぅー…」と相手国の王は渋々了承した。
プラスチック製品は石油が必要になるが、それも徐々になくすことにしている。
多くの木も植えて回っているので、植物をプラスティックの代わりに使うことに決めていたのだ。
太陽光パネルを建てた時に伐採した木が大量にできたので、木材の輸入も必要なくなった。
業者には国から安価で卸すことになったので、建築会社なども比較的安価で住宅を提供できるようになる。
その値下げ合戦も始まろうとしていた。
もちろん切るばかりではなく、植樹もして樹齢百年になるほどに緑のオーラを流して成長させて回っている。
右京たち家族はこの日も大いに働いて一日を終えた。
国民の休日も終わりを告げる日、ブルーパーは大いに惜しまれながら王位を返上した。
もちろん楓もブルーパーに倣って、さらに正式な女王に大屋桜を指名した。
まだ多少のぜいたくはできるので、桜としてもそれほど苦情を言うわけにはいかないし、秋桜が何かにつけて差し入れをするので、機嫌は良かった。
桜も別宅として、城を訪れる日が多くなった。
問題は街で暮らす住人で、住居はまだ半分しか借り手がついていない。
しかし学校は開校して、佐久間は満面の笑みを浮かべて、生徒たちを見まわした。
この街はほとんどを自給自足できるモデル観光地となった。
スポーツもプロを誘致して、さらに観光客が増えた。
何も問題がないことを確認した右京たち家族は、生活の場を本格的にアニマールに移行することにした。
「…ついにこの日がやってきたか…」と浩也は感動しながらも、ブルーパーの肩を陽気に叩いた。
―― ダメだ… 勝てる要素が何もない… ―― とブルーパーは思いながらも、浩也に笑みを返した。
まさにリーダーシップが半端なく、春之介とはまた別のタイプの司令官だ。
よって大いに勉強になると思い、今回はすべて浩也に従った。
その指示は隙がなく、どの星に立ち寄っても素早く作業を遂行する。
しかも出会った住人のことはしっかりと覚えていて、「…あの子は呼ばれるな…」と自信を持ってつぶやく。
宇宙には春之介が必要と感じる子供たちがいる。
そういった見極めも、リーダーは積み上げていくのだ。
さらにアニマール直属の二つの部隊の隊長も、浩也とは違うタイプの司令官だった。
この研修には大いに意味があった。
ブルーパーのタイプとしては、ルオウのリーダーシップがしっくりとしていた。
寡黙なルオウはほとんど指示をしない。
作業員たちに気付かせるような行動をとることが多いのだ。
まさに、現場に出て大いに教育を受けている気になってしまう。
それぞれの司令官の種族の違いも大いにあると右京は感じる。
浩也は悪魔、ルオウは神、そして唯一の子供で魔王女と呼ばれている久保田早苗。
早苗はアニマールにいる時は子供の姿で、大いに青春を謳歌している姿しか見せていなかった。
だが宇宙の旅に出てからは、魔王女の姿に変わる。
まさに大人の女性で、浩也以上の威厳を放って、全てのことに首を突っ込む。
まさに忙しい種族だと感じ、ここで種族の性格を考え始めた。
男悪魔はまさに兄貴、神は教師、そして魔王女は仕事ができるキャリアウーマンというタイプわけができた。
さらにはアニマール預かりの皇一輝の部隊は、隊長も隊員とともに働く。
この部隊だけは特殊で、四名がペアとなって効率よく作業をこなす。
仕事の早さで言えば、このパラダイス部隊が一番優秀のように感じる。
しかし受けている仕事のランクがほかのみっつと比べて少し下なので、そう感じただけだった。
そして最後に春之介の弟子の春野夏介の部隊に同行した。
この部隊はマニュアルに添って作業を遂行する。
まさに、軍隊を思わせるような作業方法なので、回りくどく、効率がいいとは言えない。
しかしここで前出の4つの部隊との差が見えた。
司令官である夏介は、全ての作業員の行動の把握をしていた。
よって司令官らしい司令官は夏介だと言える。
ルオウも似たようなものだったが、作業に手を出す。
これが隙を呼ぶとは言わないが、夏介の司令官ぶりは隙が無かった。
「…大いに考えさせられるわね…」と楓がブルーパーの心情の代弁をした。
そしてブルーパーは、司令官修行しかできていなかったことに気付いて、春之介の勧めでフリージアで仲間を調達することに決めた。
まずは源一と夏介に同行してもらって、極力多くの人を見た。
ここに住む9割は死後の世界の住人で、ほとんどが死神という存在だ。
よって人間以上に使える場合が多い。
最低でも空を飛べることだけでも秀でているのだ。
しかし、出会う人々で採用したいと思う人はいなかった。
最高レベルの部隊を見たことによって、ブルーパーの目が大いに肥えていたのだ。
ここは見る目を下げないと、確実に採用できないと思い、将来大成できると感じた者だけを、楓と相談しながらスカウトした。
よって与えられたランクはDランク。
復興作業の一番低レベルのものしか依頼を受けることができない。
しかしブルーパーは底辺から始めることが最重要事項として、新しい仲間12名とともに、一日わずか三時間だが、宇宙を駆け巡った。
しかしどのような仕事にも報酬は必ずある。
第一日目の報酬は、ひとり当たり金貨3枚だった。
だが、これほどの大金をたった一日で手にした者はいなかったらしく、隊員たちは大いにブルーパーに礼を言った。
今までに金貨を手にできるほどの報酬が回ってこなかったのだ。
最底辺の部隊は人数が多いので、フリージアかロストソウル帝国の通貨しか、手にしたことがなかった。
「…茨の道か… いや、先を考えると順当か…」と浩也は冷静にブルーパーの部隊を分析していた。
そしてアニマールに帰って来てからは、ブルーパーか右京が先頭に立って、隊員たちの修行に付き合う。
まさにブルーパーにとって、仲間を手に入れたうれしさから、大いに指導した。
今までにロクな部隊に所属したことがなかったようで、仲間たちは真剣にブルーパーの指導を受けた。
ここでイレギュラーが発生した。
桃花が親の仕事に大いに興味を示してきたのだ。
もちろん宇宙での仕事が危険なことは、桃花は友人たちから聞いていてしっかりとわかっている。
「じゃ、親衛隊込みで雇うから」とブルーパーは簡単に承諾した。
まさか宇宙の旅に同行できるとは思ってもいなかった悪魔っ子たちは、ブルーパーに大いに礼を言った。
そして親衛隊長には、様々な条件を考慮して、夏之介に頼むことにした。
「光栄でございます」と、まさに学生たちのお手本になる優秀な少年の言葉に、ブルーパーの方が大いに頭を下げていて、「よろしくお願いします」と言った。
「…甘えすぎてたかぁー…」と秋桜は優秀な手下を手放して大いに悔しがっている。
しかし一番悔しいのは、まだ宇宙を旅していないクロコダイルだ。
すっかり秋桜の執事になってしまっているクロコダイルだけは抜けないので、「秋桜姉ちゃん、暇な時には宇宙の旅に出ない?」という右京の言葉に、クロコダイルは大いに喜んだ。
「…私が行ったって、何もできないわよぉー…」と秋桜は大いに興味があるのだが、ここは現実的に答えた。
「俺が欲しいのはクロコダイルだから」とブルーパーが単刀直入に言うと、「…私がついでだったぁー…」と秋桜は言って大いにうなだれたが、「うおおおっ!!!」とクロコダイルは大いに叫んで、出会った頃の倍の大きさとなったワニの獣人に姿を変えて、大いに喜んだ。
「敵はいないな」とブルーパーは言って、クロコダイルの太い足を陽気に叩きながら言った。
「…商売になるかもしれないから…」という理由をつけて、秋桜とクロコダイルも同行することに決まった。
「基本的には秋桜姉ちゃんの護衛だけど、
秋桜姉ちゃんがクロコダイルの仕事の邪魔にならないように、
楓のそばにいて欲しいものだ」
ブルーパーの希望に、「…そうするわ…」と秋桜は言って、楓に苦笑いを向けた。
まさにこれ以上ないほどの援軍に、ブルーパーが雇った者たちは気が引けていて大いに眉を下げていた。
さらにはどの部隊にも所属していない、アニマール防衛軍所属の、いわゆる居残り組が、ブルーパーの部隊に大いに興味を持っていた。
すると、アニマール防衛軍の長のゼルダが気を使って、ブルーパーに三名を推薦した。
三人同時ではなく、一日当たりひとりの交代制にした。
まさにこれ以上ないほどの強力な援軍に、ブルーパーの方が大いに礼を言った。
三人とも動物で、ひとりは黒いクマ、ひとりは白いトラ、そして殿は何と白馬のペガサスだった。
「オセロだったら、カイル君は白くなんなきゃいけないよ?」と桃花は言って、黒いクマを抱きしめた。
「…ゲームじゃないから…」とブルーパーが眉を下げて言うと、カイルは白いクマに変わっていて、「え?!」と誰もが驚いていた。
「うふふ!」と桃花は陽気に笑って、白いクマを抱きしめた。
「…真っ白になって燃え尽きたわけじゃなさそうだな…
能力値が上がったような…」
ブルーパーはいいながら右京に変身して、カイルを探り始めた。
「…汚れていた…
あ、語弊があるな…
汚されていた…
…いや、これも正しくない…」
右京の言葉に、「呪いでも受けていたの?」と楓が眉を下げて言ったが、「その気配は感じなかった」と右京は答えた。
すると白いクマは大いに眉を下げて桃花を見てから、白い和装の男性に姿を変えた。
「…怖いお方だ…」と男性は桃花を見て言った。
「怖くないよ?」と桃花は笑みを浮かべてホホを赤らめた。
「仕えていた神が亡くなったのですね?」とこの状況を静観していた春之介が聞くと、「はい、喪に服していました」とカイルはすぐさま答えた。
呪いには違いないが、それはカイル自身の意思なので、そうとは思わせなかったのだ。
すると秋桜が大いに興味を持ったのだが、相手は能力者だ。
秋桜の出番はないと思い、少しうなだれた。
「まさかだけど、桃花を神と認めたわけ?」と右京が眉を下げて聞くと、「…ご迷惑でなければ…」とカイルは答えて頭を下げた。
「桃花の指示に従って欲しい」と右京が言うと、「はっ ありがとうございます」とカイルは笑みを浮かべて言った。
桃花は欲張ってはいけないと思ったのか、「…夏之介君と交代でついてきてぇー…」と眉を下げて言った。
そして穏やかな静寂を破るように、目を吊り上げた俊介少年と、同じ顔をした青空が手をつないでやってきた。
「あら、まだ怒ってるのね」と楓は陽気に言って、俊介少年と青空の頭をなでた。
「お姉ちゃんから右京に言ってよぉー…
あ、桃花ちゃんでもいいんだけどぉー…」
俊介少年の言葉に、楓と桃花は大いに眉を下げた。
「あ、爺ちゃん、いらっしゃい」という気さくな右京の言葉に、「…おまえ、すっとぼけてたのかぁー…」と俊介少年はここぞとばかり、大いに怒った。
「そんなこと、簡単にできるわけないじゃないか」と春之介が戒めると俊介は、「うー…」とうなることしかできなかった。
「ここんところずっと忙しかったのでね。
過去のことはそれほど気にかけないことにしてるから」
まさに右京はその通りなので、誰が大昔の親族であろうとも、それほど気にしていないのだ。
右京にとって愛情は、今の家族にしか向けていなかった。
「そこは昔の親族が気を使って欲しいところだよ」
右京の言葉に、「それは大いに言える」と春之介が認めたので、俊介は何も言えなくなってしまっていた。
「それに、過去に爺ちゃんとの接点はないよ」という右京の言葉に、春之介は大いに笑った。
だからなおさら、右京にとっては迷惑でしかないのだ。
俊介少年はわなわなと震えて、「…そこまで言うのなら…」とつぶやいいてから、正体不明の存在感を持つ、白と黒が混ざり合った、とんでもなくおどろおどろしい姿に変わった。
「まさに矛盾の体…
術を放たれるとお陀仏ですね」
右京は冷静に分析して言った。
するとおどろおどろしい存在は消え去った。
「修行ができてないよ」と小さなプリンをうまそうにして食っているゼルダが言った。
すると残された青空は急いで社に向かって走って行った。
「…初めて見たけど、強烈だね…」と春之介は眉を下げて言った。
「平和ではありません。
まさに、自己満足の塊でした。
そして、甘やかすのも毒でしかないように感じました。
俺は佐藤さんの願いは聞き入れないでしょう」
「割り切って、カネをもらって創ってやれば?」と春之介が言うと、「必要と思った時にはそうするかもしれません」と右京は答えた。
「いや、それでいい。
考えは人それぞれだ。
だけどしつこく付きまとうと思うよ」
「…今回はどうやって切り抜けようか…」と右京は言って大いに考え始めた。
「燃やすからいいよ?」と楓は恐ろしいことを陽気に言った。
「本当に灰になるから…」と右京は眉を下げて言った。
すると桃花が恥ずかしそうな顔をして右京を見上げた。
「桃花とは出会いがあったんだ」と右京は言って、また木彫セットを出して、木像を彫り始めた。
そこには二組の親子がいた。
親に見えるものがふたりいて、それぞれの子が過去の右京と桃花だった。
ふたりは仲がいいのか悪いのか、まさに子供らしくお互いを挑発しているように見えた。
「…それほど仲が良くないような…」と楓は言って大いに眉を下げた。
しかし桃花はかなりうれしかったようで、芸術品のような木彫を見入っている。
「何とか感情を表現できるほどにはなった。
俺と桃花は、兄妹として育って、お互いの道を歩んだんだよ。
俺は成長して、家族から独立して、
パロンダという獣人に師事したんだ。
それがブルーパーの変身のコアラ。
春之介さんや家守さんのかなり遠い親族になるのかなぁー…
もう今の宇宙の形態はできつつあって、人間もいた。
その人間も能力者が多かったので、
まさに混とんとした時代だった…」
「宇宙の黎明期だね。
第一の超人間の兵頭耕作さんが生まれたころだ。
パロンダは俺のひ孫で、
見た目とは違ってかなり乱暴だった。
だけど、当時の人間に恋をして、
少しは穏やかになっていた」
春之介が懐かしそうな目をして言った。
「…昔話をお聞きしました…
人間は寿命が短いから、
もう恋はしたくないと…
そのうち、人間たちから離れて、
人間よりも意思疎通ができる動物たちと共に生きたと。
ですが俺の師匠として快く受け入れてくださった。
俺は師匠の下で多くを学びました。
そして何度も、
うつけもの!
と言われましたよ…」
右京が懐かしそうに笑みを浮かべて話すと、春之介は笑みを浮かべてうなづいた。
「俺は師匠とともに星と運命をともにして転生したようです。
当時の宇宙はそれほど安全ではなかったようでした。
星の創造神の太陽系創りに失敗した星がいくつも飛んできて、
それに巻き込まれて命を失うことが多かったようですので。
その失敗を繰り返して、ほぼ安全な宇宙創りができるようになったようです。
俺は多くの種族を経験しましたが、
ある日勇者となってからは、必ず勇者に覚醒しました。
これが自然の摂理のようですね」
「ああ、その通り。
特に勇者は人間でもなれる能力者だから、
しっかりと魂に刻まれるからね。
よって、安直に勇者になると、その先の鍛錬が大変らしい。
だからこそ、悪さを働く者も少なくないんだよ。
これが今の宇宙の不幸のひとつさ」
春之介の言葉に、右京は大いに賛同してうなづいた。
「…どこかに飾るぅー…」と桃花が言ったので、春之介の作品ラックの横に同じラックを造り上げて、桃花の視線の位置になるように作品を置いた。
するといつの間にか俊介少年と青空が戻ってきていて、桃花に遠慮するように覗き込むようにして鑑賞を始めた。
「木彫は誰かに教わったの?」と春之介が聞くと右京は、「ロクバンという女性に教わりました」と答えると、春之介は興味津々の顔をしていた。
「超人間の六番めの方でしょうね。
優しいお方で、もちろん俺も、そのお方の子供でした。
ですので俺たちは母に褒められたい一心で木を削ったものです。
そのすぐ後に、キュウバンというお方も木像造りが趣味のようでしたので、
ここでも大いに修行を積んだそうです」
「…おふたりとも、
現在はどうなっているのか、まだ判明していないね…
超人間の場合、ほぼ確実に、
男性に転生しているらしいけどね」
「…はあ、現実逃避しているようには感じました…」と右京は言って苦笑いを浮かべた。
長い年月をかけて子供を産みまくることは右京も知識として蓄えていた。
できれば女性に生まれたくないと思うことにはうなづける。
「さらにいえば、
超人間から生まれる人間は新しい魂として生まれる場合が多いんだ。
まさに選ばれた者だけが、
すでに生まれていた魂が超人間から生まれるパターンが多い。
源一様がその典型で、三人の超人間から生を受けている。
ちなみに、俺も優夏さんも花蓮さんも一度も超人間から生まれたことはないんだ」
「…経験してみたかったわね…」と優夏は眉を下げて言った。
「…ハードルが上がりましたね…」と右京は言って大いに嫌がっていた。
「そんなものいくらでも上げておけばいいんだ。
面倒だったら飛ばずにくぐればいいだけだ」
浩也のダイナミックな言葉と考え方に、右京は大いに陽気に笑った。
春之介が兄と慕う理由は大いにあると思い、右京にまた尊敬する者ができた。
「さらに詳しく言うと、その程度のことは気にすんな」
春之介の言葉に、「はい、ありがとうございます」と右京は笑みを浮かべて礼を言って頭を下げた。
「…どれほどのことを言うのかと思っていたが…
俺よりも短いではないですか…」
浩也が大いに眉を下げて言うと、「俺の弟子だから!」と春之介はまったく理由にならない言葉を吐いて大いに笑った。
―― 師匠の性格はまるで見えないが…
…いや、抱擁感にあふれているんだ… ――
右京は思い、星自身という事実にも大いにうなづけた。
しかし右京は、時間があるということで、細かいことを気にし始めた。
それは右京が創った作品展示ラックの隣にある、春之介の作品群だ。
材料は模型用のパテで色鮮やかなものが多い。
しかし模型のレベルは超えていて、芸術品と言っても過言ではなかった。
そして作品のひとつひとつに想いがこもっていて、ジオラマにいる人形が今にも動き出しそうに感じる。
時代や場所は様々で、半分ほどは黒がバックのジオラマが占めている。
そして今の姿ではない佐藤俊介がいるジオラマをいくつも確認できた。
もちろん、大昔の桜良もいて、その存在感は怒った時の楓に近い。
ゼルダが一目置いていることもうなづけると思い、その隣のジオラマに釘付けになった。
すると、『シャ―――ッ!!!』と怖い楓の化身がうなって右京を見上げた。
「…鑑賞してるだけなんだが…」と右京は言って大いに眉を下げて、サラマンダーを抱き上げた。
抱くとほぼ確実に大人しくなるので、しばらくはこの手で難を逃れることにしたようだ。
「…この人には会ったことないけど…
俺は知っているような気が…」
するとサラマンダーは楓に戻って、「ここにいるけど、姿が違うのよ」と少し不機嫌そうに言った。
「私たち共通の始祖で、名前のない神。
生命のほとんどは、この神が生んだと言ってもいいほどよ。
もちろん、ヤマお爺様も含まれるの」
「…ここにおられる…」と右京は言って辺りを見回した。
だが、一致する雰囲気も感情も感じられない。
よって、生物として生まれているが、覚醒していないのだろうと察した。
しかし素朴な疑問ができた。
「楓はなぜ知ってるの?」と右京が聞くと、「…聞かないでぇー…」と大いに嘆いた。
―― わかってしまうから知った理由を答えられないということか… ―― と右京は計算して、大いに苦笑いを浮かべた。
「楓は敏感なんだなぁー…」と右京は言って、楓の頭を子供のようになでた。
楓としては穏やかに触れられることを大いに好むので、ごく自然に照れていた。
また陳列台を見入って、まさに神は神でしかないと思い、その存在感の雄々しさにふと、幼児の姿の天照大神を見た。
「…まさか、まさか…」と右京がつぶやくと、「うー…」と楓がうなって右京を見た。
「…ロクバン母さんがいた…」と右京は言って、天照大神に笑みを向けた。
もちろん春之介も優夏も寝耳に水だったが、優夏がすぐさま確認を終えた。
「…間違いないわ…」と優夏は春之介だけに聞こえる小さな声で言った。
「今世の場合、女性だけど神として生を受けたからなぁー…」と春之介は笑みを浮かべて言った。
「…少しでも恩返しができてよかった…」と右京は言いつつも、また木彫工作セットを出して、満面の笑みを浮かべながら木を削った。
そこには優しそうな母を中心にして、大勢の子供たちがまさに木を削っているワンシーンだ。
右京は満足したようで何度もうなづいてから、陳列台に飾った。
すると桃花が興味を持ってやってきて、「…すっごく優しそー…」と言って、笑みを浮かべて右京と楓を交互に見た。
そして天照大神たち神もやって来て、天照大神だけが固まった。
「中心にいる女性は大昔の俺の母で、
ロクバンという名前です」
右京の言葉に、「…ロクバン…」と天照大神はつぶやいてすぐに、右京を見上げた。
「俺は母の視線に入っていません。
この当時は嫌気がさすほどに引っ込み思案だったようですから。
俺が一番上の兄という理由もあったのかもしれませんけどね」
「…どこかで、繋がっていたらうれしいなぁーって、思っていたの…
…真実ちゃん…」
天照大神は当時の右京の名前を大切そうにつぶやいて、笑みを浮かべて右京を見上げた。
「申し訳ないんだけど、この木像も、お社にお祀りしてくれない?」
天照大神が穏やかに言うと、「はい、喜んで」と右京は言って台を造り上げて、木像をもって社にお祀りした。
天照大神は社に駆け込んで、「生きる希望がさらに湧いたぁ―――っ!!!」と大声で叫んだ。
「…昇天する勢いだな…」と春之介が矛盾することを言うと、「…気持ちはわかるけど言っちゃダメ…」と優夏は言って号泣を始めた。
すると右京は神たちから大人気になって、まるで集合写真のようなジオラマを掘り上げた。
中心にはもちろん春之介と優夏がいて、雄々しき姿の天照大神が春之介の隣にいる。
そして神々の人型の姿とそれぞれの巫女たちも勢ぞろいしている、神の家族の肖像だ。
「…正確には私だけ無関係なんだけど、
ここにいなかったらきっと怒ってるわぁー…」
優夏は物騒なことを言って涙を流している。
「宇宙の覇者はどこに顔を出してもいいんだよ」という春之介の言葉に、「…そう思っとくぅー…」と優夏は機嫌よく言った。
すると、春之介と優夏の長女の春子が、右京を見上げて、小さな緑竜に変身した。
まさに神を超えた威厳があるのだが、その姉妹たちは何とも思わないようで集合してきた。
「…悪いね…」と春之介が申しわけなさそうに頭を下げると、「いえ、この際、考えられるものはすべて彫ってしまいます」と右京は気合を入れて言ってから、まるで修行僧のように木を削り始めた。
「…止めたら叱られそう…」と優夏が眉を下げて言うと、「まさに、源一様の過去の石工と同じだ…」と春之介は言って笑みを浮かべた。
「…ああ、あの鬼の形相の…
そうね、感情的には何も変わらないけど鬼気迫るものがあるわ…
だけど作品は穏やか…
付け焼刃の修行じゃ、ここまでできないと思う…」
優夏は大いに感心して、右京の腹ごしらえ用に、アイドル食を作って楓に渡した。
楓は大いに照れながらも、エネルギー補給として右京に食べさせる。
右京は食べている事実も無視するようにして、黙々と木を刻む。
そしてわずか三十分で、このアニマールの住人全員の木像を彫り終えた。
もちろんたくさんいる動物たちもきちんと彫り上げている。
そして棚に飾ると、特に子供たちが大いに興味を持ってやってきて、自分自身を見つけてすぐに右京に礼を言った。
右京はかなり空腹になったようで、メイドたちがこぞって食事を運んでくる。
そのメイドたちも陳列台にいる自分自身を見つけて感動していた。
「かっこいいパパ、大好き!」と桃花が満面の笑みを浮かべて言って、右京に抱きついた。
右京が笑みを浮かべてしっかりと抱きしめると、「みんな! 並んで並んで!」と桃花は陽気に言って、抱きつきイベントが始まった。
まさに桃花も平等だった。
右京は抱きついてくる子供たち全員の親の気持ちをもって抱きしめた。
「はいっ! 終わりだよ!」と桃花は明るく言って、桃花よりも大きい兄や姉を見た。
抱きつくつもり満々だった少年少女たちは大いにうなだれた。
しかし右京は全員の頭をなでて回り、固い握手をして回った。
スキンシップがあったことで、不貞腐れる子はいなかった。
もちろん、桃花が年長者を抱きつかせなかった理由は、楓に嫉妬させないためだ。
楓の持つ母性は桃花にしか向いていないので、正しい判断と言えた。
「…色々と才能があるわね…
どの道を選ぶのかしら…」
優夏の言葉に、「そんなもの決まってるさ」と春之介はさも当然のように言った。
「源一さんや春之介さんと同じように、星を持つのね」と優夏は言って笑みを浮かべた。
右京はみっちりと野球の練習をしてリフレッシュを終えて脱衣所から出ると、眉を下げた天照大神が待っていた。
「…あのね…」と天照大神は知り得た事実をすべて右京に語った。
「ちょいと戻ろうか」と右京は言って、楓だけを連れて社に入った。
初めは特に大したことではなかった。
ジャポン軍はロリエト国のスパイを捕まえたのだが、なんと亡命したいと言ってきたのだ。
もちろん大いに疑ったが、家族もすべてジャポンに呼んでいた。
よって亡命の事情を聴くと、「ジャポンを侵略する計画がある」と、少々物騒な話になっていた。
よって桜が直接ロリエト国に連絡を取ると、もちろんそんな事実はないと突っぱねてきた。
だが、諜報部員の身柄を無条件で返せと言ってきたので、亡命を認めたと答えた途端に、ジャポンに攻め込む準備を始めたのだ。
まさに総力戦の様相で、全軍全兵器をジャポンに向けてきた。
今はまだにらんでいるだけで、表立っては行動していないようだが、空と海から挑発ともいえる数々の領域侵犯をやってきた。
「見せしめにはちょうどいい」と右京は言って、ブルーパーに変身した。
「楓も来るかい?」とブルーパーが聞くと、楓はサラマンダーに変身してブルーパーに抱きついた。
「国を表すものはどこにもついてないよな?
なんなら、ロリエト語の入ったTシャツを着て攻撃に行ってもいいんだけどな」
いきなりのブルーパーの言葉に、桜は大いに戸惑った。
だが、ブルーパーは索敵用のレーダーにかからないし、武器を破壊したとしても何が起こっているのか誰もわからないはずだ。
「…私は何も聞いていない…」と桜は言って、腕組みをしてそっぽを向いた。
「ああ、それでいい」とブルーパーはにやりと笑って、外に出てから、とんでもない高さまで飛び上がった。
「…はは、マジで狙ってるなぁー…
だがこういう時に限って、
馬鹿なやつがひとりくらいいると思うんだが…」
まさにブルーパーの言葉通りに、数カ所で小さな火が見えたと同時に、地響きのような音が聞こえた。
ブルーパーはミサイルが加速する前に、サイコキネッシスを使ってミサイルを逆側に向けた。
もちろんミサイルは発射台に命中して、至る所で大火災が起こった。
すると次々にミサイルが発射されたが、全てが同じように自軍に戻ってくる。
懲りずに何度もやっているうちに、最高司令官である大統領が殺害されたという情報を入手した。
詳細は不明だが、ジャポンはロリエト軍と戦うことなく勝利した。
ブルーパーは火事場泥棒のように、使える兵器などをすべて安全に無効化してから、作戦本部に戻った。
「面白い報道とかやってない?」と疲れることなく戻ってきたブルーパーが聞くと、桜は少し笑った。
「同盟国のランドンとナメリサの調べで、
軍事訓練中に事故が起こったと報道があった。
その場にあった兵器が全て自軍の攻撃で破壊されたそうだ。
おっと…」
桜は黙り込んでから、「ロリエトの大統領が殺害されたそうだ」と右の眉だけを上げて言った。
「人工衛星の通信を傍受できていたからそれは知っていた。
仲間割れなら一番いいんだけどな。
それを手土産に、
誰かがジャポンに言い寄って来ても相手にすんなよ」
「こっちは報道で知っているほどだ。
そんな輩は追い返すだけだ。
どうせエネルギー問題で対立を始めた、
ロイルの工作員の仕業なんじゃないのか?」
桜はニヒルに笑って言った。
「ほら、言った先からやり始めた」と桜は鼻で笑って言った。
ロイルがロリエトに宣戦布告したのだ。
「あっちの武器も潰してやろうか…」
「俺は何も聞いてない」と桜は言ってにやりと笑った。
行きかけの駄賃ということで、ブルーパーはまた上空に飛び上がって、国境を超えてロリエトに侵攻しようとしていた大軍のロイル軍に向けて、地面に落ちている石などによって、すべての兵器を破壊した。
輸送車などもすべて止まってしまい、ついには火が出てしまったので、兵士たちは大いに慌て、自らの足で走ってロイル国境に急いだ。
すると、ブルーパーに抱かれているサラマンダーが得意そうな顔をしている。
「あそこまでよく届いたね…」とブルーパーは大いに眉を下げて言ってから、作戦本部に戻った。
「またなんかあったら言ってくれ。
だけど、軍縮は加速すると思うけどな。
攻め込むたびに兵器を全部潰されたんじゃ、
割に合わないはずだからな」
「特にロイルは一から兵器をそろえる財力はないはずだ。
ロリエトを乗っ取ってから、
のんびりと戦力増強をするつもりだったと思う。
だが俺は誰にも何も言ってないんだが…」
桜の今更ながらの言葉に、ブルーパーは少し笑って、「神の神託があったのさ」と答えて、外に出てから城に向かって飛んだ。
城では社の前で天照大神と巫女たちが待っていた。
「…お手伝いすらできなかったぁー…」と天照大神がさも残念そうに言うと、「もうそれほど大きな戦いは起こらないと思いますけどね」とブルーパーは言って、天照大神に頭を下げた。
右京と楓がスイーツを食べながら甘い時間を過ごしていると、血相を変えた秋桜がクロコダイルとともに走ってきた。
そして秋桜が早口で戦争になりかけたことを右京に言うと、「ひどいことにならなくてよかったじゃん」と大いにとぼけた。
「狙いは、太陽光プラントだったのよ」と秋桜が眉をひそめて言うと、「まあ、それはあるよなぁー…」と右京は落ち着き払って言った。
科学技術的には、現在あるものを組み合わせただけで、全く変わったことはしていない。
その効率化の知恵と工夫を、ほかの国の科学者が持っていないだけだ。
「ロリエトもロイルもジャポンにとって目の上のこぶだったんだから、
自滅してくれてよかったじゃん」
右京は他人事のように言った。
「…桜お姉ちゃんの様子がおかしいのよ…
似たようなことが数回かあったけど、
長い時間興奮して元に戻らなかったのに、
今回に限って落ち着き払っていたの。
きっと、今までと違う何かがあった」
秋桜はここまで言って、まじまじと右京を見た。
そして眉間に皺を寄せて、「あんたの仕業よね?」と秋桜は確信して言った。
「ミサイルを飛ばしてきたから進路を逆にしたり、
道端の石をぶつけたりはしたね」
右京の落ち着いた言葉に、「…ようやく理解できたわ…」とため息交じりに言って、ここでようやく秋桜は椅子に座った。
「…楓ちゃんが全部教えてくれたわ…」と秋桜が言うと、右京がすぐに楓を見ると、まさに恍惚とした表情をして右京を見ていたのだ。
「…ばらすなよ…」と右京が言うと、話を聞いていた春之介と優夏が大声で笑った。
「…だって、かっこいいじゃない…
自慢しない人って、すっごく好き…」
楓は自分が言った言葉に大いに照れて巨大な火柱を上げたが、実害は何もなかった。
ただ、数名が驚きすぎて椅子からひっくり返った程度の被害はあった。
「…パパはすごいのに自慢できないぃー…」
右京と楓がお子様スペースで夕食を摂っていると桃花がつぶやいてうなだれた。
「そうだな、できれば自慢はして欲しくないね」と右京が笑みを浮かべて言うと、桃花は頼りなげな笑みを浮かべた。
「たとえば、だな。
桃花が自慢したらどんなことが起こるだろうか…」
「みーんな、パパを尊敬しちゃうっ!!」と桃花は陽気に叫んでからすぐに眉を下げた。
「桃花は本当に賢い。
パパは嬉しいよ」
右京は言って、桃花の頭をやさしくなでた。
桃花はもうすでに、そんな夢物語のようなことが起こるはずがないことは知っていた。
もちろん、ブルーパーと接点のあった子は喜ぶだろう。
しかしその逆に、ブルーパーを嫌う子がいてもおかしくないのだ。
もちろん生理的に嫌う子もいるだろうし、うらやましさを盾にした感情を流す子もいる。
桃花はアニマールで暮らすたびに、右京が感じていたように、外の世界の悪い面が大いに見えていたのだ。
「…聞かれたらどーしよー…」と桃花は気さくに話せないことを悲しんだ。
「ブルーパーが防衛した証拠は残さなかった。
だけどさすがに、あんな奇跡を起こすのは、
ブルーパーしかいないことは、国民はみんな知っている。
だけどな、防衛したとはいえ、胸を張れたもんじゃない。
敵兵とはいえ、傷ついた者も大勢いたはずだから。
できれば武器だけを正確に壊せるように、
まだまだ修行の日々だ」
「…あー…」と桃花は言って、それができるようになれば、誰も武器を持たなくなる。
持ったとしてもすぐに壊されてしまう。
そして桃花には今までと逆の感情が沸いてきた。
「…パパはヒーローなんかじゃないって言わなきゃいけない…」と寂しそうに言った。
「そうだ。
きちんと理由を述べて伝えて欲しい。
悪いヤツほど生かして無傷で平和にしなきゃ、
ヒーローの資格はないんだ」
「…うん、きちんと言うー…」と桃花は笑みを浮かべて答えた。
「だけどあの場面だったら、天罰でしかないわよぉー…」と楓が眉を下げて言うと、「桃花、ママを説得してくれ」という右京の言葉に、桃花は目を輝かせて楓に滾々と説明を始めた。
「…桃花ちゃん… もうわかったから… 助けてぇー…」と楓がついに情けない声を上げて根を上げた。
右京は大いに拍手をして、桃花の頭をやさしくなでた。
―― そのためには悪魔の眷属を雇わなきゃな… ―― と右京は思って、穏やかな動物たちを見回した。
まるで駄菓子屋のくじに迷う子供のように、右京は動物たちを観察した。
しかし右京では触れないと探れないが、できればブルーパーではなく右京のままで探りたいという意思を持っていた。
この時だけは、わずかに残った脳が大いに働くのだ。
「あ、この子この子!」と桃花が察して、やけにふてくされているように見える白い猫を連れてきた。
もちろん右京は、―― ここは娘に甘えておこう… ―― と思って桃花に礼を言った。
そして少し太った猫を抱き上げた途端、「ははっ! 君はすごい!」とブルーパーは大いに褒めた。
桃花は役に立ったと思って、満面の笑みを浮かべていた。
「悪魔の眷属なのに何もできないのか?!」
もちろん右京の言葉は、食卓にいる全員に聞こえている。
よって大いに眉を下げていたのだが、春之介と優夏だけは笑みを浮かべてうなづいていた。
「…さあ、どういう結果を見せてくれるのか楽しみだ…」と春之介は言った。
「…あの子は贅沢過ぎるわ…」と優夏は唇を尖らせて言った。
「運命の出会いっていうやつもあるはずだ。
何もできないように見せかける方がはるかに難しいからね。
それに、俺のこだわりと同じだから、
俺には意見できないから」
春之介は言って、春之介を慕うすべての者を見て笑みを浮かべた。
「すぐにでも訓練と思ったが、一緒に遊ぶか」と右京が言うと、「遊ぶ遊ぶ!」と桃花が大いに陽気になって言った。
「ああ、いいぞ。
ほかには?」
この時点で、右京は春之介に代わって、大勢の子供たちの父親になっていた。
「よっし! 今までになかったシチュエーションで遊ぶぞ!」
右京は言ってブルーパーに変身してから、色とりどりの宝石を子供たちに見せた。
「これを隠すから、見つけてくれ。
言っておくが、匂いは消しておくからな」
ブルーパーの言葉に、不貞腐れている猫の表情が初めて変わった。
まさに動物への挑戦の遊びでしかなかったのだ。
ブルーパーは笑みを浮かべたまま瞬間移動のように至る所に現れて、また子供たちの前に立った。
「さあみんな! 探せ探せ!」とブルーパーが陽気に言うと、子供たちは一斉に走って行った。
猫はブルーパーの手から逃れて、重そうな体に鞭打つように素早く走って、ブルーパーが姿を見せた場所を探すのだがどこにもない。
しかし子供たちは歓声を上げて次々と見つけていく。
「あとみっつだ!」とブルーパーが叫ぶと、誰もが必死で探し始めた。
猫はふらふらになりながらも、ひとつ発見したのだが、かなり手前で桃花にとられてしまった。
横取りをされたわけではないので、猫はくじけることなく残り二つを探し始める。
ついには最後のひとつになったのだがどこにもない。
猫はくたくたになって、ブルーパーの足元に戻ってきて、すぐにあることに気付いた。
そして、ブルーパーの左足に猫パンチを浴びせ始めた。
「そうだ、正解だ」とブルーパーは言って、左足を浮かせた。
「…うわぁー… そこにあったんだぁー…」と子供たちは大いに嘆いて、柔らかい芝に寝転んで笑みを浮かべた。
猫は自慢げに宝石を咥えて、ブルーパーを見上げた。
「すごいぞ、よくやった」とブルーパーが言って宝石をとったとたん、「えへへへ…」と幼児がブルーパーを見上げて笑った。
「君の秘密をひとつ知った」とブルーパーが陽気に言うと、「…ボク、タロウっていうんだ…」と少年は恥ずかしそうに言った。
「そうか、タロウ、よろしくな」とブルーパーは言って、タロウを抱き上げた。
「…ボクの名前、好きじゃなかったのに…」とタロウは言って、ブルーパーに笑みを向けた。
すると楓がタロウを奪って、「タロウちゃん…」とまさに母の愛をもって抱きしめた。
そして優夏が乱入しようとしたが、すぐさま春之介が止めた。
しかし楓はすぐに気づいて、優夏にタロウを抱かせた。
「…楓様がいい…」とタロウが大いに嘆くと、「…動物大好きかっ?!」と優夏がかなり怒って叫ぶと、「…当り前じゃないか…」と春之介は眉を下げて言った。
「特に動物は人間以上に仲間を尊重するんだ。
楓さんは母の母性以外にも、
動物の中で一番の厳しさも持っている。
それに反応しない動物はいないはずだ。
まさに、自分自身をさらに厳しく成長させてくれるはずだと
理解できる子が多いんだよ」
「…あははは… 燃えないように気を付けるよ…」とタロウは眉を下げて言った。
さすがに火を噴く動物は誰だって怖いものだ。
「でも、ご主人様が一番好きだよ」とタロウは言って、笑みを浮かべてブルーパーを見上げた。
「…はっきりしてるわぁー…」と楓は少し嘆いたのだが笑みを浮かべていた。
タロウは地面に降りて、「今度はボクがご主人様の役に立つ番だよ!」と陽気に言った。
「別にまだまだ遊んでもいいんだぞ。
一週間ほどは大いに遊び続けようって思っていたんだが…」
ブルーパーの言葉に、春之介は大いに笑って、ブルーパーの肩を力強く叩いた。
しかしここはタロウのやる気をそぐことなく、右京はタロウを抱き上げて射撃ブースに向かって歩いて行った。




