反撃開始
俺はイヴと話した後、自分の天幕に戻る途中剣を振るうシャロンに出会う。
「シャロン、訓練か。お疲れ様」
シャロンはその言葉を聞いても、反応も無く素振りを続ける。
これは……まだ怒っているな。
「おーい。昨日言ったことまだ根に持っているのか?」
俺の言葉を聞き、僅かに眉が動いた。ダイヤは関わりたくないと、無言でその場を去った。中々危機察知能力の高いやつだ。
「シャロン。弓を教えてくれないか? これからもきっと戦いで使うと思う。そのために俺は強くなりたいんだ。シャロンの指導が一番上手いんだ。頼むよ!」
俺は両手を合わせて頭を下げる。
それを見たシャロンは溜息を吐く。
「お前は弓の実力自体はまだまだなんだからな。やはりシビルは基礎がまだまだだ。まずは弓の引き方から」
そう言って、俺に弓の引き方を教えてくれる。呆れつつも、どこか声は弾んでいた。
なんだかんだ言って優しいんだよなあ。
俺はしばらくシャロンから厳しい指導を受けた。
厳しい指導でぼろぼろになった体を引き摺り、ドルトン達の居る天幕へ向かう。
「お前の言う通り、相手は攻めてくる気配はないな」
ドルトンは未だに少し半信半疑のようだ。隣には帝国騎士団の援軍として来ているマルティナも居た。十人近く居り、おそらく将校達は皆揃っている。
「まだ疑ってたんですか。まあいいです。勝つための軍議を始めましょう」
「ああ。勝つために、俺達はここに居るんだからな」
ドルトンが笑う。既に人数は二千対五千。二倍以上の戦力差になっており通常の戦い方では厳しいだろう。
「それだけじゃ多分厳しいです。勝つためには何でもするつもりです。正直二つの連合軍に連携されると勝てません。まずロックウッド騎士団と、マティアス騎士団の間に軋轢を生じさせます」
俺はあの二つの騎士団の仲に着目した。利益でしか結びついていないのは間違いない。俺が居た頃からロックウッド家とマリガン家の仲は別に良くなかったからだ。
「視点は良いと思うが、何か策が?」
マルティナさんが俺に尋ねる。
「私は少し前からにマリガン子爵領に向かう商人達に狙いを絞って情報を流しました。ロックウッド軍とラーゼ軍は繋がっているという内容です。マティアス軍を退けたら一定量の財をロックウッドに渡す契約がなされているとまで伝えています。これだけではなんの信憑性もないでしょう。ですが、その後にラーゼ騎士団がマティアス騎士団しか狙わなかったら? マティアス騎士団はどう思うでしょうか?」
それを聞いたドルトンは真面目な顔で考えるそぶりを見せる。
「初めは只の噂だったが、少しずつ本当のように思えてくるわけか」
「あちらの被害は現状九割以上が、巨大岩でやられたマティアス軍です。既にマティアス側はこれ以上の犠牲は嫌がっているでしょう。軍を丸々失えば勝ったとしてもその後のミスリルの分け前でロックウッドに強く出れませんから」
「面白いな。明日以降はマティアス軍を中心に狙うということだな」
マルティナが言う。先に言われてしまった。まあ分かるよね。
「その通りです。噂を本当のように見せかけるため明日以降はマティアス軍ばかり削ります。既に明日の敵の布陣やルートは全て洗い出してあります」
俺は机の上に広がっているニコル鉱山の地図を指さし、明日の敵の侵攻ルートを逐一説明する。
「必ず覚えて下さい。時間、人数、兵種全て暗記してください。勿論戦況は常に変わりますのでこれが全てではありません。ですが初動は必ず言ったとおりになるはずです。その後は常にスキルを使い予知し続け逐次指揮官である皆様に出来る限り伝達します」
俺の言葉を聞いた将校達は頷く。彼等が適切に対応できなければこの価値ある情報も無意味になってしまうだろう。なんとかして覚えてもらう。
「このルートは騎兵二百が来ます。予め拒馬を置いたうえで弓兵を配置して上から射貫いてください。拒馬の前には油を敷いて馬が止まったところを火矢でお願いします」
拒馬とは、馬を止めるための棘付きの障害物だ。勢いに乗った騎馬隊は厄介だからな。
「このルートの歩兵二百は誘いです。敗走と見せかけて追った先には弓兵が潜んでいるようです。そこを逆手にとって予め弓兵の居る場所に歩兵を忍ばせ一網打尽にします」
メーティスは基本的にイエスかノーでしか答えられない。昨日だけで軽く数千回は尋ねただろう。しらみつぶしに聞くしかないのだ。それにしてもメーティスを何回使っても魔力は尽きないことからやっぱり俺の魔力は多いんだろうなあ。『神解』は気に入っているが、魔法使いになっていたら違う人生があったのかもな、とも思う。
「シビル、君の予知が全て本当だったとしたら……敵からしたら悪夢でしかないだろうな。それほど恐ろしい力だ。全ての侵攻ルートも、数も漏れているのだから。明日は敵を減らそう。勝利のためにな」
マルティナが地図を見ながら唸るように言う。
「頼みます、皆さん。帝国軍の強さを見せつけてやりましょう」
「勿論だ! 昨日は不覚を取ったが、馬術においては大陸一と言われる帝国軍の実力をお見せしよう」
ドルトンが飢えた肉食獣のような禍々しい笑みを浮かべる。確かにこの巨体は相手にしたくないな。
その後も将校達の細かな質問を受けて明日に備えた。
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