お前に背中を任せよう
こちらの本営である天幕に入ると、多くの将校が苦い顔で話し合っている。俺の顔を見て、ドルトンが苦い顔をする。
「来たか」
「証明できたでしょう?」
俺は不敵に笑う。ドルトンは悔しそうな顔を浮かべ、歯を食いしばりつつも言う。
「……ああ。助かった」
振り絞るような声だが、確かに認めた。
「良かったです。なんとか全滅は免れました。ですが、こちらの不利は変わりありません。全力で向かいましょう。こちらはまだ終わっていません」
それを聞いていた女性がこちらに歩いてきた。
「君はあの巨大岩で救ってくれた軍師か。助かった。あのまま終わるかと思ったよ。私はマルティナ。帝国騎士団第三師団第一大隊副隊長をしている。今回の援軍の隊長もしている。よろしく頼む」
称号長すぎてよく分かんねえな。援軍として派遣された帝国軍の隊長だな、完全に理解した。
マルティナさんは、金髪のポニーテールの長身の女性だ。年は二十代半ばだろうか。すらっとしているが、全身鍛えられていることが分かる。
「シビルと申します。よろしくお願いいたします」
俺は丁寧に頭を下げた。彼女とドルトンの助力が勝利の、そしてイヴの命を救うためには必要なのだ。
「それにしても良い策だった。うちにも良い軍師が出てくれたことは大変うれしく思う」
「ありがとうございます。ここの将校の方々には私のスキルをお伝えします。私のスキルは『神解』。イエスかノーで分かることならなんでも分かります。これを使えば相手の動向など様々なことを知ることが可能です」
俺は簡単にメーティスについて説明する。もはや慣れたものだ。
「なるほど。それで事前にあそこで待ち構えることが可能だった訳か。一つ聞きたい。お前はこちらがこうなることまで予期していたのか?」
ドルトンが鋭い目でこちらを尋ねる。知ってて言わなかったのか疑ってますね、これは。自分が邪険にしておいて太々しいな。
「いや、この日に激しい戦いがあることまでは予知してましたが、こんな大敗になるまでは予期してませんでしたよ」
実は知ってたけど、それは言わないでおこう。なんか皆怖いし。最初から俺の話を聞いていればよかったんだろうが。
「そうか。どの程度まで予知できるんだ?」
「いつ敵が攻めてくるのか。人数、兵の種類、ある程度の強さも測れるはずです。その情報の重要性は皆様も分かるはずです。予め対応策を用意しておけば、人数差は厳しいですが戦えるはずです。皆様の力をお貸しいただきたい」
そう言って、俺は頭を下げる。
「勿論、こちらこそ力を貸していただきたい。正直このままじゃこちらは厳しい。それは二千対五千になった時点で皆思っているはずだ。だが、相手の動きを予測できるなら大きなアドバンテージとなる」
マルティナが手を伸ばしてくる。この人良い人だな。ドルトンとトップ変わってくれないかな。
俺はマルティナと握手をする。
「……この間はすまなかったな。力を貸してくれ」
ドルトンも頭を下げた。
「こちらこそ、力を貸してください。皆帝国を守りたい気持ちは同じはずです」
こうして俺は皆の信頼をつかみ取った。俺に実績があれば無駄な犠牲は減らせただろう。俺はその時、権力も必要なのだと感じた。
その後、夜まで明日以降の予測や戦略について話し合った。解散後、俺はドルトンを呼び止める。メーティスさんが言うには、明日は戦いは無さそうだ。敵も今後の方針について話しているらしい。
「ドルトンさん、なぜ戦うのか聞いてましたよね」
「……ああ」
「あれからずっと考えていました。俺は……世界を救うとかそんな大それた目的なんてありません。最初は知り合いの女の子を守りたかっただけ。そして、砦では兵士の皆が死なないように。 俺は、自分の身の回りの人を守りたい。既に軍にも沢山友人ができた。俺は彼等が死なないように、この力を使いたい! 軍人としては、きっと良くないんだとは思います」
それが答えだった。イブや、ネオン。シャロンやダイヤ、そして砦の皆。大事な人が危険な場所に居て、それを守る力があるなら守りたい。
ドルトンはそれを聞いて僅かに笑う。初めての笑みだった。
「確かに軍人としては良くない。だが、人としては……俺はそんなお前を良く思う。お前に背中を任せよう。お前の周りの者を守るために、その力を振るうがいい。我が軍師よ」
ドルトンは手を伸ばして来た。彼は地方の騎士団だ。俺よりも多くの大切な人が町に居るのだろう。
俺はその手を取った。
「はい。必ず勝ちましょう……必ず」
ドルトンの本当の信頼をこの時勝ち取ったのだと、そう感じた。
雑魚将軍を読んでくださっている方、いつもありがとうございます。
実は四月からリアルの仕事の方が忙しかったのですが、遂に過労で潰れてしまいました。
四月から忙しくて全く書けてはいなかったのですが。
しばらく体を休めようと思います。しばらく休載いたしますが、体調が治り次第再開しようと思いますので気長にお待ちください。
別にエタった訳ではないので、そこはご心配なく。
楽しみにしていた方には申し訳ありません。また体を治して戻ってまいります。





