誘い
翌日、朝から激しい銅鑼の音で目を覚ます。俺は体を起こすと、既に陣形を組み終わっている両軍を岩壁の上から見下ろした。
「このレベルの軍の戦を見るのは初めてだな」
と呟く。敵軍はロックウッド軍と、マティアス軍の連合軍だ。数は五千以上は居るのだろう。こちらより大きく人数差がある。
連合軍は勿論中央通路に陣を構えている。
こちら側は一本道に陣を構えているが、人数は三千なので少し少なく見えた。有利なのは高地を取っていることだろう。そのため弓兵も多く、高低差を活かして戦うつもりだろうことが見て取れる。
そしてなにより先日のロックウッド軍の虐殺で大きく士気が高い。
「ロックウッド軍を討ち、今こそ民の仇を討つのだ! 奴等のような畜生共に我ら誇り高きローデル帝国軍が負けるはずもない!」
「「「「民の仇を!」」」」
ローデル帝国軍は両手を上げ、叫ぶ。
「凄い士気だね。これなら少しくらいの戦力差なら勝ちそうだけど」
ダイヤが言う。確かに、俺もそう見える。だが、負けるらしい。
「お前ら、ロックウッド軍が動くぞ。いつでも動けるようにしろよ」
シャロンが剣を持ちながら言う。
「腰抜け共に、ロックウッド軍の強さを教えてやれ! 突撃だああああ!」
「「「おおおおおおおお!」」」
ロックウッド軍の指揮官の叫びと共に、尖兵であろうロックウッド騎兵達が一斉に飛び出してローデル帝国軍に襲い掛かる。
五百を超える軍による突撃は凄まじい轟音を響かせる。俺はその迫力に息を呑んだ。
「弓兵、放てェ!」
こちらは弓矢を放ち応戦する。こうして戦が始まった。
「弓矢ごときで、勇猛なロックウッド軍が止まるものか!」
矢をうけて何人もの兵士達が馬から転がり落ちるも、ロックウッド軍は止まらない。帝国軍は拒馬という柵を前方に置いていたが、多くの馬がその柵にぶつかり兵士達はそのまま吹き飛ばされ宙に舞う。だが、一部の精鋭達は拒馬を飛び越え、そのまま斬り込んだ。
「舐めるなあ!」
激しい攻防が始まった。だが、高地の理もあるうえに士気も高い帝国軍が徐々に優勢になっていく。
「ロックウッド軍もこの程度か! 所詮は農民しか殺せない雑魚だったのだ!」
勝機を感じ取ったのか、帝国軍が勢い付く。
「ぐう……一時撤退しろー!」
ロックウッド軍は元来た道を戻り始める。
「逃がすな、背を討て!」
帝国軍はその背を追い、襲い掛かる。
「シビル、こっちめっちゃ勝ってない?」
「おかしいな。まあいいことなんだけど」
どんどん撤退していくロックウッド軍を追い全軍で攻めあがる。いつの間にか帝国軍は分岐点を大きく超え中央通路に入っていた。
絶壁の上で見ていたシビルがここで異変に気付く。
「違う、これは誘いだ……! 帝国軍は攻め入りすぎている!」
俺達のいる岩山からは、右通路から攻めあがっているマティアス騎士団の姿が見えた。その数は千。
マティアス軍は時間差で別動隊を右側から動かし、帝国軍の背後を狙っていた。既にマティアス軍の別動隊は分岐点直前まで上がっている。
「馬鹿共の背後を狙え! 今こそ我らの武威を示すのだ!」
マティアス軍の指揮官の叫び声と共に、千の軍が一斉にローデル帝国軍の背後から襲い掛かる。
「えっ、後ろから!?」
「なぜこんなところにっ!」
背後から襲われた帝国兵は次々と討たれていく。前後から襲われている帝国軍は突然の出来事にパニックになっている。
さっきまで逃げていた連合軍も、下がることを止め一気に攻めあがる。
「帝国の馬鹿共が! まんまと釣られやがって!」
どんどん帝国軍の数が減っていくのが上から分かる。
ドルトンは血走った目で、歯を食いしばる。
「誘いだったか……! お前ら、ここは正念場だ! 活路は前だ! 突破しろ!」
ドルトンは叫び敵を斬り倒すも、その勢いもどこか失われているように感じた。
「シビル!」
ダイヤが俺の目をみて叫ぶ。
「ああ。今だ。やってくれ! 狙うはあそこだ」
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