登山
俺は下山後複数の商人と会った後、主戦場を見るために再びニコル鉱山に戻る。往復に二日が費やされた。その間、既にロックウッド軍との小競り合いがあったようだ。
一本道にローデル軍が布陣しており、その先は三つの分かれ道が続いている。確かに中央の道が最も広く主戦場になるのも分かる。
「メーティスに尋ねたが、おそらくこの分岐点付近での戦いになる。俺達はこの岩山を登る」
俺が指差した先には、絶壁と言える壁である。ほぼ垂直である。中央路付近にある岩壁だ。
「え、冗談だよね? こんなの登山家でも登れないよ。だから高地なのにうちの軍が上ってないんでしょう?」
ダイヤが苦笑いをする。高さは十メートル以上あり、ほぼ突起物も無く登り方も不明だ。
「確かに命がけだと思う。そして普通は登れんし、登ろうとも思わんだろう。だからこそ、敵も味方も予測できないだろう?」
「まあそうだろうけど……こんなの登れなくない?」
「いや、できる。ダイヤ、お前が居れば。確か土も石も大枠では同じはずだ。その理屈でいけばダイヤの土魔法で岩も変形、生成できるだろう?」
「まあ確かにできるけど。サイズの問題だからね。けど魔力消費量が大きく違う――」
俺は両手でダイヤの肩を掴む。
「なら土変形でこの絶壁に取っ手を生み出すことができるよな? それを登る。その後でただの絶壁に戻せば誰にもばれないはずだ」
「分かったよ。まさか命がけで壁を登ることになるなんて……」
「今日登る。明日に登るとばれるかもしれないからな」
「それは分かったが、ここに登る目的はやはりあの山のように巨大な岩か?」
シャロンが俺に尋ねる。
「その通り、俺達少数の力じゃ普通に戦えば戦場で埋もれてしまい、この大戦の流れを変えることはできないだろう。だから自然の力をつかうのさ」
絶壁の先には、直径二十メートルを超える大岩があった。
「確かにあの大きさで落とせれば大打撃は与えられるだろうが……あんなの落とす気なら何十人必要か分からんぞ。私達だけじゃとても無理だ」
シャロンの言う通り、この大岩を転がすのは三人では無理だろう。
「策はある。これならどうだ?」
俺は二人に策を話す。
「それならいけるかも! よく思いついたね!」
ダイヤが驚きながらはしゃいでいる。
「よくそんなこと思いつくな。呆れるよ」
シャロンは呆れながらも笑う。
「では登ろうか」
ダイヤが両手を壁につけ、魔法で壁に凹みを等間隔で生み出す。少しずつ凹みが最上部まで生み出された。
「もうちょっと掴みやすくできないか? 普通の凹みの下にも穴を開けて欲しい」
俺は凹みの一つを掴んだ後感想を言う。
「分かったよ。強度も上げないと崩れちゃうし、意外と難しいね」
ダイヤが四苦八苦しながらなんとかベストな凹みを生み出した。ガルーラン砦の毎日の活動を受け、変形速度も量も以前より格段に上がっている。
「できたと思う。登ろうか」
こうして俺達は壁登りを始める。ダイヤの作った凹みは中々持ちやすく安定していた。
「怖いねえ。それにしてもシビルと戦い始めてから剣より、土木作業の方が多いよ僕は」
「土魔法使いってのは、工兵の方が向いているんだからそれでいいんだよ」
「確かにね」
こうして俺達は絶壁を登り切った。ダイヤに凹みを元に戻してもらい登った証拠も隠滅する。
俺は今一度巨大な岩の元へ向かい、確認を行う。これなら、転がし落とすこともできる。メーティスに落とせることも確認済だ。
「後は明日待つだけだ」
「はーい」
今後の展開をメーティスに細かく尋ねながら、最も効果的な方法を練る。そして、俺は深夜、上空に浮かぶ満月を見ながらドルトンの問いについて再度考える。
「俺が戦う理由、それは……」
答えはあと一歩で分かりそうな気がするものの、もやがかかったように届かない感覚だ。
俺はそのまま眠りに着いた。
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