存在証明
話していると、天幕に急いだ兵士が入って行く。何かあったのか?
「シビルさん、少し失礼します」
コールマンも異常を察したのか、天幕に向かっていった。
俺達は、天幕に耳を近づけて盗み聞きをすることにする。教えてくれそうにないから仕方ないね。
「すみません。付近の村人が村を焼かれメルカッツに逃げ込んだそうです! 相手はロックウッド軍! おそらくもう奴等は近くに居ます!」
兵士の報告を受け、皆の顔が引き締まる。戦では村から食料を略奪されることは少なくない。皆どこか仕方ないと諦めていた。
「そうか……大量の村人がメルカッツにやってきただろう。丁重に扱ってやってくれ」
ドルトンがそう言うと、兵士の顔が曇る。
「どうかしたのか?」
「そ、それが……ロックウッドの鬼畜共は……村を焼いたばかりか、村人を皆殺しにしたそうです! 生き残りは一人だけ、おそらく十以上の村が犠牲に」
その報告を受けたドルトンを含めた皆の顔が怒りに染まる。
「ふ、ふざけるな! 戦中だ。食料の強奪は仕方あるまい。だが! 戦えない村人を虐殺するメリットはないはずだ!」
「分かりません。だが、皆、殺されてしまったようです」
「そこまで堕ちたか、ロックウッド家! 必ず民の仇は取るぞ、お前達!」
「勿論です、隊長!」
ロックウッド家の虐殺は大きくローデル帝国軍の怒りをかった。逆効果だろう。
「ハイル、お前はどこまで……」
堕ちていくんだ、という言葉をなんとか飲み込んだ。兄として、引導を渡さないといけない時が来たのかもしれない。不甲斐ない兄の代わりに、若くして次期当主を背負い、壊れてしまった弟に。
俺達三人は、天幕を離れ今後について考える。
「どうする? やはり私達三人でそのイヴという子を守るのか?」
シャロンが尋ねる。
「いや、それはやっぱり厳しい。戦で負ければ俺達は死か、捕虜かどちらかだろう。なんとか信頼を得るしかない」
「けどあまり時間は無いんじゃ?」
ダイヤが心配そうに言う。
「結局俺達が役に立つ、っていうのを証明しないといけない。援護で動くことまでは止められてない。役に立つのなら放っておけくらいのものだろう。俺達の援護で、ローデル帝国軍を窮地から救う!」
それを聞いたシャロンが笑う。
「なるほど。この手で有用性を証明するという訳か。面白そうだ。ということは小競り合いを助けるのではないな?」
「ああ。このままじゃまずい、と誰もが思った瞬間に救援に向かう。多少被害は出るかもしれんが……それは仕方ない。このままじゃ負けるし、そうなれば全滅だ。舐めんじゃねえよ、あのおっさん! 必ず俺の有用性を証明して頭下げさせてやる!」
俺は拳を強く握り締める。人の話も聞かずに斬り捨てやがって。後悔させてやる。
『ローデル帝国軍が大敗する日は五日以前?』
『イエス』
どうやらすぐに大敗するらしい。
『それは五日後?』
『ノー』
『それは四日後?』
『イエス』
どうやら四日にこちらは大敗するらしい。我が軍の窮地を俺達たった三人で救う。普通に考えれば不可能だろう。そんなことを少人数で出来るなんてまさしく英雄だ。
だが、不可能を可能にしてこそ信を得られるのだ。
「テンション上がってきた! ガルーラン砦の軍師を舐めるなよ」
俺は獰猛に笑う。
『へっへっへ! 雑草根性を舐めんなよ、ってな! あのデカブツに策ってやつをみせつけてやろうぜ!』
ランドールが笑う。
『ああ。度肝を抜いてやる』
俺達は今後のために動き始める。
俺はしばらくメーティスに尋ねて情報を手に入れた結果、一度下山することを決意した。
「えっ、主戦場見に行くわけじゃ無いの? なんで商人?」
一度、商人に会うために下ると伝えた俺にダイヤが疑問を持つ。
「勿論見に行くが、この戦い、人数差を考えると他にも策は必要だ。少しだけ仕込みにいく」
「悪い顔してるねえ、シビル。相当腹が立ったのかな?」
「ああ。あいつの目が節穴ってことを教えてやんよ」
そういいつつも、俺はドルトンの問いが忘れられなかった。俺はなんのために戦うのか。
俺はもう答えを持っている気がするんだけど、うまく言葉にできないようなもどかしさを覚える。
その答えが出た時、俺は更に未来を見据えて動ける気がした。
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