なんで自信満々で推薦状を渡したんだい? なぜなんだい?
ニコル鉱山は、その名に恥じない岩が多く木々が失われた鉱山であった。ところどころに枯れ木や草は生えているものの、殆ど岩山であり登頂にすら苦労するありさまだ。
俺達は傾斜の強い山を、岩を掴みながら登っていく。たまに足場が崩れることがあり、あまり良い場所とはお世辞にも言えなかった。
「ここからはだいぶんましみたいだよ。それにしても鉱山だからか穴も多いな……」
鉱山なので発掘していたのか、歩いているとところどころに穴が空いていた。既に山登りをしてから半日以上が経過している。
急斜面を登り終え一息つくと、その周囲には多くのローデル帝国兵が居ることに気付く。どうやら辿り着いたようだ。
兵士達は槍を持ち、こちらを伺いながら近づいてくる。警戒心が高く、疑っているようだ。
「どこの所属の兵士だ!」
他より少し立派な格好をした騎士が俺達に尋ねる。
「はっ! ガルーラン砦所属の帝国兵、シビルです! こちらの援軍に参りました! こちらはヨルバ様から頂いた推薦状となります。ラーゼ軍隊長にお渡しいただきたい」
シビルは武器を地面に置くと、推薦状を騎士に手渡す。
「……本物のようだな。ついて来たまえ。だが、武器は全て手渡してもらおう。申し訳ないが、敵兵が偽っている可能性もあるからな」
「承知しました。二人とも、悪いけどお願いできる」
「分かったよー」
「……」
シビルは笑顔で剣を、シャロンは不承不承大剣を近くの兵士に手渡した。
「悪いね。こちらだ」
先導する騎士に連れられ、俺達はニコル鉱山山頂付近に布陣するラーゼ軍本部である天幕に辿り着いた。
「隊長、本国から援軍が三人です。推薦者はあのヨルバ様です」
「なあにい!? あの婆からか!」
天幕の中から大声が響く。
その言葉の後すぐ天幕から巨体の男が現れる。
でかい。それが男の第一印象だった。
縦は百九十センチほどで、肩幅が広く横にも大きかった。決して太っている訳ではなく全身が筋肉で包まれていることが分かる。
金髪を短く刈り上げており、顔は日でこんがりと焼かれている。いかつい顔立ちから歴戦の兵士であることが伺えた。
そして男は、ヨルバさんからの推薦状をちらりと見ると、すぐさま破き放り投げた。
「あのクソ婆の手先だってぇ?」
男はそう言って俺を睨みつける。
おいおい、あの婆さん。何やらかしたんだよ! 逆効果じゃねえか!
全く意味をなさず散り散りになった推薦状の破片を見ながら俺は絶望していた。





