別れ
俺は駐屯地に向かうのを速めることに決心する。イヴを助けに行くには正式に赴任先を変えてもらう必要がある。それはつまりガルーラン砦を出るということだ。
皆強くはなった。だけど、俺が離れた後皆大丈夫だろうか。これはガルーラン砦の皆を見捨てることになるのではないか?
俺は何が正解か分からなくなった。
「何を悩んでるの、シビル? 助けに行きたいんじゃないの?」
俺にそう尋ねたのは同期にして友であるダイヤだ。
二十歳くらいの茶色の天然パーマが特徴の魔法使いである。初めて会った時はどこかおどおどしていたが、今は少し自信が顔から感じられる。
「助けたいさ」
俺のどこか歯切れの悪い台詞を聞いたダイヤが口を開く。
「皆を心配してるの? もう皆昔のやる気のない人たちじゃない。今は立派な帝国軍の屈強な兵士さ。少しは皆を信じてやりなよ」
ダイヤの言葉を聞き、俺は自分の傲慢さを知る。このスタンピードも皆の強さで勝ち取ったものだ。今更普通の魔物達に、皆はやられない。彼等を信じることにした。
「ああ。そうだな。俺は駐屯地に向かう。司令官にも伝えてくるよ」
俺は帝国軍の駐屯地に向かうことを司令官に伝えに向かった。そして、友を助けるためにメルカッツに向かいたい旨を伝える。それを聞いた司令官はにっこり笑う。
「今までありがとうのう。君には本当に助けられた。君はずっとこの砦に居るような人材ではないのには気付いとったよ。ここは気にせずに向かいなさい」
「ありがとうございます。結果的にはすぐにここを出ることになるかもしれません」
「ええんじゃ、ええんじゃ。ここはもうゴミ溜めではない。それは君が一番知っておるじゃろう? もし君が困ったらガルーラン砦の精鋭で君を助けに行ってやる。だから安心して行きなさい」
まるで本当のお爺ちゃんのような優しい声色で言われる。
「ここでの日々は俺にとって宝物です。忘れません」
「ほっほ。君にそう言われるなんて、君はきっと儂が想像するよりも凄くなると思っておるよ。頑張ってきなさい」
司令官からの激励を聞いた後、俺は丁重にその場を辞した。
荷物も整理して、砦を出る。
すると、そこには共に今まで戦ってた皆が集合していた。
「おいおい、隊長。俺達になにも言わずに去ろうなんて、みずくせえじゃねえか」
炎魔法を使うおっさんがニヤニヤと現れる。
「おっちゃん……」
「皆、ガルーラン砦の英雄に敬礼!」
司令官の普段とは違う凛々しく重々しい大声に皆敬礼のポーズを取る。
「「「「「「隊長、ありがとうございました!」」」」」」
皆が一斉に頭を下げる。
「皆、泣かせるなよ……」
俺は不覚にも涙が出そうになった。今までどこも追い出されたりばかりだったせいか、温かい別れが嬉しかった。
「行くぞ」
そう言ったのはシャロンだ。
シャロンは身長は百七十センチほどの美少女である。すらりと伸びた綺麗な足に、引き締まった美しい体躯。絹のような艶のある腰まで伸びた銀髪は、見る者皆の心を奪うだろう。
「僕もついて行くよ」
ダイヤも同様に言う。
え? そんな自由に抜けていいものじゃ無くない? 正直俺も赴任先変更をこれから相談に行くところなんだけど?
司令官の顔を見る。
「二人とも成果は残している。先日の報告に二人を同行させればよい。後は君の交渉次第じゃろう」
勝手の知った二人がついてくるのはとても助かる。素直に甘えることにしよう。
「今までありがとうございます! これからのガルーラン砦を頼みます!」
「「「「「応! 任せとけ!」」」」」
こうして俺達は砦を華々しく送り出され、軍の駐屯地に向かう。
『格好良く決めてるけどよお、これでメルカッツに行けずに砦に戻ることになったら赤っ恥だな。ハハハ!』
脳内にランドールの声が響く。ランドールとは俺の持っている弓だが、魔法武器のせいか意思があり話すことすらできるのだ。
『分かっている。なんとしても頼み込むしかない』
『上手くいくことを祈ってるぜ、相棒』
『ありがとうよ』
このまま断られて砦に戻ったら恥ずかしすぎる。これからのガルーラン砦を頼んでいる場合ではない。お前が守れ、という話である。
3章開始です。
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