死の気配
スタンピードが終わった後、すぐ兵士達は皆疲れたのか泥のように眠った。それは俺も勿論例外ではない。
翌日、朝起きていつものように食堂に向かうも人がいつもより少ない。重傷を負った者も居るため仕方ないだろう。
死人は十人程だ。スタンピードをその程度の犠牲で退けられたのは素晴らしい成果と言える。だが、皆知っている兵士達だ。
時に馬鹿を言い、時に笑いあった者達である。たった十人とは口が裂けても言えなかった。
「勝ったんだ、そんな悲しそうな顔をするな」
シャロンから頭に手刀を入れられる。痛てえ。
「すまん。少しだけ感傷的になっちまったよ」
「軍師なら、いちいち死んだ兵で悲しんでいては指揮なんてできんぞ。だが……冷徹なだけな軍師より、死を悲しんでくれる軍師に、私は指揮をしてもらいたいがな」
シャロンは顔を背けながらそう言った。
励ましてくれてるんだろう。素直じゃないな。
「ありがとうな、シャロン」
「感謝なんて別に言らん。これほどの戦闘、上層部に報告が必要だろう。スタンピードをこの程度の被害で治めたんだ。勲章ものだぞ」
「素直に認めてくれたらな」
俺はそう告げる。
ゴミ溜めと言われている俺達の快進撃を素直に信じてくれるかは少し疑問だ。大量の死体はあるから大丈夫だとは思うけど。
「雑魚隊長も少しは箔がつくってもんだ」
「雑魚隊長という呼び方には異議を唱えたい。もう雑魚ではないはずだ!」
それを聞いたシャロンがにんまりと笑う。
「なんだ、不満か? そうだな……私より明らかに強くなったら雑魚を取ってやろう。それまでは駄目だ」
雑魚に対する謎のこだわりなんなの? まあそんな気にしてはないんだけどさ。
近いうちに町の駐屯地に行き報告をしようと考えていた。そんな時、砦に急報が届く。隣町バラックから軍からの急使がやってきた。
急使である兵士は馬を走らせ必死できたことが分かる様子だった。やってきた兵士は周囲の様子や砦の兵士達が生きていることに驚いている。
「ここもスタンピードがあった……のか? それにしては生き残りが多いな」
俺はその言葉を聞いて疑問が浮かぶ。なぜスタンピードがあったことを知っている?
「スタンピードはあった。だが、俺達で退けた。証拠もある。後ろにはハイオーガの死体が転がっているぞ」
「……絶対に既に落ちているだろうと思っていたガルーラン砦がスタンピードを退けるとは。報告せねばなるまい」
「こちらも伺いたいことがある。なぜスタンピードが有ったことを知っている?」
それを聞いた兵士が少しだけ驚くも、すぐに納得した顔に変わる。
「そうか……知らないのか。スタンピードはここだけで起きた訳では無い。ハルカ共和国に隣接した三つの砦が同時に襲われた。一つの砦は陥落し魔物が町にまで押し寄せようとしている。おそらくハルカ共和国の仕業だろう。同時にあちらも軍を動かし始めたからな」
それを聞いて俺は違和感の正体に気付く。突然統率された魔物達の襲撃。これは誰かが糸を引いていたのだ。
『今回のスタンピードはハルカ共和国の仕業?』
『イエス』
当たってるじゃねえか、しかも。
「どうやらそのようですね」
俺の返事に兵士は首を傾げるも流すことにしたようだ。
「本当に勘弁してほしいよ。ただでさえ西側ではメルカッツがアルテミア王国の軍に攻められてるっていうのに。これで二か国を相手にしないといけない」
兵士は何げないぼやきのつもりだったんだろう。だが、俺には違う。メルカッツはイヴが赴任した場所だからだ。
俺は嫌な予感がした。俺は兵士の肩を掴み、尋ねる。
「おい! どういうことだ! メルカッツはアルテミアと戦争中なのか!」
「そうだよ。いくらローデルでも二か国同時、しかも挟まれちゃ無事ではすまん」
兵士は俺に告げる。
だが、俺はそんな言葉頭に入ってこなかった。イヴが危ないんじゃ……。
『イヴは現在無事?』
『イエス』
良かった。まだ無事のようだ。だが、戦争中なんだ、どの程度危ないんだ?
『イヴは戦争中これからも無事?』
『ノー』
おいおい、冗談だろう。背中が冷たくなる。嫌な予感だ。
『戦争中、このままじゃ殺されてしまう?』
『イエス』
俺達は軍人だ。常に命を落とす危険性はある。だけど、それがイヴを見捨てる理由にはならない。
俺はなんとしてもメルカッツに向かうことを決めた。
お読みいただき、ありがとうございました!
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