俺が助けないと
「西門、人手が足りません!」
「……北門から三人回してもらえ!」
兵士達の声を聞きながら俺は指示を出す。メーティスに素早く何度も聞くことにももう慣れたものだ。
俺は四方向の様子を逐一確認し、兵士をせわしなく移動させる。
『西門に援軍を送るべき?』
『ノー』
『東門、北門に援軍を送るべき?』
『ノー』
『南門に援軍を送るべき?』
『イエス』
『三人以上?』
『イエス』
『五人以上?』
『ノー』
『北門から援軍を送るべき?』
『イエス』
「北門から南門に援軍四人送れ!」
俺は伝令に素早く指示を伝える。
「すぐ伝えます!」
伝令がすぐさま北門に向かう。俺は一番の激戦区となっている南門の様子を見て唇を噛んだ。
「シャロン……」
俺の目線の先では大剣を使い、ハイオーガと一対一の戦闘を繰り広げるシャロンの姿があった。
その戦いを邪魔させないために多くの兵士も壁の外に降り、オーガ達と戦っていた。南門には六十人以上の兵士と動員していたが正直厳しいと言わざるを得ない。
壁の上から弓矢で援護をしているものの、そこまで多くの魔物を仕留められるわけではない。南門が最も正面からのぶつかり合いといえた。落とし穴や罠を仕掛け動きを制限し数を減らすことには成功していたが、やはりオーガ達が崩れない限りこちらの勝ちとは言えなかった。
シャロンは荒々しい息をしながら、必死で大剣を振るう。人が食らえば一たまりも無さそうな、棍棒の一振りを躱しながらの戦闘は精神的にも大きな負担である。
シャロンの一撃が、ハイオーガの左腕にかする。鮮血が舞うが、それを見てハイオーガは邪悪な笑みを浮かべる。
まるで敵に値することに喜ぶように。
「舐めるな!」
シャロンが大剣を振るおうとすると、ハイオーガの目の色が変わる。その鋭い眼光と共に、凄まじい速度で棍棒が横振りでシャロンに襲い掛かる。
シャロンはとっさに大剣のその一撃を防ぐも、その威力を殺すことはできず、砦の壁に叩き付けられる。
「ガハッ!」
シャロンはすぐさま立ち上がり、大剣を構える。
「おいおい……シャロンが負けたらこっちはやべえぞ」
炎を纏わせた剣を振るうおっさんの顔が歪む。
「勘弁して欲しいです……ね!」
クラインが鉄の靴で、オーガの顔に蹴りを放つ。スキル『韋駄天』を活かした蹴りが中心の戦法のようだ。
「心配するな……こんな化物に負けるつもりは無い……」
シャロンはそう言うが、長く持つとは思えない状態である。
俺が……シャロンを助けないと!
俺はランドールを握ると、矢を放つ。通常のオーガすら葬った矢であるがハイオーガには通じないのか、躱されてしまう。
「ち、畜生……!」
俺は顔に動揺が出ようとする。それを見た兵士達の顔に不安が宿る。
まずい。俺まで落ち着きを失ったら、ここは総崩れだ。
俺はこの時、どんな状態でも平静を保つことの難しさを痛感した。
仲間が傷ついていても、感情的になることもできねえのかよ!
もっと援軍を……!
『南門に援軍を送るべき?』
『ノー』
『他三門で援軍を送ることができる場所はある?』
『ノー』
メーティスに尋ねながら、俺も内心分かっていた。どこも余裕なんてないってことに。
『この戦い勝てる?』
『イエス』
メーティスは勝てると言っている。だが、俺にはそうは思えなかった。目の前で必死に戦う少女すら救えないのだ。
俺は矢を放つも、ハイオーガ相手じゃ当たることも無く、地面に悲しく突き刺さった。
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