強気でいくんだよ、強気で
その日以降も、俺はシャロンの弓の訓練を受けていた。まだ全然自分の腕では全然的に当たらないのが恥ずかしい。
汗だくになりながら、弓を引く動作を行う。やってみると分かるのだが、弓が上手いものはその初期動作が美しいのだ。無駄がなく、流れるようなその動作を見るだけで弓の実力が分かる。
俺の動作? 毎日シャロンに直されてるよ。
「シビル君、君宛てにお客さんだよー」
世話役のクラインが手を振りながら言う。
「ネオンかな?」
「いや、この間来た子じゃないよ」
ネオンじゃないとしたらいったい誰だろうか。
イヴか?
俺は客が待っているとされる南門へ向かおうとした。だが、南門まで向かう必要はなかった。あちらから来たからだ。そこには二度と会いたくない奴が立っていた。
「久しぶりだね、兄さん」
ハイルはにっこりと笑う。貼りついたような笑みだ。口元は笑っているのに目が笑っていない。
「そうだな」
俺はなんとかそれだけを口に出した。なぜハイルがここに? その疑問は解けない。
「兄さんを探していたんだ。皆、兄さんの帰りを待っているよ」
言葉はそう言っているが、微塵も感情が感じられない。
『ハイルは俺の帰りを待っている?』
『ノー』
だろうなあ。
『目的は俺の命?』
『イエス』
ふー……まさか俺を殺すためにここまで来るなんて……。
「いや、遠慮しておくよ、ハイル。俺の居場所はもうここだ」
「何を言っているんだ? 王国のロックウッド領の次期当主ともあろうものが、敵国で軍人をしているなんて……スパイと勘違いされてもおかしくないよ?」
それを聞き、訓練していた兵士達が僅かにざわめき始める。これを聞かせるためにわざわざ中まで入ってきたのか。
「本当なの?」
ダイヤがおそるおそる俺に尋ねる。
「ああ。元だけどな。上層部はそれも知っている。俺は次期当主の座を剥奪されて国を追われたのさ。流れ着いた先がここだった。それだけのことだ」
「それは悲しい行き違いだよ。皆待っている。駄々こねていないで早く帰ろう?」
そう言って、ハイルが手を伸ばす。
「俺の立場は?」
気になっていたことを尋ねる。別にもはやロックウッド家の当主になど戻りたいとは思わないが、ハイルがなんと言うかが気になった。
「それはおいおい考えよう?」
まるで子供のような言い訳だ。それで帰る奴がいるなら見てみたいくらいである。
「おまえからすれば俺は邪魔な存在でしかない。そんな俺を連れ戻す理由を聞かせて欲しい」
「そりゃあ皆が兄さんの帰りを待っているから……」
「ハイル、俺のスキルは知ってるよな? 俺相手に嘘はつけねえんだよ。断る。今の俺の居場所はここだ。帰ってくれ」
はっきりと告げる。その言葉を聞いたハイルの眉間に青筋が浮かび上がる。
「ごちゃごちゃうるせえなあ。この俺が帰って来いといったら、黙ってついて来いよ。ゴミが……! 殺すぞ、雑魚が……!」
ハイルの全身から殺気が溢れ出す。その言葉と同時に、後ろに居たハイルの部下達も剣の柄に手をあてる。
「本音が出てるぜ? ハイル」
俺はにやりと笑う。やばい時ほど不敵に笑う。これが上の条件だ。命がけだけど。
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