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シャロンさんの稽古

 その頃ローデル帝国の各地を回っていたハイルが遂にシビルの情報を掴んだ。


「あの臆病者が軍? どういうことだ?」


 ハイルはようやく手に入れた兄の目撃情報を聞き眉を顰める。聞いた話では、兄はなぜかローデル帝国軍に入隊し、激戦地であるガルーラン砦に飛ばされたらしい。


「だが、大枚をはたいて手に入れた情報です。確かかと」


 様々な町を向かうも、なぜかシビルの情報は手に入らない。それもそのはず、デルクールを出てすぐにガルーラン砦という僻地に飛んでいたのだ。情報屋や軍の人間に大金を渡し、ようやく手に入った情報だった。


「軍に入ったのは意味が分からんが、僻地に飛ばされたところからあの臆病者に違いないな。無能がばれて、飛ばされたんだろう。ゴミ溜めなんて、あの無能にぴったりだ。ガルーラン砦へ向かう! 無駄になりそうだがな」


 ガルーラン砦は一年で殆どの人間が入れ替わると聞き、兄はもう死んでいるだろうと考えていた。

 ハイルは勿論知る由もなかったことであるが、ロックウッド領の農村では農民達が憎しみと怒りから武器を取り反乱を企てていた。


 ハイルによる農民の処刑は確実に彼等の心に失望と憎しみを刻み込んでいた。


  



 翌日、朝いつものように食堂に向かう。ダイヤと朝食を食べていると、シャロンが現れる。


「おはよう、シビル」


 シャロンが挨拶をした。ただ、それだけのことであるが、食堂には激震が走った。


「シャ、シャロンが自分から挨拶を!?」


「シビルの粘り勝ちか!?」


 と兵士達がはやし立てる。シャロンが凍てつくような白い目を奴等に向ける。


「おっと……」


 それを見て、兵士達が目を逸らす。


「おはよう、シャロン」


「今日は、時間あるか? 少しだが、弓の稽古をつけてやる」


「ああ! 是非頼む!」


 ぶっきらぼうな言い方ではあるが、これがシャロンなりの関わり方なのだろう。それを見て、おっさんがニヤニヤとする。


「なんだー、シャロン。お前も遂に陥落か?」


 シャロンは返事もせずに、俺だけを見ていた。それをみて、おっさんはお手あげというジェスチャーをした後、自分の席に戻っていった。

 シャロンは話し終えたのか、そのまま朝食を食べるために去っていった。


「ねえ、なにしたのシビル? シャロンが自分から話しかけるなんて初めて見たよ」


 ダイヤが耳元で尋ねてくる。


「いや、それが俺もよく分からん。毎日、声をかけ続けたのが、効いたんだろうか?」


「毎日、無視されても話しかけ続けてたもんね。凄い根性だね本当。ランドールの悠弓もその根性で振り向かせたみたいだし」


「はは。粘り勝ちだな」


 シャロンの稽古、楽しみだな。


「おい、そもそも持ち方がおかしい。弓を習ったことあるのか?」


 前言撤回いいですか?


「いや、随分前に少し習ったことがあるくらいで……」


「だろうな。持ち方も駄目だし、弦の引き方も駄目。こんな素晴らしい弓に、本当に認められたのか? 弓が泣いてるぞ」


 シャロンの指導はスパルタだった。本当に。


「ああ。違う違う。一回引いてやるから見ていろ」


 そう言ってシャロンは美しい所作で持ち前の矢を番えると、そのまま弦を引き絞る。そして放つ。その矢は見事に的に命中する。


「上手いな、シャロンは。弓もできたのか」


「真の騎士たるもの、大剣だけではだめだろう。時には矢を射ることもある。シビル、お前に剣の腕までは求めん。だが、弓は援護にも使える。軍師のお前にはぴったりだ。魔法弓に胡坐をかかずに、腕を磨け。さあ、引くんだ」


 シャロンが言うことは正しい。


「はい!」


 俺は再び弦を引く。


「違う!」


 厳しい指摘が入る。


「すみません!」


 俺はスパルタ教官の厳しい指導が受けていた。それを他の兵士達が笑いながら、たまに羨ましそうに見ていた。

 夕方頃に、ようやく解放される。


「弓の訓練は一日で何とかなるものじゃない。毎日、指の皮がめくれて、血塗れで弓を引いて積むものだ。励めよ」


「はい!」


 シャロンは武芸に真摯なのだろう。厳しくも丁寧な指導を真面目に聞いていたら時間が過ぎてしまった。

 シャロンが砦に戻った後、俺は心地よい疲れを感じながら地面に寝転がる。


「この砦はこれからだ」


 自分に言い聞かせるようにつぶやいた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 辺境の激戦地に飛ばされたから、死んだとあきらめるか、少なくともしばらくは追っ手が巻けると思ったが、意外と律儀に追うな、弟さん。 実家の方では一揆が起きそうだけど、相手は脳筋領主だし、どうな…
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