信じさせてくれ
シャロンは自室に戻ると、頭から布団に倒れ込む。
「私は冷静にできていただろうか」
よく見れば、僅かに耳が赤いことが分かる。
シャロンは、初期の方からシビルの采配に疑問を感じていた。確かに素晴らしい結果は残している。だが、天才軍師と言われるような鮮やかな策によって勝っていた訳ではないからだ。
そして、毎日のように隠れて初任者用の軍略を学んでいる。シビルが素人だと気付くのに時間はかからなかった。
シャロンは、シビルが皆を騙すつもりだったなら力尽くでも止めさせるつもりだった。だが、彼は素人なりに精一杯努力していた。そんな彼を見て、少しずつ信頼しても良いんじゃないかと考えるようになった。
誰も軍略に明るいものなどここにはいない。なら彼に任せてみても、良いのではと。いざとなれば自分がいつでも動けるように見張っていればよいと。
だが、シビルはシャロンの予想を裏切り連戦連勝を重ねていた。皆は彼を天才と褒めたたえていたが、彼は不器用なりに努力を積み重ねて今ここにいるとシャロンは考えた。
シャロンは小さい村の出身だった。小さな村では出るスキルなどほとんどが農業関係のスキルだ。だが、彼女は『聖騎士』を引き当てた。彼女の両親は涙を流し喜んでくれた。彼女もその期待に応えられるように努力を重ねた。村の人達を守るために、国民を守るためという高貴な目標を持って軍に入った。いつか絵本で見たような、格好良い女騎士になれると夢見て。
現実は儚くも残酷だった。戦う気も無く生まれだけで威張っている弱い貴族。略奪しか考えていない下種な同僚たち。
そんな場所において、美しいシャロンに近づく者は腐るほどいた。彼女も最初は我慢していた。だが、少しずつ彼女が軍に幻滅していったのは想像に難くない。
いつしか死んだ目で大剣を振るう白銀が生まれたのはその頃だ。
そしてシャロンは無理やり手籠めにしようと自室に連れこもうとした中年貴族の顔面を思い切り殴り飛ばし、呼び出しを食らってしまう。
もう謝ることに疲れたシャロンはどんな処分も受けようとも謝る気はなかった。
その結果、シャロンは聖騎士という素晴らしいスキルを持っていたにも関わらず、ガルーラン砦というゴミ溜めに飛ばされてしまった。
毎日のシビルのシャロンへの一方的な会話は、少しずつシャロンの氷の心を溶かした。勿論それはシャロンが、シビルの努力と結果を見ていたのが大きいが。
人を率いて、C級魔物すら倒すシビルを、シャロンは信じることにした。我が剣を預けるに値する存在だと。
「シビル、私にもう一度信じさせてくれ。騎士とは格好いいものだと。誇るに値する存在なんだと」
白銀の女王は天井を見つめながらそう独り言ちた。
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