デレた(何がかは言わない)
シャロンは軍靴で廊下を音を鳴らし歩いていく。その足取りからは怒り以外の感情も感じられる。
「ねえ、シャロン。君も一緒に戦おうよ?」
明るい声でシャロンに話しかけるのは、ダイヤだ。
「……」
シャロンはその言葉を無視して、歩を進める。
「まあ僕は君のような足並み揃えられない人を入れて大丈夫か、疑問があるんだけどね?」
穏やかなダイヤの言葉とは思えない台詞を聞き、シャロンが初めて振り返る。
「あ、ようやく反応してくれたね。シビルが困っているんだ。彼が本気でこの砦を守ろうとしているのは知っているだろう?」
「……知っているさ、それくらいはな。言われなくても私も戦う。善良な民を守るためにな。それに奴の力だけでもなんとかなるだろう?」
「僕もそう思うんだけどねえ。どうやら彼には僕たちには見えない未来が見えているみたいなんだ。そんな彼が君に熱烈にアプローチしているんだ。君も分かっているだろう? 彼の言うことを聞いた方が、勝率が高いことも」
「私は他の者の力なんて必要ない。私の力だけで守って見せる」
鋭い目つきでダイヤを睨みつける。
「彼の言うことを聞いた方が良い事は、否定しないんだね」
「下らない上げ足をとるな。そしてもう話しかけてくるな!」
シャロンは怒鳴り声をあげると、そのまま自室に戻っていった。
「強情だなあ……」
ダイヤは苦笑いをして、その様子を見守っていた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は外で叫び声をあげていた。俺の手には、引かれているランドールの弦。遂に、ランドールの弓を引くことに成功したのだ。
俺の目から涙が零れ落ちる。既にランドールを抱いて寝始めて二か月以上が経過していた。
「遂に俺を主として認めてくれたんだな! そうなんだな、ランドール!」
俺が涙目で顔を近づけると、全身に電流が流れる。
「あああああああああああああああ!」
いつもより強めの電流に、俺はバランスを崩す。そして再び弦を引こうとするも、再び引けなくなっていた。
「なぜ!? さっきまで引けていたのに!? へそを曲げたのか? あああああああああああああ」
余計なことを言ったせいか、再度電流を流される。ドSすぎますよ、ランドールさん。
「ごめん、嬉しすぎて調子に乗ってしまった。変な事言わないからもう許してくれ」
と真摯に弓に頭を下げる男。はたから見たら中々怖い。だが、誠意が伝わったのか、再び弦を引くことができるようになった。
「ランドールは魔法弓だから、矢は無くてもいいって聞いたけど、本当なのかね」
魔法弓には、矢が必要なタイプと、自分の魔力を使い矢を生み出せるタイプがある。ランドールはどちらもできるらしい。メーティスによると。
俺は魔法なんて使えないけど、大丈夫なんだろうか。矢をイメージするも出る気配が無い。やっぱり適正がないんだろうか。
「まあ、矢もあるし、これでいいか」
俺は矢を持つと、弓に矢を取りかけ的を見据える。集中しながら、弓を引き絞った。
今だ!
俺は指を放し、矢を放つ。矢には魔力が纏われているのが分かった。
矢は的から逸れて飛んでいく。
あ、やっぱ駄目か……。俺って、矢も上手くなかったんだよなあ、と飛んでいく矢を眺めていると、急に角度を変えて的の中心に突き刺さった。
「えっ? なに今の? 俺の隠れていた才能が?」
そう呟いた瞬間、再び電流が走る。
「あああああああああああああああ! 冗談だよ、ランドール。君がしてくれたんだろう?」
返事は無いがすぐに分かる。俺が下手したのを、ランドールが頑張ってくれたんだろう。
百発百中とはいかなくても、この精度が出せるのなら俺にもできることはあるだろう。なにより今日は中々の魔物とのバトルが控えている。
「行こうか、ランドール。君のお披露目会だ」
そう呟いた。
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