開かぬ心
その夜俺はいつものように、書庫へ向かう。通り道の訓練場の前ではいつもように大剣が空気を斬り裂く音が聞こえる。
「相変わらず、良い音だな」
俺は訓練場を覗く。真っ白な美しい大剣による剣技は、まるで物語の一ページのように神聖なものに見えた。思わず見惚れてしまう。俺にハイルのように剣聖のスキルがあれば、俺もあのような美しい剣技を披露できたのだろうか?
そうすれば、家族に追い出されることも無くロックウッド領を継ぐこともできたかもしれない、と感傷的な気持ちになってしまう。戦うのが怖い俺の考えとは思えない。深夜だからだろうか。
この心地良い音を聞きながら本を読みたい、と考え書庫から本を持ってきて端に座る。
シャロンはちらりとこちらを見るも、気にすることもなく剣を振るい続ける。
俺達は別に何かを話す訳も無く、ただその空間で自分達の好きなことをしていた。何か言われたわけではないのになぜかシャロンから、ここで本を読んでいいという許可を貰った気がした。
俺は何を考えているんだろう、と思いながらページをめくる。その日はとても読書が捗った。
『ここ一ヶ月以内に陥落の危険性のある襲撃はある?』
『ノー』
前回のグランクロコダイルの襲撃から定期的に確認している。だが、どうやら安全のようだ。
「心配するにこしたことはないよな?」
俺は誰に聞くまでも無くそう呟いた。
更に二か月が経過した。兵士の練度もだいぶん良くなった。ガルーラン砦はすぐに新兵が死んでしまうので、技術が定着する時間がなかったのもおおきいだろう。
ガルーラン砦の改築もだいぶん進み、なんとか砦としての体を成してきた。元々田舎の大工だったものもおり、土壁以外の壁もできてきた。少しダイヤは寂しそうだったが。
最近は朝食の時間も活気があり、皆も食事を楽しんでいる。
「おはよう、シャロン」
「……おはよう」
素気無く返すが、これでも大きな進歩なのだ。ようやく最近日常会話に返事が返ってくるようになった。二か月間、心を折らずに話しかけ続けた成果といえるだろう。あまりにもしつこいから、諦めているだけかもしれないけど。
「シャロン、今日こそ俺と一緒に戦ってくれないか?」
シャロンはそれを聞き、またその話か、と顔を顰める。そして大きく息を吐くと、俺の目を見据えた。
「シビル、なぜそんなにしつこいんだ。私が居なくても回っているだろう? 心配しなくても、魔物が出たら私も参加はする」
「俺の指揮下で戦って欲しいんだ」
「他の者でもいいだろう。土魔法の男の手でも借りればいい」
呆れたように言う。
「俺にはお前の力が必要なんだ、シャロン!」
朝の食堂にも関わらず熱烈な告白まがいのことをしてしまった。それを聞いたシャロンは怒りからか顔を僅かに赤く染めると、席を立って去っていった。
「まだ駄目か……」
俺は溜息を吐く。
「あいつは全く懐かねえなあ。誰にも心を開かねえ。あれじゃあいくら強くてもなあ」
おっさん兵士がぼやく。俺も何も反論できずに、ただ黙っていた。
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