出会うべき二人
翌日、宿から出た後、今後について考える。
商人か、冒険者か、どちらかで考えるとやはりスキルを活かしやすい商人になる。日に日に減っていく金は中々の恐怖だ。なんとかして稼がなければ。今後何しようか、とか考えられる者は、余裕のある者だけだと今更気付く。
「とりあえず、露店に行くか」
最悪、俺は字も読み書きできる。どこかの商人に弟子入りすることも考えよう。
朝は露店通りでも一番活気があるようで、先ほどから多くの人で賑わっていた。色々な場所で交渉が行われている。
「これはアルテミアの貴族が使っている食器だ。貴族御用達のクレミア工房で作られている。描かれている龍も見事だろう?」
「確かに綺麗ね」
目の前の露店でも今まさに交渉が行われていた。そのカップアンドソーサーを見つめていたのはまだ若い少女であった。
サファイアのような美しい青い髪が、肩にかからない程度のボブカットで整えている。綺麗でとても大きい青色の瞳に、整った目鼻立ちをしていた。
身長は百四十センチほど。まだ十代前半に見え、その活力に満ちた目は活発な美少女と表現するに相応しいだろう。
少女はそのカップを見て、うんうん唸っている。
『このカップは本物?』
『ノー』
どうやらクレミア工房で生産されているものではないらしい。こんな露店で貴族御用達の商品を手に入れる方が難しいだろう。
「この商品、買お――」
「ちょっと待って。オヤジさん、これ本当にクリミア工房の品かい?」
突然割り込む俺に、ほんの少しだけ顔を歪めるオヤジ。
「なんだい。本物に決まってんだろ! 本当なら100,000Gのとこ、50,000Gにまけてるくらいだ」
「そうかい。服を見ればわかると思うが、俺は貴族だ。それもアルテミアのな。クレミア工房のことは知ってる。いつも使ってるからな。だが、この絵柄は見たことがない。誰の作だい? 」
全てハッタリだ。クレミア工房なんてのも知らないし、正直食器の違いもそんな分からん。多少は良いのかどうか分かるくらいだ。だが、昨日の失敗で学んだことはある。商売ってのは、ハッタリが大事ということだ。
それを聞いたオヤジが目に見えるように狼狽える。
「うっ、貴族さんがなんでこんなとこに……。うーん、誰の作か忘れちまったなあ」
明らかに目を逸らす。
「まあ、長いこと置いてたら忘れてしまうのも無理はない。だが、有名な絵付師ではないのは確かだな。お嬢さん、今回はやめておいたらどうだ?」
正直にこれは偽物というのも角が立つ。遠回しにやめるように勧める。
「そうね、ごめんね。おやじさん」
俺の言いたいことを少女も理解したのだろう。購入を断念する。
「いや、いい。忘れちまった俺も悪いからな」
オヤジも気を遣われたことを気付いていたのか、素直に引いた。
少女を引き連れ、露店から離れる。
少女はある程度露店から距離を置くと、口を開く。
「助かったわ! まさか偽物だったなんて! まさか本物を知る貴族が偶然横に居るなんて、運が良かったわ」
こぼれるような笑顔で少女が礼を言う。
「すまん。貴族ってのはハッタリだ。あれが偽物なのは事実だがな」
「えっ!? 嘘なの!? まんまと信じちゃったよ……。じゃあなんで偽物ってわかったの? それとも実はあれ本物なの?」
なんでも信じる正直な子である。
「いや、あれはスキルで知ったんだ。だから、俺に詳しい知識がある訳じゃない」
それを聞いて少女は、首を傾げる。確かにこの説明じゃさっぱりだろう。
「もしかして『鑑定』スキル持ち?」
「いや、違う」
俺は自分のスキルを少女に伝えるか悩んだ。信じない者も多いし、スキルは他人にべらべら喋るものではないからだ。
『スキルのことを話していい?』
『イエス』
メーティスさんがそう言うなら、大丈夫だろうと俺は『神解』について話し始める。
彼女はやはり正直者なのか俺の言う謎の固有スキルについてもすぐに信じてくれた。
そして、聞き終わった後は大興奮で体を震わせている。
「素晴らしいスキルじゃない! そんなスキルがあれば商売ではもの凄いアドバンテージよ! 私は目利きは苦手だけど、売り込むのは得意なの! あなたの目利きと、私の販売力があれば、帝国一の商会になることも可能だわ! 私と手を組みましょう!」
彼女はキラキラした目で、手を伸ばす。俺は自分のスキルを全くの迷いも無く信じてくれる彼女に、少しだけ既に信頼していた。
彼女は信頼できる。メーティスに聞かずとも自分の勘が言っていた。
「よろしく頼む」
俺は彼女の手を取った。こうして、俺は彼女と手を組むことになった。
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