やばい奴じゃないんですよ、本当
夜、いつもの日課である書庫での読書に勤しんでいた。すると、珍しく書庫への扉が開く。ダイヤか?
だが、予想外の者が現れる。シャロンである。シャロンの目線の先は俺の読んでいる本に注がれる。初心者用の兵法の本だ。
やばい! 素人軍師であることがばれてしまう!
「なんで天才軍師様が、初心者用の兵法の本を読んでいるんだ?」
と突っ込まれる。思いっきりばれてる。バレバレである。シャロンが自分から話しかけてきたのは初めてだが、最初がこれとは……。
「俺ぐらいの軍師になると、たまには初心にかえるものさ。慣れると、基礎が疎かになるからね」
苦しいか? いや、でも理にかなっているはず? だよね?
「……そうか」
「ねえシャロン。君も共に戦ってくれないか? 砦を守るのには君の力も必要だ。君も国民を守りたいと思って軍に入ったんだろう?」
初めてまともに話せる機会がやってきたので、伝えてみる。しばし無言が流れた後、シャロンが口を開く。
「私は、自分が信頼できるという者にしか従わない。心配しなくても、戦いはする。だが、指図はうけない」
シャロンはそう言うと、部屋を去っていった。
「何しに来たんだ……あいつ」
俺は首を傾げる。どうやらまだまだシャロンの心が解けるのは時間がかかりそうだ。
それからさらに二週間が経過した。シャロンは相変わらずたまに夜中に書庫を訪れるも、会話はあまりない。
日中に話しかけてもほとんどが無視だ。けどお互いが、深夜に努力し合っていることを知っているため、彼女を責める気にもなれなかった。
食堂で朝食を食べているシャロンを見かける。
「シャロン、おはよう!」
「……」
「シャロン、おはよう! 元気か?」
「……」
「相変わらずいい剣持ってるな。いつから使ってるの?」
「五月蠅い」
挨拶を返すまで声をかけ続けたら遂に殴られてしまった。やりすぎたか。
「シビルって中々ガッツあるよね……」
ダイヤが呆れがちに言う。そうだろうか。
「白銀に未だにあそこまでがつがつ行くのはお前くらいなもんさ」
兵士の一人であるおっさんが言う。シャロンはあの美しい銀髪から白銀と呼ばれていた。
「いやー、全く成果はでてないんですけどね」
「あんだけ綺麗だから、若い者も皆最初は声をかけていたが、あの強さと愛想の無さに皆やられちまったよ。ランドールといい、お前さんは中々、マニアだねえ」
とおっさんが下世話な笑いを浮かべる。放っておいてくれ。このおっさんはこんな適当だが、この砦でおそらくシャロンの次に強い魔法剣士なのだ。ここで一年以上生きているのはこのおっさんだけらしいことからもそれが分かるだろう。
「最近毎日弓に話しかけているから、皆心配してるよ? シビル、疲れてるんじゃない?」
とダイヤも心配そうに尋ねてくる。
俺はランドールとの交流のため、肌身離さずランドールを持ち歩き、時には声をかけている。あまりの奇行に、兵士達もやばい者を見る目で俺を見ていた。
「だから、ランドールには意思があるんだって! これは交流なの!」
「そうはいっても、そんな武器聞いたことないよ?」
「いや、俺も無いけどさ……」
俺も返事が返ってこないから、疑わしい気持ちはある。が、俺はメーティスを信じている。未だに弦すら引けていないんだけどね。
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