シビル捜索隊
シビルの弟であるハイル・ロックウッドは部下を従え、デルクールに辿り着いていた。ハイルから見てもデルクールの惨状は酷いものだった。壁の一部が完全に破壊されており、周囲の家も破壊されている。
「帝国はここまで弱っているのか。すぐさま攻め入っても余裕で勝てそうだ」
と馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「魔物の群れにやられたそうですよ。確かグランクロコダイルに襲われたそうです」
ハイルもグランクロコダイルの名前くらいは聞いたことがあった。
「確かにB級は厄介かもしれんが、町を守る兵士たるもの、その程度は討伐せねばならんだろう」
「その通りです」
部下達とデルクールの兵士を馬鹿にしながら、町の堂々と練り歩く。
「あの臆病者は町の惨状を見るに死んでいるかもしれんなあ。手間が省けて丁度いいが」
「ハイル様、この町の領主はベッカー子爵というらしいです。面会し、情報を集めてはいかがですか?」
「そうするか。領主の屋敷に向かうぞ」
ハイルはベッカーの屋敷へ向かった。
高級そうな調度品が並ぶ応接間にハイルとベッカーが対峙していた。
「ハイルさん、こんにちは。町がこんな状況のため、ろくな歓迎もできずに申し訳ありません」
ベッカーは突然の訪問にも嫌な顔一つせずに穏やかそうに対応する。
「別に構いません。少し尋ねたくてここに来たのです。兄を探しています。名はシビルという」
その言葉を聞き、ベッカーの顔が変わる。
「シビルさんの弟さんでしたか! 良いお兄さんをお持ちですね」
ベッカーからすれば、町の恩人である。当然の言葉であった。だが、ハイルからすれば違う。
「いや、うちの愚兄です。ベッカー子爵があの臆病者を本当に知っているとは。何かやらかしましたか? 死んでいるのかだけでも、知りませんか?」
嘲るようなハイルの口調を聞き、ベッカーは眉を顰めた。二人の関係を察したのだ。シビルは一度も自分を貴族と名乗らなかった、何かあったに違いないと。
「いや、町が襲われた時に少し話しただけで、今後の行き先までは知りませんな。お役に立てずに申し訳ない」
そう言って、ベッカーが頭を下げる。
「本当に知らんのか? 隠し立てはためにならんぞ?」
ハイルの部下が睨みつける。だが、それに反応したのはベッカー家の騎士である。
「貴様、我が主を愚弄するのか!」
ベッカー家の騎士が柄に手をかける。
「やめておけ。うちの部下が失礼を。知らないようですので、これで失礼します。本日はお時間を取っていただき、ありがとうございます」
ハイルはそう言うと、頭を下げ館を去っていった。
「中々仲の悪そうな兄弟でしたね」
騎士が呟く。
「ああ。憎しみすら感じさせる態度だった。彼はもしかしたら、国を追われてここに来たのかもしれないね。勿体ないことをする」
「ロックウッド領は剛の貴族。戦闘系スキルでないため、当主争いに敗れたのかもしれません」
騎士の言葉を正鵠を射ていた。
「古いねえ、考えが。まあいい。シビル君の情報は漏らさないように。恩人に迷惑をかける訳にはいかないからね」
「はっ」
◇◇◇
ハイルは屋敷を出ると、不快そうなのを隠そうともしなかった。
「あの野郎、何か知ってやがったに違いない。あんなゴミ庇いやがって。だから雑魚如きに、ここまでボロボロにされるんだよ」
ハイルは苛立ちながら周囲の物に当たる。
「どうされますか?」
「あいつが知ってるくらいだ。どこかに情報はあるはずだ。調べ上げろ。おそらく生きてやがる」
「はっ!」
「必ず殺してやる……。次期当主は俺だ! 絶対にな……!」
ハイルがシビルへの殺意をむき出しにしている、すぐ側を通る女性の姿があった。
「もうー、生きてたなら私に一言くらいなにかあってもいいじゃない。あの馬鹿……。一言絶対言ってやるんだから」
嬉しそうにしながらも悪態をついていたのはネオンである。ネオンは、グランクロコダイル討伐後すぐさまデルクールに戻ってきた。勿論、シビルを心配してのことだ。
だが、ギルドで聞いたのは、なぜか軍に入るというよく分からない状況であった。
「あの馬鹿……戦えないくせに。大丈夫かな?」
心配そうにネオンは呟く。ネオンも、ハイルもシビルを探しているというのは同じであった。ただ、目的が大きく異なるが。
この二人が出会わなかったのは僥倖といえるだろう。こうして二人の者がシビルを探すために動き出していた。
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