初戦
その夜皆が寝ている時間に書庫へ向かう。
「ん? 何か音が聞こえるな。何かを振るう音?」
訓練場から音がする。だが、この砦にそんな熱心な者がいるのだろうか? 疑問を持ちつつ、訓練場を覗く。
するとそこには凄まじい集中力で流麗に大剣を振るうシャロンの姿があった。剣を振るわない俺でもわかるほど彼女の動きは洗練されていた。まるで舞をみているかのような動きに俺の目は奪われる。柄まで全て真っ白な大剣は彼女にとても良く似合っていた。
「あいつ、日中の訓練場には出ない癖に……」
俺はそういいつつも、微笑んでいた。彼女はどうやら中々意地っ張りらしい。俺は見ないふりをして、訓練場を去り書庫へ向かった。
そして遂に三日後、ラックボアの襲撃の日がやって来た。朝食後の朝礼で告げる。
「皆、今日の午後一時十一分。砦の西門に六体、東門に七体ラックボアが襲撃にやってくる! これは確かな情報だ!」
俺の言葉を聞いた兵士達がざわめき始める。
「十三体も!? 今度は何人死ぬんだ?」
「そもそもなぜそんなことが分かるんだ?」
「疑問に答えよう。俺がヨルバから派遣されたことは知っているな? それは俺のスキルが理由だ。俺のスキルは危機察知と未来予知を併せ持つ。魔物がいつ来るか、どこに来るかもわかっている。ここ三日間俺の改修作業に付き合ってくれた者も居たと思う。それは今日のためだ。俺は誰も死なせないためにここにやってきた! 俺を信じて、戦って欲しい」
俺の言葉を聞いた、兵士達から戸惑いを感じる。その沈黙を破ったのは同期の友だった。
「勿論! 僕らの役目は町を守ることだからね!」
ダイヤが立ち上がる。
「シビル君を信じて、皆戦うんじゃ! 今までの死人だらけのガルーラン砦とはもうお別れをする! そのために彼は来たんじゃ!」
司令官の爺さんも立ち上がり、叫ぶ。その言葉を聞き、他の者も立ち上がる。
「皆、準備を! 今日からこの砦は生まれ変わる。難攻不落の砦としてな!」
「「「おおー!」」」
兵士達が叫ぶ。俺にしては上出来だろう。
こうして、俺の軍人としての初戦が始まる。
昼までに魔物達のルートを説明する。
「皆、弓でここを狙って欲しい。ラックボアはここを通る」
一体一体の侵攻ルート全てに矢の雨を降らせるのだ。皆そこまで弓の実力がある訳では無い。そのため、全体二百人のうち半分である百人近くの兵士で十三体のラックボアに当たらせる。
皆、俺のスキルに半信半疑のようだが、話は聞いてくれる。天才軍師という肩書が効いているのだろう。そう思うと、ヨルバさんの援護はこれを予想していたのかもしれない。
シャロンは俺を信じていないのか、大剣を持ち待機している。
「机上の空論かもしれないが……やるしかないよな」
俺は手に汗を握りつつも、一切不安を顔に出しはしなかった。俺が不安がると、皆も不安だからだ。トップはいつも余裕綽々して部下達を安心させないといけない。
そして遂に、午後一時十一分が訪れる。
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